(ブルームバーグ):三菱商事は米エネルギー投資・開発会社のエーソン・エナジー・マネジメントのシェールガス事業を買収すると発表した。出資額は52億ドル(約8300億円)。負債も含めた買収総額は1兆2000億円と、三菱商事にとって過去最大の取引となる見込み。
同社は非上場の天然ガス開発企業で、テキサス州とルイジアナ州にまたがるヘインズビル・シェール盆地の主要な掘削事業者の1社。今年4-6月にも買収する。中西勝也社長は16日に都内で開いた記者会見で、買収後に天然ガスの増産を計画していると説明。また事業パートナーを探しており、液化事業者や電力関連企業などすでに複数から打診を受けていることを明らかにした。
三菱商事は2011年の英資源大手アングロ・アメリカンのチリ銅鉱山部門買収額、53億9000万ドル(当時のレートで約4200億円)を超える額を投じることになる。ただヘインズビルは世界有数のガス田で、三菱商事が液化施設の使用権を持つキャメロンの液化天然ガス(LNG)プロジェクトの基地とも近い。
同事業は27年3月期から収益貢献し、28年3月期には純利益ベースで約700億-800億円を見込む。
トランプ政権下で、米国はLNGの生産増強に動いている。LNGは石油や石炭などに比べて二酸化炭素排出量が少なく、脱炭素移行期のエネルギー源として注目されている。
ヘインズビルには、他社も注目している。JERAも10月に約15億ドル(約2300億円)で権益を取得したと発表した。東京ガスも周辺のエリアに開発や操業を集約させていく方針だ。中西氏は「米国南部で見込まれる成長を取り込みたい」と述べた。
旺盛な電力需要も追い風になる。米エネルギー省ローレンス・バークレー国立研究所のまとめでは、米国でデータセンター向け電力が全体に占める割合は23年の4.4%から28年には最大12%まで高まると予想される。人工知能(AI)の進化を受けて電力需要は高まっており、石油メジャーも相次いでガス火力に参入している。
米シェブロンは1月、合弁事業により最大4ギガワットを天然ガスで発電する計画を発表した。米国南東部、中西部、西部のデータセンター向けに供給する。米エクソンモービルも、大規模な天然ガス発電所に炭素回収装置を備えることで、データセンター向けに低炭素電力を供給する取り組みを進める。
日本勢では出光興産が米国でデータセンターに併設される発電所向けに天然ガスを供給すると発表した。
一気通貫
三菱商事にとって、液化天然ガス(LNG)の生産から販売まで担える一気通貫体制構築につながる面もある。取引先に支払う中間マージンを減らすことで価格競争力を高められる。
米国LNG事業では、市場からの調達・液化・販売の機能を持っていたが、生産はなかった。エーソンの資産の大部分はヘインズビルに集中しており、買収したガス田で算出した天然ガスの一部をキャメロン基地で液化する手法も考えられる。
25年出荷が始まったカナダのLNGプロジェクトでは、三菱商事がガス田の権益から販売まで担う体制を構築済みだ。また同社は、30年代前半にLNGの生産能力を25年度見込み比2割増の1800万トンに引き上げる目標を掲げている。
エーソンの天然ガス産出量の大部分は国内で流通されるとみられ、ガス火力発電や化学品など同社が米国で展開する他の事業との連携も見込まれる。
市場変動リスク
天然ガスは、必ずしも将来の需要が見通せているわけではない。エネルギー需給は地政学リスクに左右されやすく、化石燃料を推進する米トランプ政権の意向や継続期間によっても状況が変化する。
国際エネルギー機関(IEA)のまとめでは、天然ガスの需要予測に振れ幅がある。現行の施策や規制をベースにした推計では、需要は伸び続けて50年には24年と比べて2-3割増える。一方、まだ採択されていない政策や将来戦略なども踏まえた場合、35年ごろに頭打ちになる見通しだ。
三菱商事は資源市況の悪化を背景に16年3月期に約1500億円の純損失となった苦い経験がある。当時、資源事業と非資源事業のバランスを見直すことを喫緊の課題とした。その後、ウクライナ問題を受けた資源高で過去最高益を記録し、今期は中国の景気後退による原料炭価格の下落が業績の下押し要因となっている。いまだ資源ビジネスは業績全体への影響が大きい。
報道を受けて三菱商事株は下げ幅を拡大し、一時前営業日比2.5%安の4035円と、昨年12月16日以来の日中下落率を付けた。
経済安全保障の一貫として資源の安定供給の重要性は増しているが、大胆な投資で今後さらに業績の浮沈が激しくなる懸念もある。巨額投資がもろ刃の剣とならぬよう、事業環境が悪化した際の守りをいかに固められるかが課題となる。
(記者会見の内容を追加して更新します)
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