(ブルームバーグ):アフリカのエチオピアで、電気自動車(EV)の普及率が急拡大している。政府統計によると、この2年で1%未満から約6%に達し、世界平均の4%を大きく上回る水準となった。
自動車はもっぱら輸入に頼るエチオピアで、EVが突然普及し始めたのはなぜなのか。
契機となったのが、エチオピア政府が2024年にガソリン車の輸入を禁止すると同時に、EV輸入にかかる関税を大幅に引き下げたことだ。
背景には、気候変動対策への意欲というより、ガソリン価格の高騰による財政負担があったという。消費者向けガソリン補助金は国家予算の重荷となり、過去10年間で数十億ドル規模の負担となっていた。金利上昇で債務返済コストが膨らみ、24年には国際通貨基金(IMF)から支援を受ける事態にまで陥っていた。
ブルームバーグNEF(BNEF)でクリーン輸送部門を率いるコリン・マケラッチャー氏は「エチオピアの事例は非常に興味深い」と指摘。「自動車をほとんど生産していない国々では、どうせ輸入するなら石油の輸入を減らしたいと考える。大気汚染を改善し、購入コストも安い車を選ぶということだ」と述べた。
エチオピアでは長年、自動車に高い輸入関税が課されていたため、新車は大半の国民にとって手が届かなかった。保有数は、人口1000人当たり13台と、アフリカ平均の73台を大きく下回る。国内で製造される車は少なく、ほとんどが輸入車で、その多くが中古車だ。
ところが、政府の政策変更によって市場は一変した。
完成車EVの関税は15%、部品や半組み立て車は5%、部品を分解した状態で輸入し国内で組み立てるノックダウン方式は0%とした。その結果、新車EVが、中古ガソリン車と同程度の価格で市場に出回るようになった。
アディスアベバ中心部にあるハレル・カーズのショールームでは、中国の比亜迪(BYD)製ハッチバック「シーガル」が360万エチオピア・ブル(約367万円)、サブコンパクトSUV「Yuan Up」が490万ブルで販売されている。輸入禁止前は、中古のスズキ・ディザイアのガソリン車が420万ブル超だった。
トヨタやホンダ、シトロエンのEVも扱うハレル・カーズの営業・マーケティング責任者、モゲス・ネガシュ氏は「顧客の大半はガソリン車からEVに乗り換える人たちだ」と語った。
低所得国にとって価格は依然として高いものの、ガソリン中古車に比べ、新車EV購入のための銀行借り入れは容易になっている。ロンドン在勤の金融アナリスト、アブドゥルメナン・モハメド氏は「EVは新しいテクノロジーであり、利用が進んでいるため、銀行にとっては融資を提供する良い機会だ」と説明した。
タクシー運転手のベテルヘム・エシェティ氏も、EVに乗り換えた一人だ。2年前、ガソリン価格や修理代の負担が重過ぎて、「もう割に合わない」と仕事を辞めた。しかし半年後、中国製の新車のEVに乗り始めたという。「乗り心地やエアコンが気に入っている。それに、頻繁に修理工場へ行かなくて済む」と語った。
ダム建設で電気代は安価に
政府のエネルギー戦略としても、この政策変更は理にかなっている。
エチオピア政府は電力インフラへの投資を進めており、50億ドル(約7900億円)を投じて25年に完成したグランド・エチオピアン・ルネサンス・ダムは5150メガワットを発電する。風力や太陽光を含む他の発電設備もあり、余力を持つ同国はケニアやタンザニア、ジブチに電力を輸出している。
エチオピアの電力供給コストは1キロワット時当たり約0.10ドルで、近隣諸国の約半分、米国平均の0.18ドルを大きく下回る。消費量に応じた補助金により、実際の負担はさらに低い場合も多い。
エチオピアの運輸・物流担当国務相バレオ・ハッセン・バレオ氏は「EVへの移行はエネルギー主権の確保が目的だ」と明かす。「燃料純輸入国として、われわれは世界的な供給や価格変動の影響を受ける。一方、EVは国内で生産し自ら価格設定できる電力を使う」と述べた。
中国企業、EV工場拡大に参画
エチオピアでのEV普及には、中国企業が深く関わっている。
ルネサンス・ダムの資金の大半は国内銀行が拠出したが、中国は13年と19年に計30億ドルの融資を実施し、発電設備や送電線整備を支援した。
バレオ氏は「中国はEV普及と技術、特に電池分野で先行しており、協力相手として理想的だ」としつつ、「ただし、どの国とも協力する用意がある」と述べた。
中国企業は、エチオピア政府が力を入れる国内EV組み立て事業にも深く関与している。
首都から約40キロメートルのシェゲル市にあるベライネ・キンディ・グループの工場では、15人乗りミニバスに電池を搭載し試運転に送り出していた。工場内には組み立て中の車両が数十台並び、座席や床、窓の取り付け作業が進む。完成車はエンジニアの検査を経て顧客に引き渡される。この日の検査には、車両部品を設計・製造した中国の南京金龍バスのスタッフも立ち会っていた。
