試行段階の到達点と制度的特徴
中国の介護保険制度は、2016年に15都市で試行が開始された。その後、対象地域は段階的に拡大し、2020年には49地域、さらに2025年末時点では92地域へと拡大している。
加入者は2025年末時点で3億800万人(16歳以上人口のおよそ26%)、受給者は333万人に達しており、制度は一定の広がりを見せている。
この試行過程において、中国は全国一律の制度導入ではなく、地方ごとに制度設計を行う方法を採用してきた点に特徴がある。
もっとも、約10年にわたり合計92地域で試行を重ねる中で、制度運営上の課題も次第に明らかとなってきた。
第一に、財源の確保が不安定である点である。
多くの地域では、公的医療保険の積立金の余剰部分を転用する形で制度が運営されており、独立した保険制度としての財政基盤は十分に確立されていない。
その結果、医療保険制度への財政面での依存が強く、制度の持続可能性に対する懸念が指摘されていた。
第二に、制度設計の地域差に起因する受給格差である。
各地域が財政状況や高齢化の進展度合いに応じて制度を設計してきたことから、制度の柔軟性が確保された一方で、地域間の差異が拡大する結果となった。
例えば、提供されるサービスの内容や範囲は地域ごとに異なり、現物給付を中心とする地域がある一方で、一部に現金給付を併用する地域も存在する。
また、自己負担割合にも大きな地域差がみられる。
第三に、要介護認定の基準や評価方法が統一されていない点である。
民政部が国として一定の枠組みを示しているものの、各地方政府や事業者が独自の認定基準を併用しているため、全国一律とは言えない状況にある。
その結果、同程度の要介護状態にある高齢者であっても、居住地域によって認定区分や受給の可否、給付水準に差が生じるなど、公平性の観点から課題が指摘されている。
さらに、評価項目や判定プロセスの違いは制度の透明性や信頼性の低下を招き、被保険者の制度理解や利用意欲にも影響を及ぼし得る。
加えて、認定基準のばらつきは地域間比較や政策評価を困難にし、制度の高度化を阻害する要因ともなっている。
以上のように、中国の介護保険制度は試行を通じて一定の制度基盤を形成してきたものの、財政基盤の脆弱性や地域間格差、制度運用の非統一性といった課題が顕在化している。
こうした状況を踏まえると、同制度は試行段階を経て、全国導入に向けた一定の整備が求められる段階に至っていた。