(ブルームバーグ):中国で春節(旧正月)の公演に出演したヒト型ロボットが後方宙返りを披露し観客を沸かせてから数日後、労働者が人工知能(AI)に置き換えられ、経済の悪循環が引き起こされかねないと米国で小さな調査会社が警告し、市場に衝撃が走った。
意図したかどうかは別として、人間と並んでヌンチャクを振り回すロボットの映像は、生産性向上と雇用の安定をどう両立させるかという中国共産党の課題に改めてスポットライトを当てた。
シトリニ・リサーチのディストピア的な未来を描いたリポートに中国企業への言及はなかったが、中国にも同じようなリスクが迫っている。労働人口が世界最大級の中国は米国にとって最も手ごわいAI分野の競争相手だ。
こうした状況は、習近平総書記(国家主席)にジレンマを突き付けている。中国は先端製造業や軍事力強化に不可欠なテクノロジーを支えるAIを巡る対米競争に勝ち抜くため、自ら足かせをはめる余裕はない。一方で共産党は、社会不安を防ぐために十分な雇用創出を確保する必要がある。

元米政府高官で、今はDGAオルブライト・ストーンブリッジ・グループで中国とテクノロジー政策を専門とするポール・トリオロ氏は、「このプロセスが社会に重大な影響を及ぼす可能性を中国は認識している」と指摘。「当局はすでに高水準の若年層失業率に対処しており、さらなる雇用喪失の波は一段と対応を難しくする」と語った。
中国人事社会保障省は1月、3月公表予定の5カ年発展計画に先立ち、AIが雇用に及ぼす影響に対応する政策指針を策定中だと発表した。工業情報省の張雲明次官も1月、AIによる雇用圧力は「不可避」だと述べた。
自動運転車
それでもアジア一の経済大国、中国は、経済全体でAIを活用する取り組みを進めてきた。中国は毎年、他の国全てを合わせた数よりも多くの産業用ロボットを導入し、ドローン(無人機)配送で世界に先行し、他のどの国よりも多い自動運転車をテストしている。
ゴールドマン・サックスは、中国が自動運転車の導入で世界をリードし、2040年までに中国で販売される自動車の9割が高度な自動運転機能を備えると予想している。

影響を受けるのは、ブルーカラーの働き手だけではない。北京大学の研究者は最近、18-24年にオンラインで掲載された100万余りの求人情報を分析し、各職種がAIの大規模言語モデル(LLM)にどの程度さらされているかを測定した。
その結果、会計や編集、営業、プログラミングなどAIへのエクスポージャーの高い分野では、採用の減少幅が大きいことが分かった。
AI・検索大手の百度(バイドゥ)が24年に武漢市で自動運転のロボタクシーを開始した際、タクシー運転手の間で仕事を機械に奪われるとの懸念が広がった。自動化と雇用維持の緊張関係を象徴する一例だ。百度はその後、ロボタクシーを少なくとも22都市に拡大している。
中国の労働仲裁当局は昨年、この問題に判断を示し、労働者をAIで置き換えることは不可抗力ではなく利益を目的とした企業判断に当たると裁定した。
これは、企業が従業員を解雇する前に再訓練や配置転換を行う法的義務を負うことを意味する。こうした初期的な歯止めを設けている国はほとんどない。
SaaS産業なし
多くの中国国民にとって、共産党政権の正当性は生活水準の向上に依拠している。そのため、中国政府はいわゆる「人間中心」のAI導入を提唱してきた。
民主主義を推進する非営利団体フリーダムハウスによると、賃金を巡る抗議行動は少なくとも23年以降で最多の水準に急増しており、既に脆弱(ぜいじゃく)な労働市場はAI導入に対する感応度を一段と高める可能性がある。
長期化する不動産危機で悪化した広範な景気減速も、労働市場に影響を及ぼしている。世界銀行によれば、20-24年に中国で純増した雇用は約2100万人と、前の5年間に創出された数の半分に届かなかった。若年の失業率は過去6カ月間、15%強で推移している。
AIを巡る混乱は、中国では異なる形を取り得る。南カリフォルニア大学のアンジェラ・チャン教授(法学)によると、米株式市場で最近のAI関連の売りが直撃したようなソフトウエア・アズ・ア・サービス(SaaS)産業を中国は持たない。
中国のデジタル経済はアリババグループやテンセント・ホールディングス(騰訊)、字節跳動(バイトダンス)などの大規模プラットフォームのエコシステム(生態系)を中心に組織されており、SaaS絡みのバリュエーション(株価評価)ショックには比較的左右されない可能性もある。
それでもチャン氏は、AI主導の雇用代替による実質的なリスクに中国が直面しており、労働とデフレの圧力を打ち消そうと海外市場の開拓強化に向かう可能性があると警告した。
別のシナリオとしては、中国の人口減少により労働市場への新規参入が減ることで影響が和らぐ可能性があるほか、整備された教育制度がAIで職を失った人材の再訓練に寄与することも考えられる。
いずれにせよ、大半のアナリストは移行が痛みを伴うとの見方で一致している。
ジョンズ・ホプキンズ大学のエン・ユエン・アン教授は「現地で中国を研究してきた私の見解では、少なくとも今後数年はテクノロジーの進歩が雇用を減らす。そこには、教育を受けた層の仕事も含まれることは明らかだ」と分析。
その上で「中国のニューエコノミーがオールドエコノミーにすぐに取って代わるほどのハイペースで成長することは実際には不可能」との見解を示した。
原題:Xi’s AI Ambitions Collide With China’s Fragile Employment Market(抜粋)
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