イーロン・マスク氏は21日に登壇して半導体生産への参入計画を発表した際、最大級の表現を惜しまなかった。

米テキサス州オースティンの小規模な聴衆を前に、同氏は「重要な発表がある。これは、これまでにない規模のチップ製造プロジェクトになる」と述べた。「これは本当に次の段階へと引き上げるものだ。おそらく今の時点では誰も想像していないレベルになるだろう。ここでわれわれは、桁違いの規模で状況を変えていくことになる」と語った。

マスク氏が「テラファブ」と呼ぶ構想に匹敵するものは、これまで誰も提案したことがない。概要によれば、このプロジェクトは人工知能(AI)やロボット工学、宇宙開発向けの最先端半導体を製造する巨大な事業となる見通しだ。世界最高の半導体メーカーである台湾積体電路製造(TSMC)に挑むだけでなく、現在の業界の生産能力をはるかに上回る規模での生産を目指すという。

その規模は想像を絶する。バーンスタインのアナリストの試算によると、このプロジェクトには約5兆ドル(約794兆円)から13兆ドルの設備投資が必要となる。これは、年間1テラワットの計算能力という同氏の提案を達成するため、月間5万枚のウエハーを生産する新工場を140から360カ所建設する資金に相当する。

テスラのイーロン・マスクCEO

世界でも群を抜く資産家であるマスク氏は、これまで不可能と考えられていたことを実現してきた。スペースXで商業的に成立するロケット事業を築き、テスラで電気自動車を主流へと押し上げ、スターリンクで宇宙からのインターネット接続を実現した。しかし、オースティンで描いた構想を実現できるのか、あるいはそもそも実行する意図があるのかについては疑問視する声もある。

ステイシー・ラスゴン氏らバーンスタインのアナリストは「テラファブの実現は無理があるように感じられる」と指摘した。必要とされる計算能力は「現在世界に設置されている半導体生産能力全体に匹敵する規模であり、『重要な』半導体に限っても、現行の設備能力の何倍もの規模を実際には必要とする」としている。ムーア・インサイツ・アンド・ストラテジーのパトリック・ムーアヘッド氏は、マスク氏が最終的に半導体工場を建設する可能性自体が低いとの見方を示した。

むしろ、テラファブ構想を打ち出したマスク氏の狙いは別にあるのかもしれない。すなわち、半導体の生産能力不足が深刻化している現状を浮き彫りにすること、あるいは半導体メーカーに増産を促すことだ。年内の新規株式公開(IPO)を目指すスペースXの評価を高める効果を狙った可能性もある。

シリコンバレーでは、半導体業界がAI企業の野心的な事業計画に必要なチップを供給するための増産を十分に進めていないのではないかとの懸念が高まっている。アマゾン・ドット・コムやアルファベットなど、巨大データセンターで高度な計算能力を構築し、クラウドサービスやAI向けインフラを提供する「ハイパースケーラー」は、データセンターのインフラ整備のためだけでも今年約6500億ドルを投じる見通しだ。すでにメモリーチップの深刻な供給逼迫(ひっぱく)を招いており、その影響はAIアクセラレーターにも広がり始めている。

エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は、自社の最先端半導体をすべて製造しているTSMCに対し、さらなる供給拡大を望んでいると語ってきた。しかし、世界の半導体生産の中核を担う同社は、増産について慎重な姿勢を維持している。魏哲家CEOは昨年10月の決算説明会でアナリストに対し、「顧客のさらにその先の顧客から、事業を支えるための生産能力を求める非常に強いシグナルを直接受け取っている」と発言。「同時に、株主に利益ある成長をもたらすため、生産能力の計画については規律と慎重さを保ち続ける」とも語った。

マスク氏は、テスラやxAI、スペースXが今後数年に膨大な量の半導体を必要とすることを明確に示した。AIサービス向けに最終的には1テラワットの計算能力を確保し、さらにオプティマスと呼ばれる人型ロボットを年間数億台規模で生産したい考えだという。現在のAIの生産能力は、自社が必要とする水準のわずか約2%に過ぎず、「欠けている重要な要素」は計算能力だと指摘した。

マスク氏はTSMCやサムスン電子、マイクロン・テクノロジーといった供給企業に対し、可能な限り速やかに生産能力を拡大するよう促してきたと述べ、その生産分はほぼすべて購入する意向を示した。

