(ブルームバーグ):戦争開始以降にイランは最高幹部を次々と失い、各地の重要拠点がイスラエルと米国の攻撃を受けた。だが、1カ月にわたる戦闘で戦略的勝利を収めたのは、むしろイランだと言える。海上輸送の要衝であるホルムズ海峡の支配力を強めることができたためだ。
戦争が始まって丸1カ月が経った時点で、ホルムズ海峡を通過した船舶は往復合わせて1日平均6隻でしかない。ブルームバーグがまとめた船舶追跡データによると、平時は1日平均で135隻前後が通過していた。
しかも、この期間中に通過した船舶の8割はイランか、同国と友好関係にある国の船舶だった。
海峡周辺ではジャミング(電波妨害)で船舶追跡システムが混乱し、一部の船舶はトランスポンダーを無効にしているため、追跡データの即時性と精度が影響を受けている。
それでもなお、イランの海峡支配力が強まっている兆しは至る所に見られる。海峡を現在通過する船舶のほぼすべてが、オマーン側ではなくイラン沿岸近くを通るイランが承認した航路をとり、安全な通過を求める協議を経た後に海峡に入ることが多い。
過去数日ではマレーシアとタイが、ペルシャ湾内で足止めされていたタンカーの通過についてイランと二国間の合意に至ったと報告した。
「石油タンカーにとって、ホルムズ海峡は依然として閉ざされた門だ」と、オイル・ブローカレッジのグローバル海運調査責任者アヌープ・シン氏は指摘し、停戦以外に早期の問題解決はないだろうとの見方を示した。「たとえ停戦が成立するとしても、ホルムズ海峡の通航が速やかに戻るわけではない。石油取引会社、製油業者、サプライチェーンの関係者が状況に適応する必要がある」とも付け加えた。
イランは現在、通航料を導入する法律の制定を準備している。制定されれば、海峡通過を希望する船舶は詳細な情報の提供と、通航料の支払いを義務づけられる。
既に仲介業者を通じて積み荷や乗組員のリスト提出をタンカーは要請され、支払いを求められる場合もあると複数の船主は報告しており、それが制度化される格好になる。直近ではジャミングが一部で弱まり始めたが、恐らく海峡の管理を正常化して航行を容易にする動きの一部だ。
国連海洋法条約は、ホルムズ海峡を含む国際的に重要な水路の通航権が認められている。だが、イランも米国も同条約を正式に批准していない。
イランは戦争終結に向け米国に提示した5つの条件の1つとして、ホルムズ海峡の主権を要求した。
2月末に米国とイスラエルが攻撃を開始するとすぐさま、イランはホルムズ海峡の支配を宣言し、米国船舶のペルシャ湾進入は全て許さないと警告した。3月上旬には米国と明確な関係のない4隻が飛翔体により損傷し、少なくとも3人の死者が発生。乗組員や船主、保険会社の間に動揺が広がった。
それ以来、世界最強の軍事力を持つ2国を相手に戦うイランにとって、ホルムズ海峡の事実上の封鎖は極めて効果的な非対称兵器であることが実証された。海峡封鎖でイランは世界のエネルギー市場に直接的な影響を与え、甚大な経済的打撃を与えることが可能になった。米国は保険の支援や海軍による護衛などの選択肢を検討してはいるが、対抗策を打ち出せずにいる。
ブルームバーグがまとめたデータによると、3月に入ってからホルムズ海峡を通過した110隻のうち、36%強は制裁対象のイラン船、あるいはイランのために運航するいわゆる「影の船団」だった。石油タンカーに限って言えば、通過した35隻のうち21隻がイランと直接的な関係を持ち、残り大部分もイランと友好関係を持つ国が最終目的地だった。
今回の戦争以前には、イランがホルムズ海峡の封鎖を試みることはないだろうと長らく考えられてきた。封鎖すれば、イランは自国経済の生命線である輸出をリスクにさらすことになるからだ。
だが、他国の船が海峡の両側で立ち往生し、他の産油国が代替ルート確保に躍起となる中でも、ほぼ全てが中国に向かうイランの石油供給に変わりはないことを船舶追跡データは示唆する。
海上輸送データ分析企業ケプラーのデータによると、3月26日時点でイランの同月の原油輸出は日量約180万バレルで、2025年の平均をおよそ8%近く上回っていた。これによりイランは数億ドルの石油収入を得た公算が大きいと、ブルームバーグ・ニュースは分析する。
対照的に、ペルシャ湾の奥に位置するイラクの同月の石油輸出量は、2025年の水準と比較して80%以上減少した。サウジアラビアはホルムズ海峡を回避するため紅海沿岸に向かう石油パイプラインをフル稼働させているが、3月の輸出量は25%余り下回っている。
原題:Iran’s Grip on Hormuz Is Tighter Than Ever After a Month of War(抜粋)
(チャートを加えて更新します)
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