(ブルームバーグ):香港の金融業界で2017年以来最大規模となった家宅捜索に巻き込まれる前から、ヘッジファンドのインフィニ・キャピタル・マネジメントは、結びつきの強い香港の金融コミュニティーの中でうわさされる存在だった。
事情に詳しい関係者によると、元投資銀行アナリストのトニー・チン氏が創設したインフィニは、企業が新株を発行する際に通常は案件を取り仕切る投資銀行の頭越しに、企業と直接交渉しているとの評判が立っていた。また同社は、ヘッジファンドの運用資産を上回る額のポジションを取ることにも積極的だったという。
インフィニは非従来型の手数料体系や、ミレニアム・マネジメントやポイント72アセット・マネジメントといった世界の大手ヘッジファンドの出身者を採用して関心を集めていた一方で、謎に包まれていた部分もあった。
ゴールドマン・サックス・グループとモルガン・スタンレーは法令順守(コンプライアンス)上の顧客確認規則を理由に、インフィニを顧客として受け入れなかったと事情に詳しい関係者は明らかにした。JPモルガン・チェースとUBSグループは、数カ月前に同社とのプライムブローカレッジ取引を解消したという。
各行はいずれもコメントを控えた。
香港当局が今週行った捜索先にインフィニのオフィスも含まれていたと関係者が明らかにしたことで、同社は一躍注目を浴びた。当局はこのほか、中信証券の現地子会社および国泰君安国際ホールディングスの香港拠点を捜索した。
中信と国泰君安はそれぞれの香港拠点が令状を持った当局者の訪問を受け、書類が押収されたことを証券当局に提出した文書で認めた。インフィニとチン氏には複数回にわたりコメントを要請したが、応答はなかった。
ただ、インフィニは13日遅くに声明を発表。香港の法律や規則を一貫して守っており、当局の法的な業務に全面的に協力していると説明した。また、事業や運営は平常通りで、投資運用および意思決定プロセスに影響はないと付け加えた。
捜索を終えた後、香港の証券先物委員会(SFC)と汚職捜査機関の廉政公署(ICAC)はそれぞれ、賄賂と引き換えに非公開情報を提供した疑いのある上級幹部を捜査していると発表した。だが、関係する企業名は明らかにしていない。
当局の捜索は十数カ所に及び、8人を逮捕した。ヘッジファンド1社が空売りで約3億1500万香港ドル(約64億円)の不正な利益を得たインサイダー取引が判明したと、当局は説明した。
チン氏は40歳。投資家の損失を補償すると約束した斬新な手数料モデルや、中国のニューエコノミー企業に関する公の発言などで、注目を浴びてきた。23年にはプロバスケットボールチーム「香港ブルス」を設立した。
だが、インフィニ創設前の同氏の経歴はほとんど知られていない。リンクトインのプロフィルにある肩書きには、インフィニ創業者で香港ブルスを設立したとしか記載がない。
チン氏を知る関係者によれば、同氏は上海に生まれ、幼少期に香港に移住した。シンクタンクの「団結香港基金」に同氏のプロフィルがあり、それによると、米ミシガン大学アナーバー校で経済学と数学の学位を取得した。同基金はチン氏を「特別顧問」としている。
SFCのデータによれば、チン氏は2011年3月までの1年未満、モルガン・スタンレーの従業員として登録されていたことがある。
チン氏はリンクトインのプロフィルで12年にインフィニを設立したとしているが、登記上の設立は15年6月だ。同氏は自身のさまざまな事業部門を通じて、ベンチャーキャピタル、公開市場、プライベートエクイティー投資に関わってきた。
中でも、よく知られるようになったのがヘッジファンド事業のインフィニだ。複数のポートフォリオマネジャーに資金を配分するマルチ戦略型ファンドとして宣伝し、チン氏はミレニアムやポイント72のような世界的な大手にはニッチ過ぎる戦略を持つトレーダーを引き付けようとしてきた。
関心を集めようと、チン氏はファンドの創業者株クラスの投資家に対し、最初の10%の損失を個人的に補償すると約束した。その後さらに踏み込み、他の投資家に対しても損失の100%を補償すると提案した。ただし、その場合は最大50%の成果報酬に同意することを条件とした。
こうした約束にもかかわらず、資金の流入は低調だったと、同社の運営に詳しい関係者は語った。事情に詳しい関係者によると、ヘッジファンドの運用資産は依然として4億ドル未満にとどまっている。
チン氏は香港における一部の規制上の責任から退いている。SFCへの提出文書によれば、アブダビで事業免許を取得した後の昨年12月、同氏は香港のインフィニに責任を持つ役員ではなくなった。
ただ、アブダビ金融サービス規制当局のデータによれば、アブダビ部門の役員としてチン氏が申請していた資格は、1月末までに却下された。
原題:Hedge Fund in HK Raid Took Big Bets, Failed Goldman Test (1)(抜粋)
--取材協力:Jeanny Yu.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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