(ブルームバーグ):人工知能(AI)悲観論者が一般的に懸念するのは、大量失業や殺人ロボットがもたらす近未来だ。
しかし、欧州の研究者グループは、それほど陰惨ではない一方で、より現実味のある破滅シナリオを発表した。AIの進展と地政学の展開によって欧州大陸が「存在感を失う方向へと滑り落ちる」未来を描くものだ。
「ヨーロッパ2031」は、中編SF小説の形式で語られる警鐘であり、行動を促す呼びかけでもある。
物語は、ベルギーの首都ブリュッセルで働くフランス人の政策スタッフと、米カリフォルニア在住のドイツ人起業家という2人の架空の人物を追いながら、今後5年間にAIを巡って展開する想像上の力学を描く。
このフィクションでは、欧州は最先端AIモデルへのアクセスを失い、止めようのないサイバー攻撃に苦しみ、巨額の債務を抱え、反テクノロジーを掲げる過激な政治勢力の台頭を目の当たりにする。
こうした運命を回避するためには、欧州はここ80年で「最も野心的な政治アジェンダ」を採用し、データセンターや半導体、ロボティクスなどへ大規模投資を行わなければならないと著者らは主張する。
今すぐ着手しなければ、欧州は自らの未来を形づくる能力を失う。経済的にも政治的にも周縁化され、防衛できない価値観、維持できない社会福祉制度、対処できないリスク、そして結束を保てない連合を抱えることになる。
このテーマを論じる手法として巧みだが、新しい懸念ではない。
AIスタートアップ大手の米アンソロピックが先月、1回の資金調達ラウンドで650億ドル(約10兆4000億円)を調達した際、これは2025年に欧州のスタートアップ全体が調達した資金総額とほぼ同じだと指摘された。テクノロジー専門メディアの「Sifted」は「欧州はもう終わりなのか?」と問いかけた。
2022年終盤に米OpenAIの対話型AI「ChatGPT」が登場して以来、欧州の政府関係者や企業経営者は、域内独自のAIモデルとインフラを構築する必要性を繰り返し訴えてきた。その中には、可能であれば米国のテクノロジー企業を完全に排除すべきだと考える人々もいた。
しかし、ヨーロッパ2031の執筆陣はそうした考えに同意しない。彼らが目指すのは、シリコンバレーへの全面依存と完全な自立路線との中間だ。
共同執筆者でグーグル「ディープマインド」のオランダ人研究者、ミヒール・バッカー氏は、「非常に難しいバランスだ」と述べ、「どちらの極端な選択肢もかなり問題がある」との見方を示した。
この物語は、労働法制の改革や、カナダや日本、韓国など「中堅国」との連携といった政策提言も示している。テクノロジー面では、状況が悪化した場合に米国のAI企業(あるいは政権)に対する「交渉力」を生み出す資産を活用すべきだと研究者らは呼びかける。
その例として、世界で最も高度な半導体製造装置を手がけるオランダのASMLや、欧州の産業基盤を支える企業群が生み出すリアル世界のデータを挙げている。
後者は、ロボティクスとAIの次の段階で重要になる「重大なボトルネック」の1つだと、共同執筆者で欧州のベンチャーキャピタル、ビジョナリーズ・クラブのゼネラルパートナー、ジュディス・ダダ氏はブルームバーグテレビジョンで語った。

もちろん、ダダ氏のファンドは「Lovable」や「Black Forest Labs」などのAIスタートアップに投資しており、これらの企業は業界への資金流入拡大や大西洋をまたぐ事業展開から恩恵を受ける。
バッカー氏は米マサチューセッツ工科大学(MIT)の助教で、グーグルでも働いている。残る5人の著者は欧州のシンクタンクに所属している。
彼らの未来像は、AIが経済にもたらす変革的な可能性に関する楽観的な予測に基づいているが、それはまだ実証されていない。
物語では、架空の米AI大手企業が2030年に13兆ドルの企業価値に到達するが、これは現在の過熱した市場環境を考慮してもかなり大胆な想定だ。
それでも、彼らが描くSF的な場面の多くには既視感がある。米国がASMLに対し、中国の「華為技術(ファーウェイ)を締め上げるために使ったのと同じ手段」を用いて対中販売の停止を2028年までに迫ると想定。ホワイトハウスが米エヌビディアの半導体供給を振り分けようとしてきたのと同様に、米国が2029年までに国ごとにランク分けしてAIモデルの利用許可を与える世界になるとしている。
アクセスの遅延はすでに起きているとバッカー氏は言う。同氏によれば、アンソロピックは「Mythos(ミュトス)」モデルを米政府や一部の米企業に提供した数週間後になってから欧州へ投入したという。
「欧州は交渉のテーブルに着けるのか」とバッカー氏は問いかける。「3年後あるいは4年後に、最先端モデルへのアクセスを確保できているのか」と話す同氏はその答えを持っていない。
このSF作品がどのような結末を迎えるかは明かさない。しかし最後まで読んだとしても、どんでん返しを期待し過ぎない方がよい。
(この記事は、テクノロジー業界のビジネスを世界中のブルームバーグ記者が掘り下げて伝えるニュースレター「Tech In Depth」からの抜粋です)
原題:AI Doomers See Europe Sliding Into ‘Irrelevance’: Tech In Depth(抜粋)
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