(ブルームバーグ):トランプ米大統領がイランとの戦争に踏み切った決断の背景には、外部からの圧力が一因としてあった一方、ホワイトハウス内のチームは比較的控えめな姿勢にとどまっていた。これは、2期目のトランプ政権の閣僚が大統領を抑制する「ガードレイル」の役割ではなく、むしろ行動を後押しする「青信号」の役割に置き換わったことを浮き彫りにしている。
匿名を条件に非公開の協議について語った関係者によると、トランプ氏に対しイラン攻撃を働きかけていたのは、イスラエルのネタニヤフ首相やメディア王ルパート・マードック氏、一部の保守系論者らだった。関係者の1人によれば、ニューズ・コーポレーション創業者のマードック氏はトランプ氏と複数回連絡を取り、大統領にイランへの対応を促していたという。
一方、関係者によれば、バンス副大統領やルビオ国務長官、ワイルズ大統領首席補佐官ら最側近の一部は武力衝突の可能性について比較的控えめな姿勢を取っていた。
ただ、この決定が不適切だと大統領に直接進言した者は、ほとんどいなかったか、あるいは全くいなかった。関係者によると、ワイルズ氏は大統領が選択肢を十分に理解できるよう努め、バンス氏は高官らに対し戦争の可能性について大統領に率直に意見を述べるよう求めた。攻撃前の非公開会合では、バンス氏は戦争がどのように進むのかについて質問を投げかけていたという。

国務省のピゴット報道官は「事情を知らない人が、あたかも知っているかのように振る舞うという、よくある話だ。分裂は存在しない。トランプ大統領は世界をより安全にしており、政権は一丸となって取り組んでいる」と述べた。マードック氏の代理人はコメント要請に直ちには応じなかった。
4週目に入ったこの戦争の開始は、トランプ政権2期目において重大な決断となった。その後、政権は国際的にも国内的にも危機の瀬戸際に立たされ、米国の同盟関係を揺るがし、エネルギー価格を押し上げ、11月の中間選挙における共和党の見通しを複雑にしている。
こうした状況にもかかわらず、トランプ氏は強硬姿勢を崩さず、戦争をいつ終わらせるかの判断は自身にあると主張している。これは、大統領が自身の直感に基づいて行動する権限をいかに強めてきたか、また外国での戦争を終わらせるといった主要な選挙公約を放棄する場合でさえ、側近からの異論がいかに少ないかを示している。
トランプ政権1期目に国家安全保障担当の補佐官を務め、現在は著名な批判者となっているジョン・ボルトン氏は「2期目に大統領が求めたのは、何かをしようとしたときに『はい、承知しました』と言うような従順な人物であって、『こういう点やああいう点は検討しましたか』と問いかける人材ではなかった」と述べた。
ホワイトハウスのレビット報道官は「トランプ大統領は、その場にいる全員の率直な意見を聞きたいと考えている。実際に会議に同席したことがある人なら誰でも、大統領が肩書や専門分野にかかわらず全ての側近に『どう思うか』と意見を求めていると語るはずだ。そして率直なフィードバックを期待している」と述べた。
今回の戦争は、後に連邦最高裁に差し止められた対外関税と同様、周囲の一部に懸念がある中でも重大な決定を押し進めてきたトランプ氏の姿勢を示す、最新かつ最も顕著な例となっている。
はるかに大きな権限
それでもトランプ氏は、自身のチームの忠誠心をしばしば称賛し、政権内で衝突が絶えなかった1期目の閣僚と対比してきた。
トランプ氏は20日、ホワイトハウスで「2期目の私は、はるかに大きな権限を持っている」と述べた。
多くの共和党議員にとって懸念となっているのは、この戦争が中間選挙の行方に及ぼす影響だ。中間選挙は、経済や生活費に対する有権者の認識が争点となる可能性が高い。
トランプ政権1期目に仕えた共和党系ストラテジストのマーク・ショート氏は「エネルギーコストが近いうちに下がるようには見えない。働く家庭には大幅なコスト圧力がかかるだろう」と述べた。
