世界のエネルギー市場で過去最大級の混乱が始まってから1週間がたったが、原油価格は依然として過去の危機時に見られた水準を大きく下回っている。ただ、エネルギー企業の経営者やトレーダーの間では警戒感が強まりつつあり、中東での戦闘が続くほど危機的状況に近づくとの声が増えている。数日以内に原油価格が1バレル=100ドルに達するとの予測も複数出ている。

ホルムズ海峡を通過する船舶の往来はほぼ停止しており、エネルギー市場にとって長らく最悪のシナリオと考えられてきた状況が現実のものとなりつつある。湾岸地域に停泊する空の大型原油タンカーの数は減少しており、追加の生産削減を余儀なくされる時期が早まっている。

 

原油とガスの価格は今週急騰しているものの、ロシアがウクライナに侵攻した直後に記録した高値をなお大きく下回っている。当初、落ち着いていた原油市場は6日にその傾向が薄れ、北海ブレント原油価格は90ドルを突破し、今週の上昇率は25%を超えた。

匿名を条件に話した大手トレーディング会社4社の幹部は、ホルムズ海峡の事実上の閉鎖が長期化した場合の影響について、市場は依然として過度に楽観的だと指摘。敵対行為の緩和がなければ、原油価格は数日以内に100ドルに達する可能性があるとの見方を示した。

現物エネルギー市場ではすでに緊張の兆しが出ている。中東やアジアの製油所で稼働削減が進み、軽油やジェット燃料など製品価格が急騰している。コンサルティング会社ラピダン・エナジー・グループの社長で元ホワイトハウス当局者のボブ・マクナリー氏は、市場はホルムズ海峡がどの程度の期間閉鎖されるのかをなお織り込みきれていないと語った。

同氏は「ホルムズ海峡の閉鎖が一時的な混乱ではなく数週間に及ぶ事態だと市場が認識すれば、今後数日から数週間のうちにブレント原油は100ドル以上に達する」と述べた。

 

原油高は、燃料価格の抑制を実績として強調してきたトランプ大統領にとって頭痛の種となっている。トランプ氏が米大統領に就任して以降、ガソリン価格が現在ほど高騰したことはない。ホワイトハウスは今週、原油市場を落ち着かせるため複数の対応を試みたが、これまでのところ効果は出ていない。

即効策は乏しい

原油・ガス市場にとって最大の焦点は、湾岸地域からのエネルギー供給がいつ再開するかだ。ホルムズ海峡を原油が通過しない日が続くほど、貯蔵タンクは満杯に近づき、生産者は減産を迫られる局面に近づく。イラクは今週、生産停止に着手し、カタールは液化天然ガス(LNG)の生産を停止した。

もちろん、市場の行方は紛争の展開に左右される。戦闘の収束やホルムズ海峡の封鎖解除の兆しがあれば、原油価格は再び急落する可能性がある。

ただ現時点では、戦闘が続く中でホルムズ海峡のボトルネックが早期に解消される見込みは乏しい。

トランプ大統領は3日、ホルムズ海峡を通過する原油タンカーなどの船舶の安全航行を確保するため、保険の提供や米海軍による護衛を実施すると述べた。

ただ、船主3社と湾岸地域の同盟国関係者によると、6日時点でもこの計画の詳細は示されていない。

複数の船主は、業界では保険が利用可能とされているものの、乗組員の安全確保が依然として最優先事項だと指摘する。海軍の護衛が実施されても、船舶の通航が全面的に再開されるかどうかは不透明だ。

英フェーンリーズ・シップブローカーズの取締役、ハルヴァー・エレフセン氏は「船団を組んで通過すれば、かえって船舶が標的になるとの懸念が業界全体に広がっている」と述べた。1980年代のイラン・イラク戦争末期にキャリアを開始した同氏は「短期的な解決策は見当たらない。私の見立てでは、原油価格の上昇やインフレ、経済的な痛みにつながる」と語った。

