米ブラックストーンの創業者で最高経営責任者(CEO)のスティーブ・シュワルツマン氏がここ最近、日本のメディアで異例の存在感を放っている。世界最大級のオルタナティブ資産運用会社の手腕を30秒でアピールする日本語のテレビCMに出演。新聞広告やソーシャルメディア動画に加え、自身の伝記の復刻版も投入するなど、総合的な宣伝を展開している。

こうした異例のメディア攻勢は、同社が米国以外で最大のプライベート資産ビジネス機会とみる日本市場の取り込みを狙ったものだ。日本の家計に滞留する1122兆円の現金・預金のうち相当部分を保有する多数のミリオネアがターゲットとなる。ブラックストーンのほか、EQTやKKRなどもこれらの資金をプライベートエクイティー(PE、未公開株)やプライベートクレジットへ振り向けさせようと競っている。

運用資産1200億ドル(約18兆3300億円)を抱えるカナダの資産運用会社フィエラ・キャピタルで日本代表を務めるCJ・モレル氏は「ウェルスチャネルは激戦だ。誰もが自社商品を店頭に並べようと争っている」と語った。

日本への本格攻勢は、世界有数のバイアウトファンドが個人投資家の資金獲得に動く最新の試みだ。運用リターンが低下し、機関投資家が資金回収の遅れにいら立ちを強める中での動きとなる。米欧ではすでに個人投資家向けの事業展開が進んでおり、アジアでは日本が新たな焦点になっている。

その潜在力は圧倒的だ。UBSグループによると、日本のミリオネア人口は270万人に上り、米国、中国、フランスに次いで世界4位。これらの国の中で最速ペースで増加すると予測されている。

モルガン・スタンレーは、日本の富裕層が今後10年で397兆円を市場に投じると見込む。インフレ復活で債券のリターンや現金の価値が目減りするためだ。

ブラックストーン・プライベート・ウェルス部門 日本責任者の藤田薫氏は「人々は今や『現金は王様』という考えが終わったことを理解している。インフレに対抗するには金融資産を築く必要がある」と話した。

もっとも、日本の富裕層を取り込むのは容易ではない。高齢者が多く、退職後の生活資金を賄う安定的なキャッシュフローを重視する傾向がある。PEやインフラ、プライベートクレジットに連動する金融商品の多くは、売買期間が限られるセミリキッド(準流動性)型で、通常は四半期ごとにしか換金できない。

博報堂富裕層マーケティングラボ(HAML)の2025年調査によると、日本の富裕層に投資先を尋ねたところ、PEは高級腕時計、美術品、暗号資産(仮想通貨)などを下回り最下位だった。

個人の資産運用に詳しいバリューアドバイザーズ社長の五十嵐修平氏は「日本人は知らないものに対して怖さなどを結構感じる方だ。投資に向かっているが、ブラックストーンやKKR、オルタナティブ、PEなどはまだ全然認知度はない」と指摘した。

ブルームバーグ・ニュースが入手した資料によると、金融庁は最近開かれたイベントで、日本の個人投資家によるプライベート資産へのエクスポージャー拡大に言及しつつ、投資家が投資対象を十分理解する必要性を強調している。

金融庁の総括審議官、柳瀬護氏は東京でのインタビューで「当然の大前提として、商品特性、あるいは商品のリスク特性、あるいは商品の性質も含めて、適切な説明が必要だ」と述べた。

米国の学術論文は個人投資家にとってのリスクを指摘する。近年はPEのリターンが公開市場を上回っていないとし、個人投資家向けに流動性を高めることは長期資産としての利点の一部を損なうと論じている。

米国の法律学教授、ウィリアム・クレイトン氏とエリザベス・ドフォトネー氏は先月のリポートで「個人投資家をPEに組み込むことは、その特性を直接的に脅かす」と警鐘を鳴らしている。

映画プロデューサーの嶋村吉洋氏もプライベート市場に対する懐疑派の1人だ。不動産で資産を築き、現在はほぼ全資産を株式で運用する。プライベート資産への投資勧誘には応じていない。

