SNSは分断を助長しがちだが、人々を結び付ける現象も生まれている。米国の「X(旧ツイッター)」ユーザーたちが、インターネットに残された最後の未開拓領域の一つとも言える世界の楽しさを知り始めている。

米国に住むXユーザーに最近、日本語の投稿が大量に表示された。人工知能(AI)による自動翻訳とフィード生成アルゴリズムの変更が重なった結果とみられる。Xの二大市場が交差するまれな出来事で、つい最近までは考えられなかったような交流だ。

きっかけは、日米双方に共通する関心、すなわち肉を焼くことだった。米海軍基地のある佐世保の日本人ユーザーが、焼肉店でベーコンを焼いて盛り上がる米兵のイラストを投稿した。住民らがこうしたクールで楽しい隣人と共に暮らしていることを伝える意図だった。

その後、実際に米国人がバーベキューをする写真も投稿され、世界的な注目を集めた。閲覧数は5000万回近くに達し、太平洋の両側から心温まる投稿が相次いだ。

AI生成の画像では、カウボーイと侍が一緒にグリルを囲み、ゴジラがハクトウワシと共演する様子も共有された。米国人が所有する日本製の軽トラックを自慢する写真や、日本人が米国で射撃を楽しむ投稿もあった。

米国ではここ数年、日本発コンテンツの人気が高まっているが、今回の現象はアニメに強い関心を持つ層にとどまらず、幅広い人々に広がった。

欧州で対米批判が強まり、一部の米国人が中国式の生活スタイルに関心を向ける中で、太平洋を挟んだ同盟国の市民同士が日常的な関心でつながる様子は、思いがけない温かみを感じさせた。

もろ刃の剣

米国のユーザーは今、インターネットに残る数少ない秘境かもしれない日本のX文化に魅力を見いだしつつある。あるユーザーは日本の投稿群を「このアプリで経験した中で最大のプロダクト改善かもしれない」と評した。Xのプロダクト責任者ニキータ・ビア氏によれば、日次アクティブユーザー数が最も多い国が日本だ。

多くの点で、Xは日本に適したSNSだ。2011年の東日本大震災後、日本ではリアルタイムで情報共有できる手段として広く受け入れられた。日本語は英語より情報密度が高く、当初の140文字制限でも表現上の制約は小さかった。「フェイスブック」などが実名登録を促す中、ツイッターは匿名・仮名の利用を受け入れ、日本人ユーザーの慣習に合致した。

日本ではXの「認証バッジ」へのこだわりは比較的弱く、欧米のようにエリート層が執着する対象にもならなかった。イーロン・マスク氏によるツイッター買収後、米国の政治や文化戦争を巡る分断的な英語コンテンツが増幅される中でも、日本語のフィードは大きな影響を受けなかった。

買収への反発も限定的で、一般ユーザーや公式アカウントが「ブルースカイ」や「マストドン」などの他のSNSに大量に移行することもなかった。

マスク氏による買収に伴い、多くのジャーナリストはXを去ったが、筆者はアカウントを残した。その大きな理由もここにある。Xには、閲覧数稼ぎを狙って人気投稿に中身の乏しい返信を繰り返す低品質アカウント、いわゆる「インプレゾンビ」の問題があるが、「いいね」などのエンゲージメント(反応)狙いのこうした海外アカウントは、言語や文化の壁に阻まれて広がりにくかった。

また、他のオンライン空間と同様に人種などに関し差別的な投稿も存在するものの、英語圏でのSNSと異なり、ジョークやミームを含め日常の心温まる断片の供給源であり続けている。

ビア氏が「史上最大の文化交流」と呼んだ現象が、このまま続くことを期待したい。バーベキューのミームに隠れがちだが、AI翻訳の重要性は大きい。異なる言語を話すユーザー同士が、それぞれの言語のままほぼリアルタイムで意思疎通し、理解し合えるようになりつつある。

「言語の壁を越えたインターネット」への第一歩であり、人々の交流の在り方を根本から変えるかもしれない。XのAIアシスタント「Grok」の翻訳には依然として誤りもあり、最近では高市早苗首相を野田佳彦元首相と誤訳し、日本のユーザーを困惑させたが、こうした間違いは例外になりつつある。

もっとも、言語の壁がなくなることは、もろ刃の剣だ。日本のツイッターは文化戦争や海外ボットによる操作からある程度守られてきたことで、政治的言説は比較的健全に保たれてきた。

しかし、すでに2月の総選挙が海外からの影響工作の標的となっており、高品質な翻訳のコストがゼロに近づくにつれ、リスクは一段と高まる。

さらに、オンラインコミュニティーに外部から大量の新規参加者が流入すること自体のリスクもある。古参のネットユーザーは「エターナルセプテンバー(永遠の9月)」と呼ばれる現象を知っている。それは、初期のインターネットに新規利用者が絶え間なく流入し、一部の人々から見て、ネットカルチャーの質が損なわれた転換点だ。

1990年代前半のネットに戻りたいわけではないが、テクノロジーの進歩にもかかわらず、10年以上前の方が居心地が良かったと感じる人は少なくない。日本のXがより広いネット空間と接続されることで「劣化」が進むかもしれない。

グリル料理への共通の愛は、少なくとも一時的に世界を身近なものにした。しかし同時に、インターネットの一角を希少なまま保つことを難しくした可能性もある。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Japanese X Is America’s Favorite Internet Space: Gearoid Reidy(抜粋)

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