ストレスの兆し

ブレント原油は週間ベースで過去2番目の大幅高となったが、世界経済への警戒信号を発している一部の燃料価格の高騰に比べれば見劣りする。

ディーゼル油はこの1週間で50%余り上昇し、ジェット燃料は今週、地域によっては1バレル=200ドルを超えた。欧州の天然ガス価格も約6割上昇している。

こうした状況を受け、中国は主要製油会社に対し、ガソリンとディーゼル油の輸出停止を指示した。同様の動きは他のアジア諸国にも広がっている。

主要産油国も警鐘を鳴らし始めている。

英紙フィナンシャル・タイムズによると、カタールのエネルギー相は6日、紛争が早期に解決しなければ原油価格が150ドルに達する可能性があると警告した。

BNPパリバのエネルギー戦略責任者、アルド・スパンジャー氏は「紛争に変化がなければ、原油価格は今後数週間、上昇を続けるとみている。陸上在庫が積み上がれば、3月を通じて生産停止を招き、上昇圧力を一段と強める可能性がある」と述べた。

現物の原油市場も急騰しており、足元の需要の強さを示している。

一部の米国産原油が2020年以来最大のプレミアムで取引されているほか、通常はブレント原油とほぼ連動して動くノルウェー産の主要銘柄も、今週はブレントを5ドル余り上回った。サウジアラビアは2022年8月以降で最も大幅な価格引き上げを決めた。

域内の産油国は可能な限り輸送ルートの迂回(うかい)を進めている。サウジアラビアは国内を1000キロ以上横断して、西岸の港に原油を輸送している。

アラブ首長国連邦(UAE)もホルムズ海峡を回避するルートを持ち、フジャイラ経由で日量100万バレル超を輸出している。ただし、両国の回避ルートを合わせても、通常時にホルムズ海峡を通過する日量2000万バレルの約3分の1にとどまる。

「非常に楽観的」

トランプ大統領は原油価格の上昇を前にしても、これまでのところ落ち着いた姿勢を示している。ロイター通信との5日のインタビューで、「価格が上がるなら上がるが、ガソリン価格が多少上昇することよりもはるかに重要な問題だ」と述べた。

それでもトランプ政権は、市場の圧力を和らげるための措置を講じている。米国の制裁によって海上で滞留していたロシア産原油を、インドの製油会社が買い取れるよう一般ライセンスを発出した。この措置は短期的にはインドの製油会社の負担を軽減するものの、あくまで一時的な対応にとどまる。

米国には価格上昇を抑えるための手段は他にもある。燃料混合義務の適用除外や、戦略備蓄の放出などだ。ただ、当局者はこれまでのところ、戦略石油備蓄(SPR)の取り崩しには踏み切っていない。

国家経済会議(NEC)のハセット委員長は6日、ブルームバーグテレビジョンとのインタビューで「活用できる手段はそろっている」と述べた。「ただ、足元の問題は比較的早期に解決できると非常に楽観的にみている」と語った。

国際エネルギー機関(IEA)も楽観視しており、現時点では戦略備蓄の協調放出の必要はないとの認識を示している。ビロル事務局長は「問題は供給の途絶ではなく、物流の混乱だ」と述べ、市場には「十分な原油がある」と語った。

日本など一部の国は、より慎重な姿勢を示している。日本は単独での石油備蓄の放出を検討していると、共同通信が報じた。

敵対行為の終結やホルムズ海峡の封鎖解除の兆しが見えない中、エネルギー市場は週末に向けて不安を抱えた状態が続いている。

TWGグローバルのマネージングパートナーで、バイデン前大統領の上級顧問を務めたエイモス・ホックスティーン氏はホルムズ海峡について「8日夜に原油取引が再開された時点でなお閉鎖されていれば、価格急騰は一段と大きくなるだろう」と述べた。

原題:Traders Warn $100 Oil Is Imminent If Iran War Keeps Raging(抜粋)

--取材協力:Yongchang Chin、Weilun Soon、Alfred Cang、Anthony Di Paola、Jonathan Ferro、Sherry Su、Fiona MacDonald、Salma El Wardany、Julian Lee.

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