(ブルームバーグ):銀市場の歴史を振り返ると、価格が1オンス=40ドルを上回ることすら、昨年以前にはごく短期間に数回あっただけだった。ところが1月30日、20時間足らずで40ドル余り急落するのを、疲弊したトレーダーらは衝撃とともに見守ることになった。
ここ数週間、金属市場のトレーダーは夜通し画面にくぎ付けになっていた。金から銅、スズに至る、あらゆる金属価格が需給ファンダメンタルズの重力から解き放たれたかのように急騰したためだ。背景にあったのは、中国の投機筋から流れ込んだホットマネーの波だった。
しかし、その高騰はわずか数時間で反転し、商品相場史上でも屈指の劇的な急落を演じた。銀は30日に26%急落し、過去最大の下げを記録。金は9%下落し、十数年ぶりの大幅安となった。銅市場では、前日に1トン=1万4500ドル超に急騰した後、瞬く間に崩れ落ち、すでに大きな動揺に見舞われていた。
地金精錬大手ヘレウス・プレシャス・メタルズでトレーディング責任者を務めるドミニク・シュペルツェル氏は「私のキャリアの中で、間違いなく最も異常な動きだ」と指摘する。「金は安定の象徴だが、これほどの値動きは安定の象徴とは言えない」と述べた。
30日の急落の引き金となったのは、トランプ米大統領がケビン・ウォーシュ氏を米連邦準備制度理事会(FRB)の次期議長に指名する方針だとの報道で、これを受けてドルが上昇したことだった。ただし市場関係者の多くは、数週間にわたる絶え間ない上昇を経て金属市場は過熱状態にあり、調整局面を迎えるのは時間の問題だと警告していた。
それでも、下落のスピードと規模は息をのむほどで、特に金のように規模が大きく流動性の高い市場では異例だった。
欧州や米国の金属トレーダーは、最も急激な値動きが起きていたアジア時間の取引を逃すまいと、昼夜を問わず対応に追われてきた。長距離フライトの機内でも必死に取引していたほどだ。先週ドイツで開催された世界最大のコイン関連会議では、企業幹部らが携帯電話を見つめたまま立ち尽くし、事態の進展を無言で見守っていた。
MKS PAMPの金属戦略責任者ニッキー・シールズ氏は30日の市場について、「パラボリック(放物線状)」「熱狂的」「取引不能」といった表現が当てはまるとリポートで指摘。2026年1月は「貴金属市場史で最もボラティリティーの高い月」として記録されるだろうと述べた。
熱狂的なペース
金の上昇相場はここ数年にわたって形成されてきた。中央銀行がドルに代わる資産として保有を拡大してきたことが背景にある。さらに昨年には、欧米の投資家がいわゆる「ディベースメント取引(通貨価値下落に備えた売買)」に殺到したことで、上昇が加速した。
ただ、ここ数週間に上げのペースが一段と過熱。個人投資家から商品市場に参入する大型の株式ファンドに至るまで、中国の投機筋による買いが波のように広がり、銅や銀などの金属価格を相次いで過去最高水準へと押し上げた。価格が急騰する中、トレンド追随型の商品投資顧問(CTA)も参入し、相場の過熱感に拍車をかけた。
ヘッジファンドのインフラ・キャピタル・アドバイザーズで最高投資責任者(CIO)を務めるジェイ・ハットフィールド氏は、「これはファンダメンタルズの取引ではなく、モメンタム取引に変わったと、3-4週間ほど前に認識していた」と話す。「われわれはただ流れに乗り、こうした事態が起きるのを待っていただけだ」と続けた。
価格変動が最も激しかったのは銀だ。銀市場は比較的小規模で、年間供給は現在の価格水準で980億ドル(約15兆1700億円)相当にとどまり、金の7870億ドルに比べて小さい。
30日には、銀を裏付けとする最大の上場投資信託(ETF)、iシェアーズ・シルバー・トラスト(ティッカー:SLV)の売買代金が400億ドルを超え、世界で最も取引された証券の一つとなった。数カ月前まで売買代金が20億ドルを超えることはまれだった。
近年、個人投資家の間で人気が高まっているオプション取引でも、同様に熱狂的な動きが見られた。
一部投資家の間では相場上昇に賭ける安価な手段と受け止められており、過去に個人投資家の銀投資ブームを後押ししたオンライン掲示板レディットには、銀価格の急騰に賭けることで1000%超の利益が得られる可能性を示す投稿が相次いだ。
ここ数週間、主要な金と銀のETFではコールオプション(買う権利)の建玉と取引高がそれぞれ過去最高を記録し、SLVのコールオプション取引高は、ハイテク株で構成するナスダック100指数に連動する主要ETFを上回った。
コールオプションの建玉が多い状況では、いわゆる「スクイーズ」が起きやすくなる。価格が上昇し始めると、ディーラーがポジションをヘッジするために原資産を買い急ぎ、それがさらなる価格変動を招くためだ。
ヘッジファンドのブリッジウォーター・アソシエーツで商品部門責任者を務めたことがあるアレクサンダー・キャンベル氏は、「スクイーズで価格が押し上げられれば、機械的に買い増しを続けざるを得なくなる」と解説。「これほど急激に上昇し、また急落した理由はそれで説明できる」と話した。
トランプ大統領が27日、下落圧力がかかっていたドルについて「素晴らしい」と発言したことが、金属買いの最終的な熱狂に火を付け、価格を新たな高値へと押し上げた。29日までに、金は1オンス=5595ドルに達し、銀は121ドルを突破、銅は1トン=1万4527.50ドルを付けた。
反転の最初の兆しは29日に現れた。米国市場の取引開始とともにドルが上昇に転じ、金は突然急落。金は一時約10分間で200ドル超下げた。
価格はいったん落ち着いたものの、その後、トランプ氏が次期FRB議長にウォーシュ氏を指名する方針だとブルームバーグ・ニュースなどが伝えた。これまでなら、アジア時間の朝の取引で確実に価格が押し上げられ、眠気眼の欧州トレーダーが驚きをもって見守る展開が続いてきたが、今回は中国の投資家が利益確定に動いた。こうして、30日の劇的な急落の種がまかれた。
「中国が売りに出て、われわれは今その影響を被っている」と前出のキャンベル氏は語った。
今後の展開も、再び中国次第となる可能性がある。投資家は中国の金属需要が持ち直すかどうかを見極めるため、ニューヨーク時間2月1日曜夜に上海市場の取引が始まるタイミングを注視している。中国の取引所では、銀の各種契約に1日当たり16-19%の値幅制限が設けられており、上海市場の価格は他市場に追いつく動きを迫られる可能性がある。
それでも、伝統的な買いのシーズンである春節(旧正月)を控えた今回の調整は、上昇相場に乗り遅れていた個人投資家にとって、新たな参入機会となる余地もある。主要な地金取引拠点である中国・水貝ではこの週末、買いよりも売りが多く、銀の逼迫(ひっぱく)感はいくぶんか和らいだとトレーダーは話した。ただ、パニック的な売りの兆候は見られず、水貝の銀価格は依然として取引所の契約価格を上回るプレミアム水準で取引されているという。
原題:How Chinese Speculators Set the Stage for Gold and Silver Crash(抜粋)
(最終2段落に週末の動きなどを追加し、更新します)
--取材協力:Alfred Cang、Winnie Zhu.
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