高次脳機能障害者支援法の成立

高次脳機能障害という用語には、行政的な「狭義」の概念と、臨床的な「広義」の概念という二つの側面があり、使われる場面によってその指し示す範囲が異なるため、それが適切な支援を阻む一因ともなっている。

狭義の高次脳機能障害とは、障害者手帳の取得や障害福祉サービスなどの行政支援の対象者を決定するために定められた「高次脳機能障害診断基準」の要件を満たす状態を指す。

具体的には、脳の器質的病変を原因として、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知機能低下が生じ、それにより日常生活や社会生活に著しい支障を来している状態である。

一方、広義の高次脳機能障害は、脳損傷に起因する認知機能障害全般を指す概念である。ここでは、記憶や注意といった全般的な機能低下に加え、行政的な定義(狭義)では除外あるいは別扱いとされることがある脳の特定部位の損傷に由来する失語・失行・失認といった「巣症状(そうしょうじょう)」も明確に含まれる。

したがって、医学的・臨床的な実態としての高次脳機能障害(広義)は、行政上の支援対象(狭義)よりも広範な病態を含んでいる。

こうした「医学的・臨床的な実態」と「行政制度」の並存により、混乱し納得のいく支援を受けられない当事者が存在する。

この状況のなかで、包括的な支援体制を実現すべく、2025年12月に「高次脳機能障害者支援法」が成立した。これは、当事者が単に制度によって「守られる」フェーズから、自らの人生を設計し「生き抜く」フェーズへと移行するための社会的な宣言でもある。

本稿では、高次脳機能障害者に対する支援制度の進化を解説するとともに、これまで語られることの少なかった「資産形成」という視点を取り入れ、自立への新たな可能性を提示したい。