スーパーの棚に並ぶプライベートブランド商品を前にして、私たちはいつから迷わずそれを手に取るようになったのだろうか。
かつて「安いけれど正体がよく分からない存在」だったプライベートブランドは、いまや小売企業そのものを象徴する“顔”となり、ナショナルブランドと並んで選択肢の中心に位置している。
本稿では、プライベートブランドがどのようにして消費者の不安を乗り越え、信頼を獲得してきたのかを辿りながら、その背後で静かに変質してきたナショナルブランドとの関係を読み解いていく。
今更だけどプライベートブランドについて話したい
私たちが日常的にスーパーマーケットへ足を運ぶと、ほとんどの店舗で、幅広いカテゴリーにわたる独自の商品ラインが展開されていることに気づく。
これらは、そのスーパー、あるいは系列企業が開発・販売する、いわゆるプライベートブランド(PB)である。
「セブンプレミアム」がセブン‐イレブンやイトーヨーカドーを想起させ、「トップバリュ」がイオングループを象徴するように、今日のプライベートブランドは、もはや単なる低価格帯の商品群にとどまらない。
むしろ、一種の“メガブランド”として、企業やグループを識別する役割を獲得しつつある。
結果としてプライベートブランドは、小売企業の「顔」として、店舗の世界観や価値観を消費者に伝える重要なメディアとなっている。
プライベートブランドの歴史を振り返ると、日本では1960年代に、大手百貨店やスーパーマーケット、さらには日本生活協同組合連合会などが、独自商品としてのプライベートブランド開発に着手していた。
しかし、プライベートブランドが社会的な注目を大きく集めるようになったのは、2006年前後の経済環境の変化が契機である。
石油や原材料価格の高騰、そしてサブプライムローン問題に端を発する世界的な経済危機は、ナショナルブランド(NB)商品の価格上昇を招いた。
同時に、消費者の節約志向も強まり、価格競争力と一定の品質を両立させたプライベートブランドは、急速に支持を拡大していった。
その象徴的な出来事が、2008年の各種ヒット商品ランキングである。「日経トレンディ」の『2008年ヒット商品ベスト30』では「PB(プライベートブランド)」が1位に選出され、「日経MJ」の『2008年日経ヒット商品番付』では、セブン‐イレブンの「セブンプレミアム」やイオングループの「トップバリュ」が西の横綱として位置づけられた。
これらの評価は、プライベートブランドが単なる低価格商品ではなく、消費者の購買行動を左右する重要なブランドカテゴリーとして確立したことを示している。
こうした状況のなか、筆者が学生であった2010年頃には、マーケティング論・ブランド論・流通論といった講義において、プライベートブランドと、それと対をなすナショナルブランドとの関係性が頻繁に取り上げられていた。
ナショナルブランドとプライベートブランドの違い
一般に、プライベートブランド(PB)とは、流通業者が主導して製造業者と連携し、独自に開発・生産され、比較的低価格で販売されるブランド(商品)を指す。
一方、ナショナルブランド(NB)は、製造メーカーが自社商品の識別機能として名称やロゴを付与し、メーカー主導で市場に展開される点に特徴がある。
ナショナルブランドは、キッコーマンやカルビーといったメーカー名に代表される企業ブランドを指す場合と、「うちのごはん」や「ポテトチップス」など、メーカーが擁するプロダクトブランド(商品ブランド)を指す場合がある。
もっとも、実際の購買行動や市場分析においては、企業ブランド同士が直接比較されるというよりも、カルビーの「ポテトチップス」とプライベートブランドのポテトチップスといったように、特定のプロダクトブランドから展開される商品ラインと、同一カテゴリーに属するプライベートブランド商品が比較対象となることが一般的である。
当時よく語られていたのは、プライベートブランドが低価格を実現できる理由である。プライベートブランドは、パッケージデザインや容量などの商品仕様を柔軟に設計できるうえ、広告宣伝費や営業費用を抑えられる。また、卸売業者を介さない流通構造により、小売業者にとっては高い利益率を確保しやすい。
さらにメーカー側にとっても、小売業者によって一定量の販売が見込めるため、生産計画が安定し、効率的な製造が可能となる。こうした利害の一致によってコスト削減が実現し、消費者に低価格で提供できるという構造が成立していた。