「彼らのチップはすべて買うと、私ははっきり伝えている」と同氏は語った。

しかし、半導体企業は、テスラやスペースX、xAIにとって必要だと同氏が考える水準には遠く及ばない、より慎重なペースでの増産を選択している。

マスク氏は「だからこそ、テラファブを建設するか、さもなければチップを確保できないかのどちらかだ」と述べ、「われわれにはチップが必要だ」と語った。

アナリストが懐疑的なのは、マスク氏がこれまで半導体を製造した経験がないという理由だけではない。同氏の構想は、半導体業界の経済原理に反する形での生産を提案しているためだ。自社の需要を満たすために工場を建設するという手法は、かつて業界が発展を始めた当初のやり方だった。しかし、最先端の工場は約300億ドルの建設費がかかり、早ければ5年で陳腐化することもあるという高コスト構造のため、固定費を正当化するには膨大な数のチップを生産・販売する必要がある。

バークレイズ・キャピタルは、供給不足のリスクと、それが自動車やロボット市場における同氏の構想に与える影響についての認識には一定の合理性があるとみる。

「しかし、テスラの取り組みにしばしば見られるように、この試みは多くの点で前例がない」と、同社のアナリストはリポートで指摘。「テスラは半導体製造の経験を欠いており、コストや実行面で大きなリスクがある。したがって、サムスンやTSMC、あるいはインテルとの提携が、より現実的な選択肢となる可能性が高い」と述べた。

エヌビディアは、自社で工場を保有したことのない企業の一例に過ぎない。同業他社の大半も同様だ。これらの企業は主に生産をTSMCに委託し、一部をサムスンに依存している。

こうした企業は、業界の大半の需要を実質的に集約することで、設備投資や研究開発費を賄えるだけの受注量を確保し、採算を成立させている。

マスク氏は、テラファブが「IDM(Integrated Device Manufacturer)」と呼ばれるモデルを採用すると提案している。これは、半導体の設計から製造までを自社で一貫して行う方式だ。インテルはこのモデルによって数十年にわたり業界を支配してきたが、現在では往時の面影は薄れている。半導体製造の極めて高い複雑性を浮き彫りにした度重なる失策も、その一因とされる。

自社一貫生産は、1987年に張忠謀(モリス・チャン)氏がTSMCを設立し、設計に専念できるようにする「ファウンドリー専業」モデルを確立して以降、次第に後退してきた。現在では同社が、エヌビディアやアップル、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)、ブロードコム、グーグルなどの主要企業にとっての中核的な半導体製造先となっている。

マスク氏は、ビジネスモデルだけでなく、製造体制についてもTSMCやサムスンとは大きく異なる形を構想しているようだ。

同氏は1月のポッドキャストで「現代の半導体工場ではクリーンルームの考え方が間違っている。ここで一つ賭けをしよう。テスラは2ナノメートルの工場を実現し、その中で私はチーズバーガーを食べながら葉巻を吸えるはずだ」と語った。

クリーンルームは、現代の半導体生産において極めて重要な要素だ。個々のトランジスタはウイルスよりもはるかに小さく、わずかなちりでも混入すれば、大きな障害を引き起こし、数百万ドル規模の損失につながりかねない。

21日のライブ配信でマスク氏は、オースティンの工場にロジック半導体、メモリーチップ、パッケージング、テスト、さらにはリソグラフィ用マスクの製造設備までを単一の建物内に集約すると述べた。このような体制を持つ半導体企業は現時点で存在しない。工程ごとの専門性やプロセスの違いから、通常は経済的に成り立たないためだ。

同時に、マスク氏は新たな半導体事業の理由として米国の国益にも言及したようだ。世界の半導体の大半が依然として台湾で生産されていることから、テラファブは国家安全保障上重要だとする投稿を、自身のSNS「X(旧ツイッター)」でリツイートした。

マスク氏の半導体構想は、これまで掲げてきた大胆なアイデアの延長線上で捉える必要がある。すなわち、人類の火星移住の実現、ニューヨークからワシントンD.C.まで密閉トンネルで人を輸送する構想、ロケットの再利用といった取り組みだ。これらのうち少なくとも1つは、すでに現実のものとなっている。

今回の構想が業界の関係者の関心を強く引いたのは、企業や政府が革新的なAIを実用化するために切実に必要としている高性能半導体の不足という、現在直面する最も重要な課題の一つを浮き彫りにしているためだ。

バーンスタインのアナリストは「マスク氏は、当初は不可能だと懐疑的に見られていたことをこれまでにも複数実現してきたのは事実だ」と指摘した。その上で、「現状を改善するために、さらに型破りな何かを考えている可能性もある(それが何かは分からないため、読者の想像に委ねたい)」と述べた。

原題:Musk’s Terafab Fever Dream Exposes Reality of the AI Chip Crunch(抜粋)

--取材協力:Kara Carlson.

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