(ブルームバーグ):テレビ時代最初の戦争となったベトナム戦争からすでに半世紀余りが過ぎた。当時は、報道関係者が戦場をほぼ自由に取材することができた。
それ以後、報道の自由に対する制約は強まってきた。米国とイスラエルによる対イラン戦争はソーシャルメディア時代において米国が関与する初の大規模軍事衝突となったが、世界は情報の「ブラックボックス」に直面している。
イランではインターネットが遮断されている。イラン政府の反撃に追われる湾岸諸国では、攻撃による被害の撮影が禁止され、命令に従わない人々が多数逮捕されている。
パレスチナ自治区ガザでの報道規制強化に続き、イスラエルは軍事検閲官の下で規制を拡大し、イランとレバノンの二正面で戦闘を続けている。
米国では、トランプ大統領が自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」上で矛盾したコメントを繰り返す一方、ヘグセス国防長官は、戦況に疑問を呈する「不誠実で反トランプ的な報道機関」を攻撃している。
その結果、交戦当事者と各軍が情報をほぼ独占する中、紛争地域で何が起きているのかをリアルタイムで報じることは困難になっている。
検証可能な事実が乏しい中で、各国の一般市民にとって、多数の死者を出し、世界経済に打撃を与え、国際的な不安定性を高めているこの戦争を理解することが難しくなっている。

国際ジャーナリスト連盟(IFJ)のアンソニー・ベランジェ事務局長は声明で、「国民が独立した報道を最も必要としているときに行われる報道に対する全面的な制限は、政府がナラティブ(物語)を統制し、信頼できる情報の流れを妨げる手段として利用され得る」と指摘した。
前例のない情報過多の時代に戦闘が行われているにもかかわらず、米国が関与する紛争としては、実態を把握することが最も難しい部類に入るとみられるのはなんとも皮肉だ。
現代史上初
人工知能(AI)の登場はリアリティーを一段と曖昧にしている。SNSのタイムラインには、AI生成と明示されていない合成画像があふれ、見分けるのがますます困難になっている。
アラブ首長国連邦(UAE)では最近、オンラインで「誤解を招く内容」を共有したとして、さまざまな国籍の35人の逮捕が命じられた。問題となったコンテンツにはAI生成が混ざっていた。
湾岸のアラブ諸国はもともと報道の自由が十分とは言えないが、国境なき記者団などの報道機関によると、各国政府は今回の状況を利用して規制をさらに強化している。
防衛拠点の位置が露呈するのを防ぎ、AIによる誤情報の拡散を抑えるという意味では、一定の統制には正当性もある。しかし、現在の措置は、より広範な規制強化の流れの中で実施されている。
UAEは2007年、国境なき記者団の報道自由度指数で180カ国中65位だったが、10年は87位、18年は128位、25年は164位へと後退した。25年には、政府が「異なる意見を追跡し迫害する傾向」を指摘されている。
クウェートも同様に順位を大きく落としており、07年の63位から25年には128位となった。バーレーンは昨年157位だった。
報道の自由侵害を日々集計しているジャーナリスト保護委員会(CPJ)の中東・北アフリカ地域ディレクターのサラ・クダ氏(パリ在住)は今回の戦争について、「この地域における表現の自由の最後の希望を打ち砕く」と語った。
その上で、「これほど多くの国が関与し、直接攻撃を受ける戦争は現代史上初めてだ。中東のどの政府や当局も、こうした事態に備えていなかったと思う」とし、「そして最初の対応は、事態の行方が分かるまでメディアを統制することだった」と説明した。
イメージ維持
UAEのドバイではレストランやショッピングモール、ホテルが営業を続けており、主要な観光地以外でも意外なほどのにぎわいを見せている。外国人居住者を引き付け続ける必要がある中、平常を装うことは経済的な生存に関わる問題だ。
しかし、カタール内務省によれば、同国では撮影や「無許可の動画の拡散」を理由にすでに500人以上が逮捕されている。バーレーンでも攻撃支持の表明などで26人が逮捕され、クウェートでも数人が拘束された。
ドバイ警察は英語でX(旧ツイッター)に、「うわさや虚偽情報、または公式発表に反する内容や公共の不安を招く恐れのあるいかなるコンテンツの共有も禁止されている」と投稿した。違反者は拘禁や罰金などの刑事罰に直面する可能性がある。
当局は、ドバイやクウェートの空港で燃料タンクが攻撃され煙が立ち上る様子や、バーレーンの一部地域での建物被害といった現実を完全に隠すことはできない。
クウェートでは米国大使館にも被害が及び、市中心部のフォーシーズンズホテル近くにある年金基金の建物も攻撃を受けた。
ただし、1990年代初めのイラクによるクウェート侵攻や第1次湾岸戦争で人々が目にした光景とは比較にならない。それでも、2003年の第2次湾岸戦争当時、米国主導のイラク攻撃が行われ、クウェートがイラクのミサイル攻撃の標的となった際でさえ、記者や市民は被害現場を自由に訪れることができた。現在はそうではない。
また、被害の規模は、テヘランやイランの他都市、あるいはベイルートやレバノンの他地域で現在起きている破壊とは比べものにならない。
抑圧的な体制