この結果、当時のプライベートブランド商品では、問い合わせ窓口が小売業者に一本化され、製造者(メーカー)がパッケージ上で明示されないケースが少なくなかった。これは、「誰が作った商品なのか」が消費者にとって見えにくい状態を意味する。
そのため消費者は、「製造者が分からないが安価なプライベートブランド」と、「製造者が明確でプライベートブランドより高価なナショナルブランド」のいずれを選択するかという判断を迫られることになった。
現在ではプライベートブランドが広く普及し、その名称自体が小売企業のブランド力と結びつき、品質保証の役割を果たすようになっている。
しかし当時の消費者にとっては、「聞いたことのないブランド名」「テレビCMで見たことがない」「なぜ醤油からカレー粉、飲料、菓子まで幅広く展開しているのか」といった疑問を抱くことも少なくなかっただろう。
メーカーが非公開であることは、低価格を実現する大きな要因である一方、商品選択における不安材料にもなり得た。
実際、ヤフーバリューインサイト株式会社が2008年に実施した「PB(プライベートブランド)に関する調査」では、前年よりPBの購入が減少した理由として、最も多かった回答が「他の一般的なメーカー商品の方が安心・安全と思えるから」(21%)であった。
加えて、「産地や原産国のわかる商品が少ないから」(6.1%)、「製造メーカーが記載された商品が少ないから」(3.0%)といった回答も挙がっており、当時のプライベートブランドが抱えていた情報面での不安がうかがえる。
同調査では、PB商品に対する要望や購入時の意識についても聞いているが、「製造メーカーは必ず記載してほしい」が41.1%を超えている。中でも女性30代では52.0%と、半数を超えている。
また、ジャストリサーチサービス株式会社が同年に実施した「PB(プライベートブランド)に関する調査」では、PBを購入する際に気にしている点として「製造メーカー」を挙げた回答が3割を超えており、製造主体の明確さが重要な判断材料となっていたことが示されている。
さらに、インターワイヤード株式会社による「プライベートブランドに関するアンケート」においても、「PB商品を購入しない理由」として、「メーカーのブランドのほうが安心だから」「メーカーのブランドの方が品質が良さそうだから」といった回答が挙げられており、当時は、プライベートブランドに対して「安かろう悪かろう」というイメージが依然として根強く、製造者情報の不透明さが消費者の不安や購買抑制につながっていたことが読み取れる。
他方で、裏側の情報に通じている消費者にとっては、製造者が明かされていなくとも、「実はあの有名メーカーが作っているプライベートブランド商品」を見抜くことで、ナショナルブランドと同等の品質の商品を、より低価格で入手できるという利点も存在していた。
プライベートブランドに対する信頼の構築
その後、プライベートブランド商品の情報開示のあり方は、消費者との信頼形成をめぐる要請とともに大きく変化していく。
かつては製造者名をあえて明示せず販売されていたプライベートブランド商品も、次第にパッケージ裏面に販売元と併せて製造所在地が記載されるようになった。その後、販売元と製造業者の双方を明確に示す商品も増加している。
とりわけコンビニエンスストアの菓子類では、ナショナルブランドとして販売される際の商品名やロゴ、キャラクターが、そのままパッケージに掲載されるケースも珍しくなくなった。
このように、現在のプライベートブランド商品は、パッケージを確認すれば製造メーカーを容易に判別できるだけでなく、そのメーカーが自社ブランドとして展開するナショナルブランド名まで把握できる場合も多い。
もはや「製造者が明かされていないから安い」というプライベートブランドの旧来のイメージは後退し、情報開示の進展によって、匿名性ゆえの不安は大きく軽減されつつある。
こうした変化は、プライベートブランドが単なる低価格戦略から脱却し、「誰が作っているのか」を可視化することで、消費者とのあいだにより強固な信頼関係を築こうとしていることを示している。
同時にそれは、ナショナルブランドが長年にわたって蓄積してきたブランドへの信用やロイヤリティに依拠し、「これは、パッケージは違うけれども、あのナショナルブランドのあの商品と同じだよ」というメッセージを、消費者へ伝える試みとしても捉えられる。
筆者が特に驚かされたのは、ある大型スーパーのプライベートブランドコーナーで目にした光景である。
