米国とイスラエルによる空爆を受け、イランの最高指導者ハメネイ師が死亡した。石油資源が豊富な中東での紛争は新たな段階に入った。ホルムズ海峡周辺では船舶航行に混乱が生じている。

米国とイスラエルは2月28日、イラン全土の標的を攻撃した。トランプ米大統領はイラン国民に政府打倒を呼び掛けた。イランの核計画を巡る協議が続いていたが衝突は回避されなかった。

トランプ氏は「歴史の中で最も邪悪な人物の一人が死んだ」と自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に投稿し、「激しく標的を絞った爆撃はしかしながら、1週間を通じて、あるいは必要な限り、中断なく続く」と続けた。

その数時間後、イラン国営メディアもハメネイ師の死亡を確認した。オフィス施設内で殺害されたとし、40日間の国家服喪の期間に入るという。

イランで30年余り権力を掌握した最高指導者が死亡した事実は、同国の中東での影響力を抑え込もうという米国およびイスラエルの軍事作戦を新たなレベルに引き上げるものだ。イラン側は、域内の米同盟国への攻撃や海上交通に対する脅しで対抗している。

今回の作戦は、トランプ氏にとって重大な局面となる可能性がある。11月の中間選挙を前に、エネルギー価格の急騰や米国側に犠牲を出す状況につながりかねない長期の地域戦争に発展するリスクをはらむためだ。

トランプ氏は攻撃開始直後にトゥルース・ソーシャルに投稿した動画で、「先ほど米軍はイランでの大規模な戦闘作戦を開始した。目的はイラン政権による差し迫った脅威を排除し、米国民を守ることだ」と述べた。

また、イラン国民に向け「自由の時は間近だ。私たちの作戦が終了したら、政府を掌握せよ。それはあなた方のものになる。恐らくこれは、何世代もの間で唯一の機会だろう」と呼び掛けた。

イランは直ちに反応し、イスラエルや中東域内の米軍基地、さらに金融ハブであるアラブ首長国連邦(UAE)ドバイを含むペルシャ湾岸諸国にミサイルを発射した。域内各国は相次いで自国の領空を閉鎖した。

米軍が駐留するサウジアラビアとカタール、UAE、クウェート、バーレーンはいずれも、イランによる攻撃を受けたと発表。大半の攻撃は迎撃したもようだ。

サウジは首都リヤド、および同国の油田が集中する東部地域の上空で、イランのミサイルを迎撃したと明らかにした。

イスラエル軍は、自軍の戦闘機が防空システムやミサイル発射装置を含む「約500の目標」を標的にし、イランの攻撃能力を大幅に低下させたと発表した。

米中央軍は、数百発に及ぶイランのミサイルや無人機による攻撃を米軍が迎撃したと声明で発表。米国側に死者や戦闘関連での負傷者は報告されていないと述べた。

米中央軍による攻撃対象には、革命防衛隊(IRGC)の指揮統制施設やイランの防空網、ミサイル・無人機の発射拠点、軍用飛行場などが含まれたとしている。「低コストで片道型の攻撃用無人機」を今回初めて実戦で使ったとも説明した。

イランのメディアは、防衛関連や民間の施設が攻撃を受け、南部ホルモズガーン州の学校への攻撃では64人が死亡したと報じた。首都テヘランでは複数の大きな爆発が報告された。イランのテレビによると、今回の攻撃により201人が死亡し、747人が負傷した。

テヘラン南部で煙が上がった(2月28日)(動画)

ホワイトハウス当局者は、対イラン軍事攻撃を受けてトランプ氏が28日に国民向けの演説を行う予定はないと述べた。

トランプ氏はこの週末、フロリダ州パームビーチにある私邸「マールアラーゴ」に滞在している。

6月時を上回る規模の報復

イランはイスラエルのほか、米軍が駐留する中東の国々をミサイルや無人機で攻撃。イランの準国営タスニム通信は、域内の全ての米軍基地と米国の権益が標的になると伝えた。

バーレーンは自国内の米軍基地が攻撃を受けたとし、カタールとUAEはそれぞれ領空でミサイルを迎撃したと発表した。UAEのドバイでは爆発音が確認された。

今回のイランによる報復攻撃は、昨年6月に自国の核施設をイスラエルと米国が攻撃した際の報復を、規模とスピードの両面で上回る。イランの政権が今回の紛争を体制存続の危機と捉えていることを示唆する。

イランのアラグチ外相はサウジとUAE、カタール、クウェート、バーレーン、イラクの各外相らと電話協議を行った。イラン外務省が声明で発表した。

アラグチ氏はこれらアラブ諸国に対し、米国とイスラエルによる対イラン攻撃に自国の領土や施設を利用させないよう訴えた。

米・イスラエルによる対イラン攻撃に関して、ブルームバーグテレビジョンの報道(動画)

