(ブルームバーグ):かつて漁業で栄えた北海道稚内市の人口は1964年に約5万8000人とピークを付けた後、予測を上回るペースで減少し、足元では3万人を割り込んだ。JR稚内駅から徒歩数分に位置するアーケード商店街は以前のにぎわいを失い、今では営業する店舗も数えるほどだ。日中でも人通りは乏しい。
地域経済の衰退は、そのまま金融機関の貸出機会の縮小を意味する。日本最北端の地に根差す稚内信用金庫の増田雅俊理事長は、入庫以来ほぼ半世紀、うち20年はトップとして、国内で最も過酷な営業地域の一つに向き合ってきた。
「反社会的勢力などを除き、すべてに対応する」との方針で、新規開業や経営改善を支援し、地元経済の活性化に取り組んできた。稚内市とその周辺地域での貸し出しシェアは5割近くを占めるが、預金に対する貸し出しの比率は16%と全信用金庫の平均50%程度を大きく下回る。
貸し出しに回らなかった資金の多くは日本国債で運用し、残高は2025年3月末でおよそ2900億円。日本銀行による大規模な金融緩和政策の終了や高市早苗政権による積極的な財政政策への懸念から国債金利は上昇し、稚内信金のその他有価証券に区分される国債の含み損は約470億円に膨らんだ。
こうした現状は国内の多くの地方金融機関が抱える共通の課題でもある。借り手不足に直面し、国債運用に資金を充てた結果、金利上昇で評価損拡大という事態に見舞われた。金融庁は信用金庫・信用組合と、中長期的な事業の在り方について対話を強化する方針だ。含み損が拡大している有価証券の運用についても対応をチェックする。
稚内市の本店でブルームバーグとのインタビューに応じた増田氏は、地元への資金供給を最優先に取り組んできた結果、「この地域のリスクを丸ごと背負いこんでいる」とした上で、資産全体のバランスを踏まえ、有価証券では貸し倒れリスクのない国債に投資していると説明した。
増田氏は1978年に入庫し、84年に資金証券部に異動後、有価証券の運用担当者としてバブルとその崩壊を経験した。それ以降、「シンプル・イズ・ベスト」という投資方針を貫いている。
監督当局の方針には従うつもりだと強調した上で「会計ルール上、リスクウエートがゼロとされている国債を株式などの他の資産と同列に扱うことには疑問を感じる」と述べた。また、保有する国債の評価損については「日本銀行と同じ見解だ。償還まで持ち切るから問題はない」と説明。保有国債で預金金利を下回る逆ザヤになっているものはないという。
金利リスクを取り過ぎていないかや国債投資に偏重していないかといった質問に対しては、「どうしてそういう切り口になるのか」と疑問を呈する。「基本に忠実にやってきた結果が今のバランスシートになっている」と述べ、稚内信金の現状や全体像をしっかり見てほしいと訴える。
保有国債は含み損が生じていたとしても、満期には全額が償還される。ただ、その間に金利が上昇していれば、低利回りの債券を保有し続けることになる。仮に預金流出などが起きた場合には保有債券の売却を迫られる可能性もある。
2023年3月に米シリコンバレー銀行が経営破綻したのは、インターネット経由で主要顧客のスタートアップが短期間で大量の預金を引き出したことが契機となった。同行は保有する米国債などを損失覚悟で売却せざるを得なかった。
こうした懸念に対して増田氏は、長年にわたる関係で築き上げた預金基盤は極めて強固だとした上で、現金・預け金や保有国債を担保とした資金調達も十分に可能で、万全な流動性を確保していると強調する。
地元密着金融をひたすら実践してきたとの自負もある。同氏が若い頃に担当した地域には6つの理髪店があったが、全てで順番に髪を切るようにし、スーツや家電も取引先から満遍なく購入していたという。また、同氏の入庫前から稚内信金の職員は家族帯同での赴任が大原則となっている。その地域の一員として受け入れられることが重要だからだ。
増田氏は「評価損が増えたから、シリコンバレーバンクと同じになるんじゃないかといった短絡的な議論をする人がいるが、ここにきてわれわれの預金者と話をしてほしい」と語った。
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