トランプ米大統領は世論が不安定な中でイラン攻撃を開始した。任務に伴う米国の負担が小さい限り、乗り越え難い政治的圧力に直面し、終結を迫られる可能性は低いとみられる。だが、事態が悪化した場合には強い反発を受けかねないという点で、極めて脆弱(ぜいじゃく)な立場で戦争に踏み切った。

世論調査によれば、大半の米国民はイランの核開発計画を脅威とみなしている。ただ、1月のある調査では、全体の70%(無党派層では80%)がイランに対する軍事行動に反対すると回答した。いずれの層でも同程度の割合で、軍事行動を開始する前に大統領はいかなる場合でも議会の承認を得るべきだと答えた。

それにもかかわらず、トランプ大統領は世論の支持を築くための取り組みをほとんど行わないまま、イランとの戦争に踏み切った。先週公表されたAP通信・NORCの世論調査によると、トランプ氏が国外での武力行使に関する判断や、同盟国や敵対国との関係を適切に扱う能力について「ほとんど、あるいは全く信頼していない」と答えた米国民は約55%に上る。こうした堅固な多数派にとって、大統領の対応は安心材料とはなりにくい。

イランに対する攻撃を空爆のみに限定したトランプ氏の選択は、少なくとも一定のレベルでは、自らが公に認めている以上の厳しい政治的制約を認識していることをうかがわせる。トランプ氏は1月、ニューヨーク・タイムズ紙に対し、武力行使を決定する際の唯一の歯止めは自らの「道徳観」と「判断力」だと語ったことで知られる。だが、自身の広範な目標を達成するのに必要となる可能性が高い、地上侵攻をためらっている点は、別の力学にも縛られていることを示している。すなわち、米国に多大な犠牲者が出た場合に世論の激しい反発が起きる可能性だ。

共和党支持者は間違いなく今回の攻撃を支持するだろうし、過去およそ40年にわたりイランの最高指導者を務めてきた冷酷なハメネイ師の死を悼む米国人は、政治的立場を問わずほとんどいないだろう。だが、この戦争が米国民の死亡や国内外でのテロ攻撃、さらには原油価格の急騰といった事態を招けば、トランプ氏は民主党だけでなく無党派層からも強い反発に遭う可能性がある。

数日間の空爆で仮にイラン体制が崩壊すれば、トランプ氏にとって政治的な追い風がある程度強まる可能性は高い。ただ、それさえも長続きしないかもしれない。というのも、以前にイランに対して実施した爆撃作戦や、ベネズエラのマドゥロ大統領の拘束も、支持率の持続的な改善には結び付かなかったからだ。

むしろ、最も現実味があるとみられる曖昧な結果、すなわち一定期間の空爆で体制に打撃は与えるものの、打倒には至らないという展開からトランプ氏が政治的利益を得る姿を思い描くのは、いっそう難しい。

実際、そのような結末は同氏を弱体化させかねない。2期目のトランプ氏が直面する大きな問題の一つは、2024年の大統領選でインフレへの不満から同氏を支持した有権者の多くが、自分たちが期待した課題ではなく、ほとんど別のことばかりに力を注いでいると受け止めている点にある。先月のCNN・SRSSの世論調査では、成人全体の3分の2超、無党派層や若年層、有色人種では4分の3余りが、トランプ氏は国の最重要課題に十分な注意を払っていないと回答した。戦争に踏み切ることは、こうした懸念を和らげるどころか、むしろ強める可能性が高い。

中道寄りの民主党系世論調査アナリスト、エバン・ロス・スミス氏は、2024年は民主党が文化的な問題に気を取られて本来の課題から目を離したと訴えることに共和党は成功したが、いまはトランプ氏が中東情勢や他の海外紛争に過度に集中し、平均的な米国民が日々直面している家計上の懸念に向き合っていないと受け止められていると指摘。トランプ氏にとって下振れリスクは、見込まれる上振れの利益よりもはるかに大きい可能性が高いと述べている。

これほどの規模の国際紛争を、公に自らの行動を正当化する試みをほとんど行わないまま開始した大統領を思い浮かべるのは難しい。2003年のイラク侵攻に先立つ局面では、単独行動主義的だったジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)でさえ、国内外に向けて説得努力をはるかに継続的に展開していた。

トランプ氏は、この戦争を必要と考える理由をほとんど説明しておらず、何をもって成功と定義するのかも示していない。議会との協議にも積極的とは言えない。先週行われた一般教書演説は、キューバの元指導者カストロ氏を思わせるほどの長さだったが、今回の紛争への言及はわずかにとどまった。

さらに、1期目に出馬した際に「国家建設と体制転換を目指す現在の戦略は、完全な失敗であることが実証済みだ」と述べていた立場から、イランでの体制転換を目標として明確に掲げるまでに、どのように考えを変化させたのかについても、踏み込んだ説明はしていない。

共和党政権で国家安全保障分野の高官を務めた元当局者は、歴代政権は党派を問わず、敵対行為を始める前に国民やメディア、議会と向き合う必要があると認識していたと筆者に語った。「戦争を始めるときは、自分の支持基盤だけでなく、国全体とともに臨まなければならない」と話した。

しかし、トランプ氏はそのモデルに従う道をあえて選ばなかった。同盟国への協力取り付けと同様、議会と協議することにもほとんど関心を示していない。むしろ、同意を取り付けるといった正式な手続きを踏む必要は、もはやないと考えているかのような振る舞いを見せている。

もっとも、トランプ氏が前例のない形で米国の民主主義体制を揺るがしているとはいえ、同氏と共和党は11月にはなお有権者の審判を受けなければならない。そして、これほど明確に自らの判断で戦争に踏み切った以上、その政治的帰結は疑いなく自身が引き受けることになる。その現実は、地上の状況がどうであれ、最初の軍事攻撃の成功に浸っていられるうちに、そして痛みを伴う代償が積み上がる前に、早期に勝利を宣言しようとする動機になり得る。

先述の元当局者は2月28日、ミネアポリスで展開された政権の移民取り締まり強化策が、大統領の思考を読み解く手掛かりになるかもしれないと筆者に語った。トランプ氏は、州や地方当局の反対を押し切って数千人の連邦捜査官をミネアポリスに派遣し、大統領権限についてほぼ無制限ともいえる見方を示すとともに、連邦主義の伝統的な在り方を踏みにじった。しかし、その元当局者が指摘したように、連邦捜査官による中産階級の白人市民2人の殺害という、別の種類の「米国人の犠牲」が激しい世論の反発を引き起こすと、トランプ氏は迅速に方針を後退させた。

いまや米国政治は、国の将来像をめぐって相いれず、規模がほぼ拮抗(きっこう)する「赤(共和党)」と「青(民主党)」の勢力が塹壕(ざんごう)戦を繰り広げる構図となっている。その両者の力の均衡を左右しているのは、わずかな無党派層であり、彼らを突き動かす最大の要因は外交政策よりも、むしろ目の前の家計問題だ。

急速な体制転換や、コストが膨らむ泥沼化といった事態に至らない限り、トランプ氏による今回の軍事行動が、両勢力間の脆弱な均衡を大きく変える可能性は高くない。むしろ可能性が高いのは、抑制と均衡を基盤とする米国の憲法体制と、それを打ち破ろうとする大統領との間で、すでに揺らいでいる均衡がさらに不安定になることだ。

(ロナルド・ブラウンスタイン氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、政治と政策を担当しています。CNNのアナリストでもあり、これまでに7冊の著書を執筆または編集しています。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Iran Strikes Are Rife With Political Downside: Ronald Brownstein(抜粋)

もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp

©2026 Bloomberg L.P.