将来の見通しに不安を感じる学生~進学率の上昇が大学卒で働く母集団を押し上げる

一方、2025年の大学(学部)の学生数は297.2万5人となり、過去最多を更新した。

18歳人口の長期的な減少に伴って学生数は将来的には減少局面に入ると見込まれるが、足元では進学率の上昇が学生数を下支えしている。

進学率そのものは、女子については男女雇用均等法が制定された1985年頃から、男子についてはバブル崩壊直後の1991年頃から、いずれも上昇傾向に転じている。

たとえば、2000年時点の進学率は39.5%(男性47.2%、女性31.4%)であり、そこから約25年で20ポイント弱上昇している。

この進学率の上昇が、大学卒として就職市場に参入する層の規模を着実に押し上げてきたことは、現在の大学生が抱える「不安」を考察する上での前提となる。

また、就職率、若年失業率、大卒・院卒求人倍率といった指標を見る限り、足元の雇用環境は良好であり、「売り手市場」と表現される局面が続いている。

少なくとも2022年11月にChatGPTの試用版がリリースされて以降、生成AIの業務利用率が2023~2025年に上昇する局面においても、大学卒業者の就職率(4月1日現在)は高水準で推移しており、大卒求人倍率も高い水準を維持している。

したがって、マクロの就職率や需給環境という観点に限れば、生成AIの普及が新卒雇用の総量を毀損しているといった兆候は、現時点では明確には表れていないように見える。

もっとも、AIの影響は、職種構成や採用選抜のあり方、職務内容の変化、さらには就職の質や定着といった構造的な側面に現れる可能性が高い。

これらは、就職率や求人倍率といった集計指標だけでは把握しきれない領域である点には留意したい。

一方で、報道などを見ると、海外事例を中心に、生成AIの活用拡大に伴う採用抑制やリストラクチャリングを明確に理由として掲げるケースも見られるようになった。

これに対し、国内企業においては、AI導入を含むデジタル投資が人員構成や業務配分に影響を及ぼす動きは確認されるものの、現時点では、生成AIを直接の理由として新卒採用を抑制すると明言するケースは、まだ限定的であると見られる。

このような環境下において、生成AIの社会浸透への学生の「不安」がぬぐえない背景には、直近の就職活動の成否にとどまらず、生成AIの雇用への影響を強調するニュースが報じられる中で、将来のキャリアの見通しへの影響を意識せざるを得ないといった要因もあると思われる。

大学生が感じる「生成AI×消費」の典型的な不安~便利さが「意思決定の筋力」を落とす懸念

このように、「将来のキャリア」に対する不安と関連して、学生からは「生成AI利用に伴う自らの能力開発への不安」もよく聞かれる。

あくまで筆者が受け持つ講義の受講生(大学生)に限られるが、生成AIと自己成長に関連する不安の典型例として次の様な点が整理されることが多い。

1)(生成AIを使うと)自分がやった感が薄れてしまう

AIに任せすぎることで、情報収集・比較・再考といったプロセスが省略され、意思決定への主体性が弱まってしまうのではないか、という懸念

2)(生成AIを使っても)ブラックボックス・信憑性への不安がぬぐえない

「断定的に示される」と(根拠を確認したり、検証をせず)信じてしまう、といった不安

3)(生成AIを使い過ぎると)情報の偏りや、視野が狭くなってしまうかもしれない

レコメンド機能が強く働くことで、自身の情報探索の多様性が失われ、偶然の発見(セレンディピティ)も減り、自己成長の機会や成長そのものに歪みを生んでしまうのではないか、という懸念

4)(生成AIを使われ過ぎると)生成物の氾濫で見分けが難しくなり、意図せず誘導されてしまう

生成情報の真偽や質の判別が難しく、誤った知識や体験・購入に「無意識に」誘導される懸念

5)(生成AIの)擬人化・親しみやすさが過ぎると距離感が崩れて何でも頼りすぎてしまう

親しみやすさが高まることで危機感が薄れ、AIへの過信や頼りすぎてしまうことへの懸念

このように、学生の不安は、単に「AIが持つ技術的な欠点(例:AIによる幻覚/ハルシネーション)」に基づくもののみではない。

彼らが感じているのは、たとえば「自分がやった感じが薄れる」「情報が偏る」「視野が狭まる」など、突き詰めれば「自分の力や価値観が何に立脚するのか」といった自己成長の土台が揺らいでいることの表れでもある様に見える。

そして、そういった感覚は、一般論として、キャリアに必要な能力開発に対する不安にもそのまま結びつきやすい。

この点は、既存の調査結果ともある程度重なっている。

ニッセイ基礎研究所が2025年に実施した「社会人生活への不安」の調査では、「仕事についていけるか、自分の能力でやっていけるか」という不安が、社会との接点が強く意識される「内定後の学生」と「25歳未満の社会人」で特に高い水準にあることが示されている(学生/内定前:28.2%、内定後:41.8%、社会人25歳未満:40.8%)。

もっとも、これらのデータから、社会人生活への不安が生成AIによってのみ直接引き起こされていると断定することはできない。

ただし、先の学生の声を重ね合わせて考えると、生成AIの浸透によって自身の成長に何らかの影響があるのでは、という不安そのものは否定しがたい様にも思われる。

その点について、NTTモバイル社会研究所による2025年の調査によれば、生成AIで不安を感じている人が、どのような不安を感じているのかについての調査結果において、評価項目8項目のうち、全体上位は「フェイクコンテンツが出回る」「思考力低下や学力低下を及ぼしそう」「情報漏洩のリスクがありそう」「人間の仕事を奪われるリスクがありそう」となっている。

「思考力低下や学力低下を及ぼしそう」という不安は全体的に30代以上で高く、20代は全体より低位ではあるものの、それでも4割前後(20代:39%)が不安を感じていることがわかる。

また、生成AIはタスク処理の近道になる(結果として生産性は上がり、タスクは早く完了する)が、担い手の能力形成を保証しないという点が実証的に示された先行研究も存在する。

この結果は、生成AIによる「近道」は短期的に人の充足感を高めるものの人(担い手)の成長実感については別過程による設計が必要である点を示唆しているとも言えるだろう。

このように考えると、若年層の生成AIと能力開発との関わりについての不安にどのように向き合うかという点は、今後、多くの学生を迎え入れる企業にとって、喫緊の課題であると言える。

「仕事において、自分の価値が何に立脚するのか」という問いを曖昧なままにすると、「AIで仕事がより良く変わる」という期待が、「仕事の意味が薄れる」「自身の成長機会が限定され、偏りが出る」といった成長不安に転じ、結果として将来への不安を増幅させることにもなりかねない。