世論調査では、過半数をわずかに上回る有権者がこの紛争に反対している。タッカー・カールソン氏やスティーブ・バノン氏といったトランプ氏のMAGA(米国を再び偉大に)運動の有力者の一部も批判している。
それでも、ホワイトハウスと頻繁に連絡を取っているある共和党関係者によると、多くの側近はイラン戦争やエネルギー価格の急騰、さらにはそれが党の経済メッセージを損なう可能性についても、さほど動じていないようだ。トランプ氏は、この戦争は短期的な痛みを伴ってでも価値があるとし、紛争が終結すればガソリン価格は下がると主張している。
トランプ氏に近い保守系メディアのコメンテーター、マーク・レビン氏やグラム上院議員らも、開戦を支持してきた。
かなり積極的
これまでイランへの軍事攻撃に反対していたトランプ政権の側近でさえ、比較的沈黙を保っている。ギャバード国家情報長官は今週の議会公聴会で、イランが「差し迫った脅威」であり続けるかどうかを判断できるのはトランプ大統領「ただ一人だ」と述べた。
米海兵隊出身で対外介入に懐疑的な立場で知られるバンス副大統領も、トランプ氏が非公開の場では見解に一定の違いがあった可能性を示唆しているにもかかわらず、公には戦争を支持している。
トランプ氏は今月、バンス氏について「私とは哲学的に少し違っていたと言える。進軍にはやや慎重だったかもしれないが、それでもかなり積極的だった」と述べた。
バンス副大統領は16日、イランが核兵器を保有すべきではないとの点で大統領と見解が一致していると表明した。大統領への非公開の助言の内容については言及を避けているが、トランプ氏は過去の大統領とは異なり、この紛争をうまく乗り切ることができるとの考えを示している。
これまでのところ、トランプ政権内で異なる見解を公にしたのは、国家テロ対策センターのケント前所長のみだ。同氏はX(旧ツイッター)への投稿で「米国民に何の利益ももたらさない戦争に若い世代を送り込み、戦わせ、命を落とさせることを支持できない」として、辞任の理由を明らかにした。
バンス副大統領は、ケント氏の辞任は適切だったとの認識を示した。18日のミシガン州でのイベントで、「意見の相違があるのは問題ないが、大統領が決断を下した以上、政権に仕える者はそれを可能な限り成功させる責任がある」と述べた。
トランプ政権1期目には、国家安全保障分野の高官らが大統領の衝動を抑えようとし、しばしば意見が一致しなかった。マティス国防長官は、大統領がシリアからの米軍撤退を突如表明した翌日、政策の相違を理由に辞任した。当時のケリー大統領首席補佐官はトランプ氏とたびたび対立し、激しいやり取りの中で、朝鮮半島からすべての米軍を撤収するのを思いとどまらせたと、当時NBCニュースが報じている。
ボルトン氏は国家安全保障会議(NSC)を率いていた当時、イラン爆撃をたびたび主張し、大統領が同意していないにもかかわらず、その考えを率直に伝えていた。トランプ氏はかつてボルトン氏について「彼の過激さを抑えているのは私だが、それで構わない」と述べている。
ワイルズ首席補佐官の信条は、大統領が望むように行動できるようにすることだ。本人を直接コントロールするのではなく、周囲の人材や意思決定のプロセスを管理することに注力しており、この戦略が大統領からの暗黙の信頼を得るとともに、前任者より長く在任する要因となっている。
トランプ氏は1期目の4年間で、代行を含めて4人の首席補佐官を起用したが、2期目はワイルズ氏のみが務めている。
原題:Trump’s Iran War Drive Exposes Limits of ‘Yes Sir’ Cabinet(抜粋)
--取材協力:Eric Martin.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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