有価証券報告書の「事業等のリスク」への記載は、企業の経営姿勢やリスク管理能力を知る手掛かりとなる。

同項目を対象としたテキスト分析では、地政学リスクに関連したワードでみると『サイバー攻撃』に言及した企業の割合が最も高く、『サプライチェーン』『地政学』などが続く。

2025年には『関税』に言及した企業の割合が急増し、大きなトレンドを形成したことが確認される。

なお、国の制度等に関連した『経済安全保障』への言及は、割合として増加傾向にあるものの水準自体は高くない。

企業の地政学リスク関連の言及は、過去5年間で大きく増加しているものの、そこに込められた意味は多様化している。

企業規模や業種における濃淡も生じている。

地政学リスクが世界を揺らす中、2026年は中小企業へのリスク認識の広がりが問われる年になりそうである。

2026年、地政学リスクが高まる

2026年は、年初から地政学リスクに世界が揺れている。

トランプ政権によるベネズエラ攻撃と同国大統領の拘束は、世界にとって大きな衝撃だった。

米国は昨年12月、西半球を米国の排他的勢力圏として再定義したドンロー主義を掲げた国家安全保障戦略を策定し、米国第一主義を実現するため、軍事力の行使も辞さない姿勢を明確にしている。

昨年は、2022年に勃発したウクライナ情勢に中東情勢が重なり、トランプ政権の関税措置の導入も加わって、地政学リスクが大きく上昇する年となった。

さらに、今年は米国によるグリーンランド買収構想、それに伴う米欧間の亀裂の深まりなど、地政学リスクは一層高まる方向にある。

こうした国際情勢の変化を受けて、企業を取り巻く事業環境は複雑さも増している。

有価証券報告書のテキスト分析を通じて、企業の地政学関連リスクへの認識を可視化し、その背景について考察する。

調査手法

テキスト分析

テキスト分析とは、大量のテキストデータから意味ある情報や特徴を取り出す手法の総称であり、文章データ(テキスト)と採掘(マイニング)の言葉を組み合わせて、テキストマイニングとも呼ばれる。

テキスト分析では、語の出現頻度や共起関係などを統計的に分析し、定性的な情報を定量的な情報として示すことで、文章に内在する構造や特徴を把握することが可能となる。

利用データ

本稿の分析では、金融庁が提供する電子情報開示システム「EDINET」に掲載された有価証券報告書のテキストを対象とする。

各年4月1日から6月末日までに有価証券報告書を提出した東証上場企業のうち、2021年から2025年まで5年連続して有価証券報告書の公表が確認できた1,992社の3月決算企業が分析対象となる。

企業の業種区分については、証券コード協議会が定めた17業種区分を使用し、企業規模については、簡易的に東証規模別株価指数の区分を用いている。

具体的には、TOPIX Core30およびTOPIX Large70の企業を大企業、TOPIX Mid400に区分される企業を中堅企業、TOPIX Small 1およびTOPIX Small 2、それ以外の企業を中小企業としている。

テキスト分析は、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に重要な影響を与える可能性があると、経営者が認識している主要なリスクについて記載された項目である「事業等のリスク」を対象に実施した。

この項目には、経営者がどのリスクを重要と認識したかが記載されるため、企業の経営姿勢やリスク管理能力を知る手掛かりとなる。

なお、有価証券報告書の作成は、決算日以降に行われるため、3月決算企業の場合、6月頃までに明らかになったリスクのうち、経営上重要性が高いと判断されたものについては、一定程度反映される可能性が高い。