広がる市場と信頼の条件

「リカバリーウェア」という言葉の認知は、記事検索の結果などを見る限り、2010年代以降とみられます。

当初はスポーツ分野やアスリート向けの商品として紹介されることが多く、主にパフォーマンス向上や疲労回復を目的とする文脈で取り上げられていました。

しかし、コロナ禍を経て、一般消費者の間でも日常生活向けの商品としての浸透が進んでいるようです。

検索エンジンにおける検索動向を見ると、「リカバリーウェア」というキーワードは2021年頃から顕在化し、この数年で増加傾向にあります。

もっとも、前述の市場規模を踏まえると、現段階は熱狂的なブームというより、価値観の変化を背景に、裾野を広げながら成長している段階と捉えるのが適切でしょう。

市場の拡大とともに課題もあります。リカバリーウェアとして販売されている商品の中には、医療機器に該当しないものも多く、効果の感じ方には個人差があります。

消費者庁の調査を見ると、機能性表示や広告表現を確認する行動は一定程度みられるものの、必ずしも十分とはいえない状況です。

消費者としては、医療機器認証の有無やエビデンスの提示状況、過度な効能表現が用いられていないかを確認する姿勢が求められます。

一方、企業にとっても、短期的な販売拡大より、透明性の高い情報開示と信頼の蓄積が重要です。SNSを通じて情報が瞬時に拡散する時代において、レピュテーションリスクは以前より高まっています。

リカバリーウェアは、魔法の製品ではありません。それでも、「疲れを否定する」のではなく、「整えることを選ぶ」という消費が広がっていること自体は、成熟した社会の一側面といえるでしょう。

物価高の時代にあっても、人々は単に支出を削るだけではありません。抑えるところは抑えつつ、自分の状態を整えるための支出は選び取ります。

所有することよりも、コンディションを保つことに価値を見いだす。その静かな価値観の変化が、リカバリーウェア市場の広がりの背後にあるのではないでしょうか。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 上席研究員 久我 尚子)

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