(ブルームバーグ):イランのミサイル在庫が大きく減少したと報じられ、米国とイスラエルは、当初のように大量の迎撃ミサイルを一斉発射するのではなく、飛来する攻撃1件につき地対空誘導弾パトリオットを1、2発発射する運用に切り替えているという。つまり双方とも弾薬不足に直面している。
しかし、長期的に懸念すべきは、米国が持つ別の「武器」の枯渇、いや、枯渇というより消耗だ。それは単なるハードウエアよりも重要だと考えられる。つまり、戦争や平和、その他あらゆる問題について米国の大統領が世界に語る内容が真実だという信頼だ。
事態は重大な局面を迎えている。トランプ米大統領はイランと有望な協議を進めていると主張する一方、イラン側はこれを否定しており、世界はどちらの説明を受け入れるべきか確信を持てずにいる。またトランプ氏が戦争に「ほぼ勝利した」と述べても、それが新たな米軍の爆撃、地上侵攻、あるいは停戦の前触れなのか、誰にも分からない。
歴史を通じて、各国の政府が時に虚偽を述べてきたことは確かで、とりわけ戦時には顕著だ。ナポレオン軍の兵士たちの間では、敗戦が続き始めたころ、「公報のようにうそをつけ」という決まり文句が広がった。彼らはパリからの公式発表を信じなくなっていた。
ロシアを2世紀前に訪れた人々は、現地にまん延していたうそがまかり通る風潮を嘆いていた。そうした傾向は、現代の指導層にも残っている。第2次世界大戦初期、英政府は自軍の屈辱的敗北を強弁でごまかすことが次第に難しくなっていった。
プロパガンダ
当時も現在も、大国が信頼を失うことの重要性が薄れるわけではない。トランプ政権下の米国がまさにそうだ。戦時に全ての真実を語ることは不可能だが、「味方」が敵よりも信頼できると見なされることには大きな価値がある。
欧州の米同盟国のほとんどは、トランプ氏が戦争開始の正当化の柱として掲げたイランによる核開発がイスラエルや西側に差し迫った脅威だったという主張を信じていない。
第2次大戦中に英国に上陸した全ての米兵に配布された米戦争省刊行の小冊子を改めて読んでみた。その中には次のような教訓がある。「われわれは自らの武器で、ヒトラーのプロパガンダに打ち勝てる。それは率直で常識的な判断力、そして明白な真実の理解だ」。
同様に、当時のチャーチル英首相と閣僚たちは、自分たちの最も強力な道具の一つが、真実を伝えることで知られた英国放送協会(BBC)だと認識していた。
多くの米国人が抱くイメージに反し、BBCは国営組織ではなく、受信料で運営される独立した法人だ。第2次大戦中、占領下の欧州では何百万人もの人々が、自由を危険にさらしてでもBBCのニュースを聞こうとした。ドイツの探知車により聴取が発覚すれば、収容所への強制移送が待っていた。
正確無比な語り口のBBCアナウンサーが番組冒頭で発した言葉「こちらロンドンです」は、世界中に響き渡った。第2次大戦が終わった1945年以降もBBCを聴く習慣は続いた。特にアフリカや中東、アジアの一部では、現在でも数千万人が自国の政府によって厳しく検閲された国内ニュースよりもBBCの外国語放送を好んで聴いている。
ボイス・オブ・アメリカ(VOA)は、BBCほど権威や中立性があるとの評価には至っていないが、それでも有用かつ影響力のある存在だ。
英米両政府はしばしばBBCやVOAの報道内容を厳しく批判してきた。チャーチル氏はBBCの不忠を非難することもあり、1982年のフォークランド紛争時は当時のサッチャー英首相がその過度な中立性を嘆いた。
しかし英国では、どの政権もBBCに対して不満を述べる以上の行動に踏み込んだことはない。チャーチル氏を含む政治家たちは、その信頼性という無形資産の価値を理解していた。
ナチスはこれとは対照的な手法を採り、ウィリアム・ジョイスというアイルランド系米国人のファシストを使って英国民に向けたプロパガンダ放送を行った。彼はベルリンから連日うそを流し続け、その嘲笑的な語り口から英国では「ホーホー卿」と呼ばれた。