BKGマニュファクチャリングは18年に化石燃料車の組み立てを開始。現在は大型トラックを除き、ほぼ全カテゴリーでEVを組み立てている。需要を試すためにEVを輸入したところ「市場の反応は驚異的だった」とベスフェカド・シェワイ最高経営責任者(CEO)は語る。「その結果、組み立て工場を設立することにした」。
同社は既に2工場を持ち、3工場目の用地も取得済みだ。最大顧客はアディスアベバ市で、政府の公共交通電動化政策の一環としてミニバス150台と大型バス100台を購入した。
政府は電動バイクの免許発行も開始した。多くの途上国では二輪車の台数が自動車を大きく上回るが、アディスアベバでは治安上の懸念から19年に二輪車免許の発行を停止し、市場拡大が抑制されてきた。食品配達産業が拡大する中、潜在需要は大きい。
アディスアベバ拠点の電動二輪スタートアップ、ドダイ創業者の佐々木裕馬氏は「エコシステムが今後10-15年で成熟すれば、ギグワーカー向け二輪車の潜在市場は15万-20万台になる」と試算する。同氏は車両の安全性や低コストについて2年かけて政府を説得。既に中国製電動バイクを1800台超組み立て、販売したという。
バレオ氏によると、国内には現在17のEV組み立て工場があり、政府は30年までに60工場に増やす目標を掲げる。
国際エネルギー機関(IEA)のアフリカ投資ポートフォリオ共同責任者アダム・ワード氏は、フルスケールの製造工場にとっては市場規模が小さいとしつつ、「EV組み立ては大きな付加価値を生む」と指摘する。「全てを一から製造しなくても、組み立てだけでもエチオピア経済にとっての意義は大きい」。
「このペースが続くとは思わない」
もっとも、エチオピアで製造業に取り組むのは容易ではない。23年時点で製造業の国内総生産(GDP)構成比は7%未満にとどまり、厳しい規制や高い資本コストが成長を制約している。
EV普及のペースは速いが、基盤は堅固とは言えなかった。
人口約1億3000万人に対し、国内の車両総数は170万台に過ぎない。政府はEVが10万台超に達したとしているが、独立した統計は乏しい。米国際貿易局は、化石燃料車の輸入禁止前の台数を3万台としている。
「エチオピアの自動車市場はゆがんでおり、購入可能な層には大きな潜在需要があった。そのため政策変更でEV販売が急増したが、このペースが続くとは思わない」とシンクタンクのエネルギー・フォー・グロース・ハブの科学顧問ローズ・ムティソ氏は述べる。
充電網は拡大しているが、必要な水準には程遠い。政府は全てのガソリンスタンドと自動車ショールームにEV充電器設置を義務付け、主にアディスアベバで500基が設置されたという。ただし、首都だけでも1000基が必要で、新築住宅や公園、ホテルへの設置義務も導入した。既存の充電器の大半は満充電に4-6時間を要し、30分で充電可能な急速充電器は国内にわずかしかない。
発電能力の拡大に成功した一方で、首都以外での電力アクセスは不十分だ。
世界銀行によると、電力にアクセスできる人口は55%にとどまる。大都市ではほぼ普及しているが、広範なEV移行の持続は難しい可能性があると、エネルギー・フォー・グロース・ハブの2025年報告書は指摘する。
「アフリカ諸国の中で、本格的な自動車製造業を築いたのは、南アフリカとモロッコの2カ国のみだ」と同シンクタンクのムティソ氏は指摘。「エチオピアはEV製造で適度な規模の目標を掲げ、高付加価値の組み立てに注力すべきだ」と述べた。
それでも政府の目標は高い。27年に国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP32)を主催するエチオピアは、25年提出の最新気候計画で輸送部門の電動化加速を柱に掲げ、32年までにEV50万台の普及を目指す。21年の前回計画では、文書全体でEVへの言及は2カ所にとどまっていた。
既にEVに乗り換えた先行利用者の間ではコミュニティーも広がる。
タクシー運転手のベテルヘム氏は利用者にとどまらず、EVについて発信するインフルエンサーとなった。TikTokのフォロワーは18万人、テレグラムでは3000人のメンバーを抱えている。
「私がEVを運転していると、クラクションを鳴らして車を止めようとする人が多い。EVについて詳しく聞きたがっている」と話した。
【ESGバイウィークリー】を購読するには該当記事の冒頭にあるボタンを押して登録するか、NSUB ESG JAPANの該当する購読ボタンをクリックしてください。
原題:EV Sales Boom in Ethiopia After Ban on Fossil-Fuel Car Imports(抜粋)
--取材協力:Chunying Zhang.
もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
©2026 Bloomberg L.P.