同氏は、資金を投じたら数年間は引き出せないような投資は敬遠していると強調。「基本的にあまりファンドは買わない。コントロールしにくいからだ。一定の流動性があるのは大事だ」と語った。

一方、五十嵐氏によると、最近の株高を受けてプライベート資産やオルタナティブ投資への問い合わせは増え始めている。日経平均株価は3年連続で上昇しているほか、過去7年では6回の年間上昇を記録し、長年の低リターンから脱した。今年も15%上昇しており、先進国市場の中でも高パフォーマンスを維持している。

五十嵐氏は「株式はみんな割高だ」とし、多くの投資家が他の選択肢を探しているとの見解を示した。

心理変化

こうした投資家心理の変化に加え、高齢のミリオネアから次世代への資産移転が進む中、PE大手は商機を狙っている。

高齢者層はインカム重視の傾向がある一方、相続人世代にとってはプライベート市場がより適した投資先となり得ると、KKRのグローバル・ウェルス・ソリューション責任者、マルクス・エグロフ氏は指摘。東京でのインタビューで「今後数年間で、数十兆ドル規模の資産が次世代に移転する」と語った。

こうした動きは、家計資産を金融市場へ振り向けて経済成長を促す日本政府の方針とも重なる。また、野村ホールディングスなどの証券会社が、手数料収入を高めやすいプライベート商品やオルタナティブを中心とするウェルスマネジメントに軸足を移していることとも一致する。

国際的な運用大手は販売攻勢を強めるため、東京のザ・リッツ・カールトンなど高級ホテルや会員制クラブでイベントを開催。金融アドバイザーがホタテのオードブルやシャンパンを手に企業幹部と交流する場で商品を売り込んでいる。

こうした取り組みは一定の成果を上げ始めている。日本証券業協会のデータによると、2025年に設定されたオルタナティブ戦略関連の7商品で約18億ドルを調達した。24年に設定された商品を含めると総額は約55億ドルに達する。これは公表分のみで、最低投資額が高い一部商品はプライベートバンク経由で提供されており、データは入手できない。

ブラックストーン優勢

これまでで最も資金を集めているのはブラックストーンだ。同社のPE戦略は24年の開始以降、20億ドル超を調達。23年開始のプライベートクレジット商品も19億ドルを集めた。資金流入の大半は現金・預金や満期を迎えた債券からの乗り換えだと藤田氏は説明する。

東京都の会社役員、依田泰典氏(48)はプライベート資産への投資を始めた1人だ。KKRのPE戦略を含め、金融資産の約3分の1をこれらの商品に投じている。他に収入源があるため、流動性の制限は気にしていないという。

依田氏の投資はすでに利益を上げている。プライベート資産の多くがドル建てで、近年の円安進行が寄与。プライベート資産は分散投資の観点からも重要だとみる。

同氏は「ポートフォリオは定期的に入れ替えを図っている。今後もPE関連は増やし続けていく予定だ」と述べた。

販売網

世界の運用大手は、依田氏のような個人投資家に商品を届けるため、国内証券会社との連携が不可欠だ。過去1年で、KKRやEQT、アレス・マネジメントは野村や大和証券グループ本社などと提携し、プライベート市場戦略に連動する商品を投入した。最低投資額は通常約5万ドルだ。

野村ホールディングスの奥田健太郎CEO

野村ホールディングスのCEO、奥田健太郎氏は、オルタナティブ資産の運用残高を31年までに10兆円超へ引き上げる方針を示している。昨年12月時点では約3兆3000億円だった。

ストックホルム拠点のEQTが昨年、日本で主力のPE戦略を立ち上げた際には、同社のウェルスチームが3週間で三井住友フィナンシャルグループの営業拠点約80カ所を回り、アドバイザー向けに商品説明を行った。EQTにとって日本はアジアで最優先市場の一つだと、日本のプライベートウェルス幹部は語った。

原題:Blackstone Leads the Race to Unlock $7 Trillion of Cash in Japan(抜粋)

--取材協力:横山桃花、浦中大我.

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