スチュワードシップ・コードと課題認識(日本)
わが国においては金融庁が日本版スチュワードシップ・コードを策定・運用している。いわゆるソフトローの領域に属するものであり法的拘束力はない。
また、受入れを表明した金融機関等であってもすべての項目を一律に遵守することは想定されていない。
とはいえ、遵守しない項目についてはその理由を十分に説明する必要が生じる(コンプライ・オア・エクスプレイン)。
かねて議決権行使助言会社は、機関投資家向けサービス提供者と位置付けられてスチュワードシップ・コードの対象になってきた。
2024年11月に開催された第2回スチュワードシップ・コードに関する有識者会議における事務局説明資料では、これに先立つ第1回有識者会議(同年10月)での主な意見として議決権行使助言会社について以下の通り記述されている。
・議決権行使助言会社について、対話の質に対する不満や、そもそも対話が行えず 評価に偏りがあるといった指摘が相次いでいる。
・議決権行使助言会社が、ROE水準など多くの形式的要件によって機械的に推奨判断を出していることが、企業に安易な自社株買いなどの対応に走らせるというような企業行動に大きなプレッシャーを与えているのではないか。
このような状況の下、2025年6月2日の金融庁「スチュワードシップ活動の実態に関する調査」の一部として議決権行使助言会社によるスチュワードシップ責任の遵守状況(原則8関連)が公表された。
まず総論として以下の2点を挙げている。
・コミュニケーションに関する企業側の認識との間にはギャップが存在。意見交換の頻度等を工夫することは継続的な課題である。
・顧客ごとの議決権行使基準に即したデータ提供の要請が増加していることを踏まえ、これに対応するためのロジックの確立や人員確保の必要性が高まっている。
また、この調査では議決権行使助言会社2社へのヒアリングに基づくスチュワードシップ・コード遵守状況が示されている。
そのうち1社に関しては対象企業との間で「人的・組織体制の認識に乖離が見られる」「企業との対話が必要な状況に対する認識に乖離が見られる」といった厳しい指摘がなされている。
最終的に2025年6月26日付の第三次改訂において、原則8における指針8-2が以下の通り改訂された。
(改訂前)
議決権行使助言会社は、運用機関に対し、個々の企業に関する正確な情報に基づく助言を行うため、日本に拠点を設置することを含め十分かつ適切な人的・組織的体制を整備すべきであり、透明性を図るため、それを含む助言策定プロセスを具体的に公表すべきである 。
↓
(改訂後)
議決権行使助言会社は、運用機関に対し、個々の企業に関する正確な情報に基づく助言を行うため、日本に拠点を設置することにより、企業を含む関係者との意思疎通を実効的に行うのに十分かつ適切な人的・組織的体制を整備すべきであり、透明性を図るため、それを含む助言策定プロセスを具体的に公表すべきである。
尚、第三次改訂の案は同年3月に公表され、経団連は同年4月にこれに対する意見を公表し、指針8-2改訂案(内容は上述の最終版と同じ)を肯定的に評価していた。
その冒頭では「議決権行使助言会社については、日本における人的・組織的体制の整備が不十分であることや、助言内容が画一的な基準の適用に基づいた形式的なものに留まっているとの意見が多く聞かれる」との課題認識を示した。
さらに末尾では「改正による十分な効果が発揮されなければ、更なる指針の見直しや、議決権行使助言会社への法規制を検討すべきである」として、今後の動向次第ではいわゆるハードローによる規制への移行も視野に入れた提言で結んでいる。その課題認識の強さがうかがえる。
さて、第三次改訂版スチュワードシップ・コードを受け入れている金融機関等は同年末時点で350に及び、その中には議決権行使助言会社であるISSとGLも含まれている。
それでもスチュワードシップ・コードの受入れ、あるいはソフトローで議決権行使助言会社への実効的な監督がなされていると判断できるかは議論のあるところであり、一般メディアでも取り上げられてきた。
上述のスチュワードシップ・コード第三次改訂からわずか半年経過後の同年12月、経団連が政府に対し議決権行使助言会社の規制を検討するよう改めて提言したことは、ソフトローでの監督ではやはり不十分との意識の現れと言えよう。