西半球に拘る理由は資源:西半球で満たせるもの、足りないもの

それでは、ベネズエラのように米国が中南米諸国、及び領有を求めているグリーンランドの資源権益を確保できる場合、米国の“資源リスク”に伴う経済安全保障はどの程度改善するのか。

南米最大の経済大国であるブラジルは、資源も豊富に有している。

有名なのは鉄鉱石(生産・埋蔵量とも世界第2位)だが、レアアースについても中国に次ぐ世界第2位の埋蔵量があるとされている。

また、鉄鋼の高強度化(自動車用鋼材・建材・造船などに使用)、ニッケル基超合金(ジェットエンジン部材など)、超伝導材料(MRIなど)に使用されるニオブについては生産量、埋蔵量とも世界第1位だ。

このほか、チリやペルーはAIの進展に絡む電力需要の増大につれて需要が急増している銅の世界最大の生産、埋蔵を誇るほか、蓄電のため世界的に需要が拡大しているリチウムも豊富だ。

一方、北米をみると、カナダはカリ、ウラン、ダイヤモンド、ニッケル、硫黄など、メキシコは銀、蛍石、ビスマス、鉛、亜鉛などの生産量が世界でも上位に入る。

さらに、米国がデンマークに対して領有移譲を求めているグリーンランドには、レアアースが豊富にあると期待されている。

このように、グリーンランドを含めた西半球には多くの資源があり、その権益を確保することができれば、米国の資源にまつわる経済安全保障のリスクは相当程度軽減される可能性がある。

一方で、それでも不足する可能性が高いものもある。図表は、米国が重要鉱物リストに挙げたもののうち、米州大陸及びグリーンランド、同盟関係の強い豪州で採掘可能な資源の権益を米国が確保したとしても、米国の需要を十分には満たせない可能性があるものについてまとめたリストである。

これを見ると、やはりレアアースやレアメタルについては西半球だけでは不足する公算が大きい。

上表で深刻度が「高」となっている鉱物について見ると、「テルビウム」「ジスプロシウム」のレアアースは重希土類に分類され、中国の生産シェアが圧倒的に高い。

「ロジウム」は白金族貴金属で南アフリカやロシアに偏在する。

「レニウム」は主にチリの銅鉱山から副産物として回収されるが、絶対量が少ない。

「ゲルマニウム」は60%以上、「ガリウム」は95%以上を中国の生産が占めている。

この中で、「ロジウム」以外は軍事用途にも重要な役割を持つ鉱物で、生産国側が安全保障上の脅威と見なす場合は、軍事用品に使用される場合は輸出を抑制することが可能だ。

レアアースについてはグリーンランドに豊富に存在するとの見方があるものの、これまでに行われてきた試掘は限定的で、実際にどの元素がどの程度存在するのかははっきりとは分かっていない。

一方、南鳥島近海の海底においては試掘に成功したばかりで内容の分析結果はまだ公表されていないが、先に行われたサンプル採取においては重希土類が豊富に存在する可能性が高いとの結果が得られている。

採掘コストについては中国産のものには適わないとの見方が多く、本格的な採掘体制が整うまではまだ時間もかかるものの、米国との共同研究体制方針が打ち出されており、米政府にとってはレアアースの「保険」となる。

とはいえ、現状では米国が西半球、及び豪州や日本といった「同盟国」間での資源サプライチェーンを構築したとしても、中国への依存が100%近い資源は残る。

ただし、上記に挙げた鉱物で言えば、「ゲルマニウム」は亜鉛精錬や石炭灰からの副産物、「ガリウム」はボーキサイト(アルミ原料)や亜鉛精錬の副産物として生産されることから、副産物の元となる工程(亜鉛精錬やアルミ精錬)をサプライチェーン内に組み込むことで解決は可能だ。