ベルリンからの放送には次のような虚偽に基づくあざけりが含まれていた。「首相に尋ねるがいい、英空母イラストリアスはどこにあるのかと。教えてやろう。イラストリアスは海底にあり、乗組員は他の多くの英国艦と共に魚の餌になっている。ドイツの魚雷が彼らを皆、魚の餌にしているのだ!」。
こうした勝ち誇ったトーンは、トランプ政権のヘグセス国防長官が米軍の爆撃下にあるイラン人の運命を語る際の口調とどこか似ている。
だが敵の墓の上で踊り、自らの成功を誇張しても、それが人々に感銘を与えるかどうかは疑わしい。英国人はやがてホーホー卿の荒唐無稽な話を楽しむようになり、気晴らしにもなっていたが、それでも1946年に彼を絞首刑に処した。
「決断の時」
トランプ氏は明白な虚偽を広めながら、真実を伝える機関を攻撃している。例えば、テヘランの学校を誤爆したとされるミサイルがイランのものだったという主張だ。
また同氏はVOAの閉鎖を図り、BBCに対してはフロリダ州の裁判所で数十億ドル規模の訴訟を起こしている。さらに、トランプ氏の側近であるカー米連邦通信委員会(FCC)委員長は戦争に関する政権による虚構の説明を放送しない米国内メディアの免許を取り消すと威嚇している。
トランプ氏による真実への攻撃は、1917年に英誌パンチに掲載された風刺画を思い起こさせる。そこではドイツ皇帝ヴィルヘルム2世が英国の新聞の一面を見て激怒し、「これほど忌まわしい、意図的な真実の寄せ集めは見たことがない!」と言っている。
ホワイトハウスの擁護者たちは、少なくとも内々には、今や世界は「ポストトゥルース」、つまり真実が終わった時代にあると主張するだろう。つまり、MAGA(米国を再び偉大に)派は、リーダーから真実を告げられることを期待しておらず、虚偽を述べられても気にしないという考え方だ。
フロリダ州のある女性は2月、「トランプの言うことが本当かどうかなんて、誰が気にするの?」と英国の記者に語った。それでも女性はトランプ氏を支持していた。
こうした人々は、米国の地位がどれほど低下したかに気付いていない。だが、これは極めて重大な問題で、現在やトランプ氏の任期中だけでなく、米国の未来に関わる。
米国がライバル関係にある超大国とモラル面で見分けがつかない振る舞いをするのであれば、外国が米国ではなく中国やロシアをパートナーとして選ばない理由はない。
約2世紀前に「全ての人と国家には、決断の時が訪れる」と書いたのはニューイングランドの詩人ジェームズ・ラッセル・ローウェルだ。「真実と虚偽の争いにおいて、善と悪のどちらに立つのか」が問われると続けている。
どれほど豊かで支配的な国であっても、軍事力と経済力の優位が永遠に続くと信じ、それだけで覇権を維持できると考えるのは極めて危険だ。
特に欧州において、米国はもはや信頼に値する存在とは見なされていない。1942年の米兵向け小冊子を再び引用すれば、「同盟国を批判することは軍事的に愚かだ」。
超大国であっても友人は必要だが、ワシントンから繰り返し侮辱を受けた後では、米国の指導者を心から尊敬し、その発言を信じる国はほとんど残っていない。
真実は単なる美徳ではない。武器でもある。にもかかわらず、トランプ政権は銃撃戦のさなかに、自らの手でそれを壊してしまった。この戦争に正当性や理由を見いだす者は、イスラエルを除けばほとんどいない。
(マックス・ヘイスティングス氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。著書には「ヴェトナム:壮大な悲劇 1945-1975」などがあります。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:America Is Depleting a Bigger Weapon Than Missiles: Max Hastings(抜粋)
もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
©2026 Bloomberg L.P.