(ブルームバーグ):ベッセント米財務長官は、金融市場におけるこれまでで最大級の試練に直面している。指標となる米10年債利回りの上昇基調が続き、景気への逆風となる中、有効な打開策は限られている。
元ヘッジファンドマネジャーのベッセント氏は就任以来、米国債や株式から日本円、アルゼンチン・ペソに至るまで、市場の急激な変動を抑える手腕で評価を得てきた。
モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントの債券担当幹部、ビシャル・カンドゥジャ氏は、ベッセント氏を市場の変動率低下に賭ける「ボラティリティーの売り手」と評する1人だ。一方、トランプ米大統領は昨年10月、「彼は市場を落ち着かせる」とより端的に表現していた。
31兆ドル(約4900兆円)規模の米国債市場は、12週間前にトランプ氏が対イラン戦争に踏み切って以降、エネルギーコスト急騰とインフレ圧力の高まりを背景に、落ち着きを欠いている。ベッセント氏が主要な市場指標として重視する10年債利回りは、この期間に0.5ポイント超上昇。30年債利回りは先週、2007年以来の高水準を付けた。

2025年4月に米国債が急落した際、ベッセント氏は当局が対応を迫られる状況には「まだ程遠い」としつつ、「投入可能な大きなツールキット(道具箱)がわれわれにはある」と発言。既発国債の買い戻し拡大などを選択肢として挙げていた。
市場関係者の間では、超長期国債の発行額減額も別の選択肢として指摘されている。ただ、次回の国債発行計画の定例見直しは8月5日まで予定されておらず、米連邦準備制度理事会(FRB)の緊急会合に似た前倒し措置に踏み切れば、財務省が市場を深刻に懸念しているとの受け止めが広がり、投資家をかえって動揺させるリスクがある。
「特効薬」なし
DWSアメリカズの債券部門責任者、ジョージ・カトランボーン氏は「債券市場は、イランで戦争が起きているという現実を改めて認識し、それを織り込んで厳しい反応を示し始めている」と分析する。「ベッセント氏に特効薬があるとは思えない」と述べた。
10年債利回りが対イラン戦争前の水準に戻る可能性があるとすれば、紛争解決によってエネルギー供給網が正常化するか、景気減速の兆候を受けて市場がFRBの利下げを織り込む場合に限られるだろうと、カトランボーン氏は指摘した。
米財務省は、ベッセント氏が利回り上昇への対応策を検討する条件について、コメント要請に応じなかった。
ベッセント氏はこれまで、別の市場混乱への対応でも柔軟な発想を示してきた。1月には、ドルに対する円安進行を食い止めるため、いわゆる「レートチェック」を承認し、ベテランの日本人トレーダーすらも驚かせた。元日銀為替課長で、10-11年の為替介入時に実務を担当した竹内淳氏は「おそらくマーケットにいる誰も米国による円のレートチェックなんて聞いたことがないと思う。非常に大きな効果を発揮した」とし、「私のときは選択肢としても考えなかった」と語った。
ベッセント財務長官は昨年10月にも、アルゼンチン向け通貨スワップを主導し、多くの市場関係者を驚かせた。この対応は最終的にペソ支援につながった。
さらに最近では、3月に原油スポット価格が急騰した際、財務省が原油先物市場への介入の可能性を協議したと報じられた。ベッセント氏は口先介入も活用している。トランプ氏が2025年4月に「解放の日」と呼んで大幅な関税引き上げを発表し、米国債が急落した局面では、これを「正常なデレバレッジ」に過ぎないと説明し、市場の沈静化を図った。
NWIマネジメントの最高投資責任者(CIO)で、ウォール街で50年の経験を持つハリ・ハリハラン氏は、「彼のこれまでの対応を見ると、市場の動きを的確につかんでいることに感心させられる」と語った。また、「市場混乱がどこへ波及するかを見極める感覚に優れている」と評価した。
前出のモルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのカンドゥジャ氏は、「結局のところ、彼の仕事は世界の投資家に売る必要がある資産のボラティリティーを抑えることだ」と述べた。
「一時的」な動き
米国債の下落は、2週間前に発表された米消費者物価指数(CPI)が2023年以来の大幅な伸びとなったことを受けて加速した。米国とイランの紛争終結に向けた合意期待を背景に、先週にはやや持ち直したものの、利回りはなおCPI発表前の水準を上回っている。
ベッセント氏は5月12日、利回り上昇について「一時的」な動きとの見方を示し、イラン紛争が終結すればインフレ懸念は速やかに後退すると主張していた。
もっとも、インフレ率は戦争前の時点で既にFRBの2%目標を大きく上回っており、投資家の間では財政懸念も最近の市場変動の一因として意識されている。米財政赤字は昨年縮小したものの、国防支出増加や関税収入の純減を背景に、今年は再び拡大する見通しだ。
また、ウォーシュFRB新議長は利下げ寄りとFRBウォッチャーの間ではみられているが、FRB当局者の大半は4月会合時点で、インフレ率が2%を持続的に上回る場合には利上げ検討の必要性が生じる可能性を見込んでいた。
「ベッセント・プット」
ベッセント氏は昨年1月に財務長官に就任して以降、一貫して10年債利回りを重視する姿勢を示し、その低下を望んでいることを明確にしてきた。利回り上昇は住宅ローン金利の高止まりを通じて住宅市場の重荷となっている。
JPモルガン・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、プリヤ・ミスラ氏は「『ベッセント・プット』とは、財務省が国債発行を短期ゾーン(短期債)にシフトするとの見方を指す」と説明した。その上で、「財政赤字拡大の見通しに加え、エネルギー価格ショックが続く中ではFRBが利下げに動く可能性は低く、こうした対応は容易ではない」と続けた。
ドイツ銀行の金利ストラテジスト、スティーブン・ゼン氏は、ベッセント氏が昨年言及した財務省の国債買い戻しプログラムについて、市場混乱への対応を目的に設計されたものではないと指摘。「利回り低下を目的に活用されるとは考えにくい」と述べた。結局のところ、「財務省の選択肢はかなり限られている」と付け加えた。
原題:Bessent Has Limited Options to Halt Climb in Treasury Yields(抜粋)
(19段落目を追加し、更新します)
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