イランは国境なき記者団から「報道の自由の観点で世界で最も抑圧的な国の一つ」と見なされている。
選別されたビザ(査証)を与えられた外国人記者は今回の戦争以前から、政府が承認した「メディア機関」と協働することを義務付けられていた。そこでは公式の通訳やコーディネーター、撮影隊が提供され、取材は常に同行監視の下で行われた。
ジャーナリストは報道内容を理由に国家から標的にされることが多く、外国人や二重国籍者の場合、他国との交渉材料として利用されることもある。
国内メディアで働くイラン人記者も、政治的に敏感な話題や国内外で大きな批判を招く報道を行った場合、逮捕され得る。CPJのデータによると、少なくとも十数人の記者が現在もイランで拘束されている。ほぼ全面的なインターネット遮断により、彼らは外部との連絡を断たれている。
戦時ガイドライン
イスラエルでは今月、軍事検閲官が発出した戦時ガイドラインにより、安全保障関連施設内またはその周辺でのミサイル着弾に関する報道が全面的に禁止された。一方で、民間施設への着弾については撮影が認められている。
また、防空の要であるミサイル迎撃の映像放送も広範な制約が課されている。イランから発射されたミサイルやドローン(無人機)の数についても、イスラエル軍は情報を制限している。
全体として、イスラエル当局は23年10月のイスラム組織ハマスによる攻撃以降、報道に対してより対立的な姿勢を強めている。イスラエル軍は当初からガザへの記者立ち入りを禁止しており、現在も解除していない。
例外的に、現地で活動するイスラエル軍に同行する形で、少数の記者に限定的なアクセスが認められることがある。自由な立ち入りを求める最高裁への申し立ては、判断待ちの状態にある。

イスラエル国防軍は大規模な報道対応部門を運営し、情報戦の前面に立っている。ネタニヤフ首相やカッツ国防相を含む最高意思決定者は国内メディアとの接触が少なく、イスラエル史上最も長期かつ高額な軍事紛争について質問する余地は限られている。
ネタニヤフ政権は22年後半の発足以来、メディアの自由を抑制しようとしてきた。トランプ氏と同様、ネタニヤフ氏もメディアとの関係は複雑で、自身が追い回され、誤情報を流されていると主張している。
同政権は最近、人気の公共ニュース局「アーミー・ラジオ」の閉鎖を試みたが、最高裁により一時的に阻止された。現在、メディア規制当局の政治化や、最大の公共放送KANの予算削減、当局に放送局への制裁権限を広く与えることなどを含む放送法案が議会で審議されている。
テレビ時代
これは、1960年代の米国とは大きく異なる。当時は報道関係者に軍の輸送手段が容易に提供され、戦場への接近が可能だった。テレビの普及と相まって、検閲されていない報道が世界中の家庭に届けられた。
その後の紛争ではメディアのアクセスは制限された。第1次湾岸戦争では、CNNが軍に同行するのではなくバグダッドのホテルから中継し、名声を高めた。第2次湾岸戦争では、米国などが記者を部隊に組み込む「エンベッド方式」を導入し、一定の統制下で取材を認めた。
現在のイラン戦争は、主に米国とイスラエルによる空爆を中心に展開されており、軍の管理外での独立して報道できる余地はほとんどない。さらにトランプ政権は、従来の報道機関よりも大統領の世界観を共有する右派インフルエンサーやポッドキャスターを優遇するなど、メディア環境の再編を進めている。
ワシントンの連邦地裁は20日、米国防総省での記者活動を制限し、多くの報道機関の退去につながった措置について、トランプ政権に差し止めを命じた。同地裁の判事が、言論の自由の侵害を理由に政権を訴えた米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)の主張を認めた。
一方、元FOXニュース司会者のヘグセス長官は、イラン戦争に関する記者会見への参加を制限。米軍紙スターズ・アンド・ストライプスは先週の会見への参加を認められなかったと、同紙の国防総省担当記者が明らかにした。
同時に、米国の報道自由度は低下傾向にある。国境なき記者団によれば、昨年は180カ国中57位だった。報道自由度指数が初めて発表された2002年には139カ国中17位で、英国より5ランク上だったが、昨年は英国より37ランク下となった。
国境なき記者団は米国の「現代史上初めて、報道の自由が顕著かつ長期的に低下している」と指摘し、トランプ政権が「状況を大きく悪化させている」と論じた。
米連邦通信委員会(FCC)のカー委員長は最近、イラン戦争の報道について「是正」しなければ放送免許を失う可能性があると放送局に警告した。トランプ氏はトゥルース・ソーシャルで、カー氏の方針に「非常に興奮している」とコメントした。
原題:The Iran War Marks New Era of Media Crackdowns on All Sides (1)(抜粋)
--取材協力:Justin Sink、Golnar Motevalli、Zoe Schneeweiss、Chris Miller.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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