そこでは、運営側が用意したと思われるポップによって、各プライベートブランド商品がどのメーカーによって製造されているのかが、一目で分かるように整理されていた。かつて、プライベートブランドの構造を踏まえると、これは象徴的な転換点と言える。
このように情報開示が進んだことで、プライベートブランドに対する消費者の不安は軽減され、商品単位での信頼が徐々に蓄積されてきた。
こうした信用の積み重ねは、プライベートブランドが特定のカテゴリーにとどまらず、食品から日用品に至るまで幅広い分野へと展開する土台となっている。
たとえば、醤油において、あるナショナルブランドを手がけるメーカーが製造していることが明示されることで、「このPBの醤油は、あのメーカーが作っているのだから間違いない」と受け止められる状況が生まれる。
重要なのは、この時点でナショナルブランドが直接保証しているのは、あくまでそのPBの醤油という一商品に過ぎないにもかかわらず、その評価が「このPBは信頼できる」という認識へと拡張されていく点である。
消費者は、醤油という特定カテゴリーで得た安心感を手がかりに、「このPBであれば、他のカテゴリーの商品も一度試してみてもよい」と判断するようになる。
その結果、本来は異なるメーカーが製造し、異なる品質評価軸を持つはずの別カテゴリーの商品にまでその醤油がきっかけで生み出された信用が横断的に波及し、プライベートブランドそのものが商品選択の基準として機能するようになっていく。
すなわち、製造メーカーを明かすという行為は、個々の商品の品質を担保するだけでなく、プライベートブランド全体のブランドへの信頼やロイヤリティを高めることに寄与しているのである。
その結果、プライベートブランドは、単なる商品群の集合を超え、小売企業が展開する一種の包括的なメガブランドとして、独自の信頼と存在感を獲得しつつあるのである。
まとめ
もともとプライベートブランドが低価格を実現できた背景には、製造者情報を明かさず、広告宣伝費や流通コストを抑えるという構造があった。しかし、製造メーカーや関連するナショナルブランド名が明示されるようになった現在、その構造は大きく変化している。消費者は、パッケージこそ異なるものの、実質的にはナショナルブランドと同等の品質の商品を、より低価格で購入しているに過ぎない状況も少なくない。
プライベートブランドの支持が拡大している背景には、単なる節約志向の高まりだけでは説明しきれない要因がある。消費者は価格だけでなく、「このPBだから安心できる」「このPBだからおいしい」といった評価を基に商品を選択するようになっている。
すなわち、プライベートブランドは、製造メーカーの名称に直接依拠することなく選ばれるだけの信頼を獲得しつつあり、かつてナショナルブランドの信用に支えられて成立していた品質保証は、現在ではプライベートブランドそのものが担うようになっているのである。
結局のところ、プライベートブランドを製造するメーカーにとって最大のメリットは、利益率の高さではなく、全国規模での安定した大量受注によって、生産計画や設備稼働を安定させられる点にある。
しかしその一方で、ブランドとしての評価やロイヤリティは小売側に蓄積されていくため、ナショナルブランドとしての独自価値をいかに維持・強化していくかは、メーカーにとってますます重要な課題となっている。
そもそも、再三論じてきた通り、プライベートブランドの信頼は、ナショナルブランドが長年にわたって築いてきた品質や技術への信用を参照することで成立してきた側面が大きい。
もし今後、ナショナルブランド商品が実際に消費される機会が減り、プライベートブランドばかりが選好される状況が進めば、消費者がメーカーに抱く信頼は、実際の購買や使用経験に基づくものではなく、「よく目にする」「有名なメーカーである」といった表層的な接触に依存するものへと変質してしまう可能性がある。
その結果、メーカーにとっては、自社ブランドの価値を実感として伝え続けるための広告宣伝やブランド発信に、これまで以上のコストを要する構造が生まれることも考えられる。
プライベートブランドの拡大は、メーカーに安定をもたらす一方で、ナショナルブランドの存在意義や育成のあり方を、あらためて問い直す契機となっているのではないだろうか。
※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 研究員 廣瀬涼
※なお、記事内の「図表」と「注釈」に関わる文面は、掲載の都合上あらかじめ削除させていただいております。ご了承ください。
