(ブルームバーグ):イラン戦争は今週、ウォール街を揺さぶったが、市場を崩壊させるには至らなかった。むしろ、混乱から投資家を守るために構築された分散投資戦略の限界を露呈した。
週を通じて債券と株式は繰り返しつれ安となった。原油急騰と供給途絶によるインフレ懸念を背景に、米国債利回りは低下するどころか上昇。危機時のシナリオとは逆方向に動いた。昨年4月の関税ショック以降で最悪の株・債券同時安の週となり、市場はインフレ再燃と景気減速のどちらがより大きな脅威か判断できずにいる。
6日にはそうした不調和が強まった。米雇用統計で非農業部門雇用者数が予想外に9万2000人減少し、コロナ禍以降で最大級の落ち込みとなった一方、原油は90ドルを突破し、プライベートクレジットを巡る懸念も深まった。投資家は景気後退と物価上昇が同時に進む可能性に向き合うことになった。
つまり、債券が逆方向に動き損失を相殺するという分散ポートフォリオの基本原則が現実には機能しなかった。終わりが見えない紛争に備える投資家にとって、リスクは高まった。リサーチ・アフィリエーツの最高投資責任者、クエ・グエン氏は「戦争に勝者はいない。あるのは相対的な敗者だけだ。唯一の逃避先はエネルギーだ」と語る。
これは従来型の資産配分手法の脆弱(ぜいじゃく)性を改めて示す事例だ。単純に債券と株式を組み合わせる戦略は2025年には堅調なリターンをもたらしたが、近年では同様に頻繁に失敗しており、22年の弱気相場がその一例だ。ガベカル・リサーチは、供給主導の価格ショックが頻発する時代において債券がポートフォリオの緩衝材としての役割を失ったと主張し、投資家が債券を貴金属とエネルギーで完全に置き換えるべきだと提案している。

今週は中東の緊張が、人工知能(AI)投資減速懸念で既に不安定だった市場に幅広く新たな売り圧力を加えた。米国債は昨年の関税を巡る混乱以来最大の下げとなり、S&P500種株価指数は10月以来の大幅な週間下落を記録。新興国株も大きく売られ、2020年以来最大の下げを演じた。
事態を悪化させたのは、米国債と同様に、長年安全資産と見なされてきた金や生活必需品メーカー株が最悪のパフォーマンスを記録した点だ。
ナティクシス・インベストメント・マネージャーズのポートフォリオマネジャー、ジャック・ジャナシウィック氏は相場急落について、エネルギー価格上昇が家計を圧迫し景気を減速させるスタグフレーションへの懸念を反映したものだと指摘。同氏は「この問題が長期化するリスクがあり、根源は原油価格にある。インフレ期待の再評価の可能性が多少あるが、同時に需要破壊も意識しなければならない」と述べた。最近、現金比率を引き上げたという。
不安の兆しは広がっている。S&P500種株価指数の予想変動率を示すVIX指数は30近くまで急伸し、クレジット市場では投資適格社債と米国債の利回り格差が3カ月ぶりの高水準に拡大。ピボタルパスの集計データによれば、ヘッジファンドはネットエクスポージャーを22年以来の低水準まで縮小した。
S&P500は依然として1月の過去最高値から3%以内の水準にあるが、原油が90ドル超で推移し、ホルムズ海峡の混乱が続けば、インフレ圧力は利下げ期待と衝突し続ける可能性が高い。
シュローダー・インベストメント・マネジメントのパトリック・ブレナー氏は、商品などの実物資産を選好しているとし、「分散とは単に異なる資産を持つことではなく、圧力下で異なる動きをする資産を持つことだ」と指摘した。
原題:Wall Street’s Safety Net Is Giving Way as Iran War Hits Markets(抜粋)
--取材協力:Mia Gindis.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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