今回の紛争が数週間に及ぶ地域戦争に発展すれば、UAEやサウジ、カタールなど湾岸における米国の同盟国にとって悪夢だ。こうした国々は、広がりつつある混乱や航空便の運航停止が経済に打撃を及ぼし、観光や海外からの投資に悪影響となる事態を懸念し、イランと米国の双方に外交的解決を強く働き掛けてきた。

UAE国営の首長国通信(WAM)によると、同国のムハンマド大統領とサウジのムハンマド皇太子は今回の情勢について話し合うため、対立を脇に置いて電話協議を行った。

 

原油市場

原油相場は先週、米国による攻撃が意識される中で上昇。北海ブレント先物4月限は27日に前日比2.5%高の1バレル=72.48ドルと、昨年7月以来の高値で引けた。米国とイランの緊張激化を主因に、年初来では20%近く上昇している。原油市場は週末は取引が行われない。

今回の攻撃を受けて、ホルムズ海峡の通航を回避するタンカーが相次いでいる。同海峡は、原油資源が豊富なペルシャ湾と外洋とを結ぶ重要な航路だ。

ホルムズ海峡の状況は依然として不透明で、周辺海域の一部船舶はイラン海軍を名乗る放送で、海峡が閉鎖されたとする内容を受信したと報告している。船舶への攻撃があったとの報告はこれまでのところない。

ブルームバーグが確認した通達によれば、日本郵船は自社の船舶にホルムズ海峡を通航しないよう指示した。

対イラン攻撃を受け、石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成する「OPECプラス」は3月1日の会合で、増産幅の拡大を検討する見通しだ。メンバー国代表の1人が明らかにした。

交渉の2日後

米国の攻撃は、イラン核問題を巡る3回目の交渉のため、両国代表団がスイスで会談した2日後に行われた。イラン側は交渉の進展に楽観的な姿勢を見せていたが、トランプ大統領は27日、交渉の進捗(しんちょく)状況に不満を表明していた。

トランプ氏は、イランが核兵器の放棄を拒否したことを受けて軍事作戦が開始されたと述べた。イランは、核兵器の開発は追求していないと繰り返し主張している。

トランプ氏は動画の中で「イラン政権は殺りくを狙っている。勇敢な米国の英雄たちの命が失われ、死傷者が出る可能性もある。それは戦争では起こり得ることだが、われわれは今のためではなく、未来のためにこれを行っている。崇高な使命だ」と語った。

米国とイスラエルによる対イラン攻撃について、米上院軍事委員会のウィッカー委員長は、「米国民と米国の利益を守るために極めて重要かつ必要な作戦だ」との声明を発表した。

一方、両国の仲介役を担ってきたオマーンのバドル外相は、米国に対して「これ以上引き込まれるべきではない。これはあなた方の戦争ではない」と発言。「活発かつ真剣な交渉が再び損なわれた」と述べた。

標的はイラン当局者

トランプ氏はイランが備蓄するミサイルと関連産業、および海軍の壊滅を米国として目指していると表明した。AP通信によると、少なくとも一つの攻撃が、イランの最高指導者ハメネイ師の事務所付近で発生した。

イスラエル軍当局者は匿名を条件に、今回の作戦ではイランの複数の当局者と軍事能力を標的にしていると明らかにした。ハメネイ師やペゼシュキアン大統領が含まれるかについてはコメントを控えた。

同当局者は、イランのミサイル生産と核施設の防護が急速に進んでいるとして、それが今回の攻撃理由だと説明した。

ロイター通信は匿名の米当局者を引用し、作戦は数日間続く見通しだと報じた。

 

米国はここ数週間、中東で数十年ぶりの大規模な軍備増強を進めてきた。トランプ氏は、昨年6月に命じたイラン核施設への限定的な攻撃よりも、さらに踏み込んだ目標を示唆している。

トランプ氏はイランに核計画の放棄を要求しているほか、ここ数カ月、イラン当局から厳しい取り締まりを受けている抗議デモ参加者への支持を表明した。

米当局はまた、イラン政府に対し、イスラエルへの重大な脅威と見なすミサイル計画の制限や、レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラなど域内の代理勢力に対する支援停止を求めている。

イスラエルのカッツ国防相は28日、攻撃の発表に際し、非常事態宣言を発令。同国が無人機やミサイルによる報復攻撃を受ける可能性があると述べた。イスラエル軍によると、国内全土でサイレンが鳴り響いた。

原題:Khamenei Killed as US and Israel Strike Iran in Widening War、Iran State TV Confirms Khamenei’s Death、Trump Says Iran’s Supreme Leader Khamenei Is Dead (1)、*IRAN DENIES TRUMP’S CLAIM THAT KHAMENEI HAS DIED, FARS SAYS、US, Israel Start Attacks on Iran in War That Engulfs Region (1)、Iran Strikes ‘Necessary’: Sen. Armed Services Committee Chairman、Oman Urges US ‘Not to Get Sucked in Further’ in Iran War(抜粋)

--取材協力:Dan Williams、Galit Altstein、Julius Domoney、Golnar Motevalli、Courtney McBride.

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