(ブルームバーグ):米国がベネズエラの大統領を拘束し、さらにイスラエルと連携してイランの最高指導者を殺害した一連の対応は、中国を守勢に立たせている。米政府の対中政策立案に関与してきた元当局者らはおおむねこうした見方をしている。
トランプ政権1期目で大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)を務めたマット・ポッティンジャー氏によれば、イラン戦争は「混沌の枢軸」に対する挑戦だ。
この言葉は、中国を中心にロシア、イラン、北朝鮮の4カ国が関係を深めていることを意味し、米国を弱体化させるために中国がこの枢軸を利用しているとの考え方は同氏が広めた。
「北京は、米国の影響力に挑戦し、ワシントンとその民主主義同盟国の注意と資源を消耗させ、総じて米国の威信を弱め得る権威主義的な代理勢力の主要な後ろ盾だ」とポッティンジャー氏は指摘している。
同氏によると、中国の習近平国家主席が2021年に世界情勢は混沌に特徴付けられ、中国にとって機会が総じて挑戦を上回ると発言したことでこうした発想に至ったという。
現在は民主主義防衛財団(FDD)で中国プログラムを率いるポッティンジャー氏は、シリアとベネズエラに加え、イランの指導者が今回排除されたことで、中国の外交政策が裏目に出る可能性もあると分析。
その上で、仮にウクライナがロシアとの戦争に敗れ、最終的にイラン体制が持ちこたえれば、中国の戦略は正当性を得る可能性があるとの見方も示した。
在米中国大使館の劉鵬宇報道官はブルームバーグに対し、「『混沌の枢軸』という言い方は、極めて無責任で、中国および関係国に対する非難と中傷だ」と批判。「米国はベネズエラとイランに対して露骨に軍事攻撃を開始し、国際法と国際関係の基本的規範に著しく違反している」と語った。
弱点露呈
中国はロシアやイランなど米国と敵対する国に外交や技術・経済面で支援を提供してきたが、隣国の北朝鮮を除き正式な軍事同盟は結んでおらず、国連が支持する国際秩序を守っていると主張している。
米国の同盟国の間でも、トランプ米大統領による最近の行動が国際法に沿っているかどうか疑問視する声がある。トランプ氏は今月末、習氏と首脳会談を行うため中国を訪問する。
米政府で国家安全保障アナリストを務めたキット・コンクリン氏は、米中首脳会談を控えた中国の戦略を左右するのはイランのような国々との関係ではなく対米関係だと強調。
「首脳会談が数週間後に迫る中、中国にとって世界市場や先端半導体へのアクセスは、『混沌の枢軸』の連帯よりも習氏にとってはるかに重要だ」という。同氏は現在、米防衛分野と密接に連携するサプライチェーンリスク管理会社エクシジャーの最高グローバル問題責任者を務めている。
オバマ政権下で中国政策の上級アドバイザーだったエバン・メデイロス氏によれば、最近の展開がこの枢軸に長期的にどのような影響を与えるかは別として、米国とイスラエルによる対イラン攻撃は現時点で中国にとって好材料ではない。
その理由について、「今回掲げられている目標は、中国にとってはるかに広範で重大なものだからだ。核兵器計画の排除だけでなく、体制転換だ」と同氏は語った。
もっとも、米国がイランや中東で泥沼に陥れば、中国が利益を得る可能性もあるとも、ジョージタウン大学でアジア研究をしているメデイロス氏はみている。
ベネズエラとイランの指導者失脚は、「混沌の枢軸」戦略が内在する弱点も浮き彫りにした。中国を含む4カ国は、米国が持つような安全保障同盟を有していない。
バイデン政権時に国務省に勤務し、現在はアメリカンエンタープライズ研究所(AEI)で中国とテクノロジーを研究するライアン・フェダシウク氏は「ロシアとイラン、北朝鮮は利益や制度、さらには真の信頼を共有しているわけではない。共有しているのは共通の敵だ」と説明。
「歴史は、共有された不満に基づく連合は外部からの圧力が弱まるか、あるいは一国のコストが全体の利益を上回った瞬間に分裂する傾向があることを示している。まさにイランで起きているのがそれだ」と話した。
「ポートフォリオ分散」
米国のイラン攻撃とベネズエラでの軍事作戦展開は、中国共産党とその人民解放軍の慎重さ、さらには弱さを露呈したとの見方もある。
防衛コンサルティング会社ロング・ターム・ストラテジー・グループを率いるジャクリーン・ディール氏は人民解放軍について、「平時としては世界がこれまでに見たことのない規模の軍拡を進めてきたが、中国から遠く離れた場所で代理勢力を実力で防衛する能力は明らかに備えていない」と分析している。
もっとも、そこにも利点はある。ブッシュ(子)政権下で国務省に勤務したエバン・ファイゲンバウム氏は、自国から遠い地域で起きた戦争に巻き込まれず、周辺国との拘束力のある安全保障義務を負わないことが、中国が言う「核心的利益」への集中を可能にしていると論じている。
現在はカーネギー国際平和財団に所属する同氏は、「中東と中南米における中国の全体的な姿勢を適切に例えるには、マーケットのメタファーが一番だ。すなわち各地域でのポートフォリオ分散だ」と述べる。
「1つのパートナーというバスケットにすべての卵を入れることはしない。さまざまな問題に対応するには、さまざまなパートナーを持つことだ」。
原題:US Insiders See Iran War Hurting China-Backed ‘Axis of Chaos’(抜粋)
--取材協力:Jessie Jiang.
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