(ブルームバーグ):ヘグセス米国防長官は、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ会合)で、台湾について沈黙を保つことが米国の強さを示す最善の方法だとして、同盟国に理解を働きかけた。
実際にそうなるかは今後明らかになるが、現時点では中国の習近平国家主席にとって有利な展開となっている。
ヘグセス氏は週末、毎年開催のシャングリラ会合で約30分間にわたり演説したが、台湾への言及はなかった。米国防長官が同会合の演説で台湾に触れなかったのは10年強ぶりだ。
ヘグセス氏は地域に対する「強く、静かで、明確な」政策を掲げる一方で、「見せかけの憤りの時代は終わった」と宣言した。また、中国との関係について「ここ何年もの間で最も良好な状態にある」と評価した。
こうした穏やかな表現と、1年前のヘグセス氏の演説との対比は鮮明だ。これに先立ち、習氏は5月に北京で行われた米中首脳会談でトランプ大統領に対し、台湾問題への対応を誤れば両大国間の「衝突」につながる可能性があると警告していた。
ヘグセス氏はまた、中国の軍備増強に対する「当然の警戒感」に言及し、防衛支出を拡大しているほぼ全てのアジア諸国を称賛した。一方で、全体的な論調からは、中国との緊張回避を志向する姿勢がうかがえた。

オーストラリア国立大学(ANU)国家安全保障カレッジ長、ローリー・メドカフ氏は「中国に関して何かが変わったのは明らかだ。これはシャングリラ会合の23年の歴史の中でも、米政権による演説として最も対立色の薄いものだった」と話す。
その上で、「極めて不確実なのは、これが米国の交渉上の立場の強さを反映しているのか、弱さを反映しているのかという点だ」と指摘した。
ヘグセス氏は5月30日夜にシンガポールを離れる際、記者団に対し、米国の台湾政策は変わっていないと発言。ただ、重要な留保を付け加えた。
「変わる可能性があるのは、われわれの語り方だけだ」とヘグセス氏は述べ、米国は「大きなこん棒を携えながら、穏やかに」語るべきだと述べた。この表現は元大統領、セオドア・ルーズベルトの発言を一部引用したものだ。ルーズベルトはパナマ運河建設を推進し、欧州列強の中南米への介入を抑えようとした。欧州とアジアの双方で米国の軍事力と外交力を行使したことで知られる。
米国の台湾政策が変わっていないかどうかを測る大きな試金石の一つは、停滞している140億ドル(約2兆2320億円)規模の武器供与案件だ。トランプ氏は習氏との会談後、この案件を「交渉材料」と呼び、数十年にわたる外交慣例を破った。
週末の公開の場でヘグセス氏がトランプ氏の発言について質問されることはなく、武器供与案件が最終決定されるのかとの問いにも、大統領が判断を下すとして、明確な回答を避けた。

台湾の顧立雄国防部長(国防相)は30日、記者団に対し、ヘグセス氏の演説は全体としてインド太平洋地域の「平和と安定の維持を強調」する内容だったと発言。「われわれは引き続き自衛能力を強化し、台湾と米国は緊密な交流を維持していく」と語った。
習氏は台湾の頼清徳総統の孤立化に向けた取り組みを強化している。中国は4月、アフリカ3カ国に対し、頼氏の航空機による領空通過を認めないよう圧力をかけた。頼氏の海外訪問を阻止するための異例の措置だった。
また、米紙ニューヨーク・タイムズ紙は29日、同紙が数カ月前に行った頼氏へのインタビュー掲載を理由に、中国当局が2月に同紙記者の1人を国外退去処分としたと報じた。
中国の軍事外交トップは2年連続でシャングリラ会合を欠席したものの、中国代表団は総じて、同会合が過去のように米中対立の舞台とならなかったことを歓迎した。北京の清華大学戦略・安全研究センターの達巍主任は、ヘグセス氏の穏健な論調、特に対米関係を表現する際に中国が好む「建設的な戦略的安定」という表現を同氏が用いたことについて、「評価に値する」と述べた。
それでも達氏は、ヘグセス氏がルーズベルトの「大きなこん棒」の表現に言及したことに警戒感を示し、「明確な介入主義的色彩」があると指摘した。また、米国は中国との関係安定化を望む一方で、この地域の国々に対しては中国に対抗するため軍事支出の拡大を促していると指摘した。
「これは明白な矛盾だ。地域の国々はそれぞれ賢明かつ慎重な判断を下すと私は考えている」と、会合に参加した達氏は語った。
小泉防衛相の反論
ヘグセス氏が中国を刺激しないよう努める一方で、台湾とともに防衛ライン「第1列島線」を形成し、米国と安全保障条約を結ぶ同盟国2カ国の代表は、中国に対して厳しい発言を行った。
小泉進次郎防衛相は31日、シャングリラ会合での演説で、膨大な核兵器や戦略爆撃機を保有する国が、そのいずれも持っていない日本を「新軍国主義」と非難しているのは「奇妙だ」と述べ、中国の主張に強く反論した。
また、フィリピンのテオドロ国防相は30日、ブルームバーグテレビとのインタビューで、日本、ベトナム、台湾を共通の目標で結ばれた「収束に向けた取り組み」の一部だと表現。中国による軍事侵攻が発生した場合には、台湾の人々がフィリピンに避難することが可能だとの考えを示唆した。
中国は差し迫った軍事行動の兆候を示していないものの、フィリピンのマルコス大統領は5月の訪日に先立ち、同国は台湾に近接しているため、紛争が発生した場合には関与する可能性が高いと述べていた。高市早苗首相は昨年11月、同様の発言を行い、中国を激怒させた経緯がある。

米軍は近年、日本およびフィリピンとの協力を強化している。今年は米国とフィリピンの定例合同軍事演習に日本が初めて本格参加した。
中国は長年にわたり、米国が北大西洋条約機構(NATO)の太平洋版構築を目指すことに警戒感を示してきた。
ヘグセス氏は、日本や韓国、オーストラリアを含むアジア太平洋の同盟国について、米国への依存を減らす取り組みを強化しているとして称賛した。一方で、台湾立法院(国会)が5月に可決した250億ドル規模の防衛特別予算には言及しなかった。この予算の大部分は米国製兵器の購入に充てられる見通しだ。

米シンクタンク、外交政策研究所(FPRI)アジア・プログラムの非常勤フェロー、クリス・エステップ氏は、台湾の防衛特別予算に触れなかったことで重要な機会を逃したとみる。
オースティン前国防長官の2023、24両年のシャングリラ会合演説の原稿作成に携わったエステップ氏は、「台湾が最近講じた措置を称賛していれば、台湾海峡の紛争抑止を巡る米国の長年の関心について、強く明確なメッセージを発することができただろう」と述べ、「沈黙もまた、それ自体が一つのメッセージを発する」と語った。
原題:Hegseth Seeks to Convince Allies Silence Is Best on Taiwan (1)(抜粋)
--取材協力:Yian Lee.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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