(ブルームバーグ):世界の原油市場はもともと乱高下が激しいが、そうした基準で見ても9日の極端な値動きはトレーダーの限界を試すものだった。世界で最も取引される商品である原油の指標先物は、中東危機の深刻化を巡る週末の絶え間ない悪材料を受け、一時29%急騰した。
ペルシャ湾でのエネルギー生産が混乱し、ホルムズ海峡が事実上封鎖され、解決の兆しも見えない中、北海ブレント先物は取引開始から数時間で急騰し、1バレル=120ドル近くまで上昇した。2022年半ば以来の高値だ。その後、相場のムードは突如として変わり、トレーダーは劇的な方向転換を迫られた。
2つの主要原油先物は一時下落したが、最終的には上昇して取引を終えた。
ダベンポート・エナジーで中国を拠点とするポートフォリオマネジャーを務めるトビー・コプソン氏は、「ボラティリティーを楽しんでいるが、消耗する。総出で対応している状況で、多くはほとんど眠れていない。ファンダメンタルズの要因は分かっているが、ニュースのヘッドラインやツイートによってストレステストを受けている」と述べた。
主要7カ国(G7)が戦略備蓄からの原油協調放出に向けた道筋を整える動きを見せたことで、序盤の上昇は一時的に落ち着いた。その後、トランプ米大統領が戦争は間もなく終結する可能性があると発言。詳細は乏しかったものの、トーンの変化が相場を急速に冷やした。
北海ブレントは、取引時間中の高値から終値までの下落幅として過去最大を記録し、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)期に見られたような値動きとなった。
トレーダーは一般的にボラティリティーを好むが、9日のように激しい振幅は比較的まれだ。今週はニュースのヘッドラインが劇的に変化し、資産価格が大きく動いたことで、ベテラン勢でさえ動揺した。
2022年のロシアによるウクライナ侵攻で引き起こされた商品相場の急騰や、それ以前の2020年にウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)が一時マイナスで取引された歴史的な日を想起させる展開だ。
ガス市場も混乱
シドニーで27年の市場経験を持ち、現地時間9日午前6時にデスクに着いていたATグローバル・マーケッツのニック・トゥイデール氏は、「まさにパニック的な取引だった。携帯電話は10秒おきに鳴り続け、トレーダーや顧客、業界関係者から石油価格に何が起きているのかという同じ質問が寄せられた」と語った。
今回の中東危機は先月末、米軍とイスラエル軍がイランへの攻撃を開始したことで始まった。イラン政府は強硬姿勢で応じ、域内の基地やインフラを標的にし、ペルシャ湾全域に混乱が広がった。
3月9日の取引を前に、すでに世界経済に打撃を与えている戦争の長期化への懸念が高まっていた。
元原油・液化天然ガス(LNG)トレーダーで、現在はシンガポールで8バントエッジの旗艦ファンド「エンハンスト・バリュー・ファンド」のシニアポートフォリオマネジャーを務めるステファノ・グラッソ氏は、「地政学的な意思決定が価格変動を左右すると、投資家は自分たちでコントロールできる余地が小さいと感じる」と打ち明け、「いま市場で経験しているのは、単なるボラティリティーではなく、無力感だ」と指摘した。
9日の乱高下は非鉄・貴金属から農産品まで他の商品市場に波及した。トレーダーはすでに顕在化している混乱や、今後起こり得る問題を織り込もうとした。アルミニウムは2022年以来の高値に急騰し、銀は約6%急落、金価格はドル高を受け下落した。
ガス市場も混乱した。原油が急騰する中、アジアのLNG買い手、特に新興国勢は供給を巡る世界的な争奪戦を恐れてパニックに陥り始めた。戦争の影響でカタールにある世界最大のLNG輸出プラントが停止しており、先行きが見えなかった。
トレーダーによると、インド国営ガス会社GAILインディアは9日のLNG入札で3月積み荷を確保できなかった。今月分の余剰カーゴが存在しなかったためだという。タイの買い手も、マレーシアや域内の他の供給元から足元の積み荷を確保しようとしていたとトレーダーは付け加えた。
グラッソ氏は、最善の対応は規律を保ち、ポジション規模を適切に管理し、予測ではなくリスク管理に集中することだと述べた。市場は一夜にして変わり得る政治的決定を織り込もうとしており、それが当然ながら急激な値動きを生んでいると説明した。
トゥイデール氏は「恐らく最悪期は過ぎたのかもしれない」が、「ヘッドラインごとに動くトレーディングだ。非常に難しい」と話した。
原題:‘Downright Panic’: Traders Tested to Limits on Oil’s Wild Monday(抜粋)
--取材協力:Ben Sharples.
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