(ブルームバーグ):「マスコノミー(マスク経済圏)」という言葉を初めて見かけたのは、2024年初頭だと記憶している。
イーロン・マスク氏が創設した人工知能(AI)スタートアップの「xAI」。当時20人規模だった同社が投資家に配布したプレゼンテーション資料に、その言葉は登場していた。この資料には「投資の意義」や「企業概要」といった通常の項目に加え、xAIが有望なのはマスク氏のビジネス帝国内にあるためだと強調するスライドが、複数盛り込まれていた。
スライドの1枚は「xAIはマスコノミー内でしか得られないアクセスとパートナーシップという、特別な恩恵を享受している」と明記。テスラやX、宇宙開発企業のスペースXや脳インプラント会社のニューラリンクなどマスク氏が経営する企業のロゴが並ぶなか、その中央にxAIを置いた図表が添えられていた。これら企業のデータにアクセスできる点が、xAIの将来を明るくしていると示唆していた。
あれから2年。そのプレゼンの予言はかなり的中していたことが分かる。マスコノミーにおけるxAIの立場は、確かに同社を世界屈指の価値を持つ株式非公開企業に成長させた。同社は、自社の企業価値が2000億ドル(約31兆7000億円)を超えるとしている。
この1年だけでも、xAIはXと統合し、スペースXから数十億ドル規模の出資を受け、物議を醸しているAIチャットボット「Grok」をテスラ車の一部に搭載した。xAIはそれ以前には、GrokをX上で世界中のユーザーに配信し、テスラのバッテリーパックに数億ドルを投じている。テスラとの緊密な関係を利用し、エヌビディアの高価な半導体購入で優遇を受けたとも報じられている。
マスコノミーの最新ニュースは8日に報じられた。記事では、依然として深刻なxAIの資金繰りに加え、テスラの「オプティマス」など人型ロボット用のAIソフトウエアをxAIが開発する計画も明らかにされた。マスク氏がxAIとテスラの協業を視野に入れていることを裏付ける戦略だ。同氏はこれまで、両社がそれぞれ異なる課題に取り組んでいると述べてきたが、少なくとも将来においてxAIのソフトウエアとテスラのハードウエアが融合する可能性があることが示唆された。
しかし、xAIに対するテスラ株主の反応は複雑だ。マスク氏のビジョンは希望通りかなえられるのか、という疑問が浮上している。
マスク氏のビジネス帝国において、テスラは唯一の株式公開企業という立場にある。そのため他の企業と異なり、同社のパートナーシップや投資、ビジネス戦略は公の監視にさらされる。
これまでのところ、テスラの投資家はマスク氏が望むほどにはxAIを歓迎していない。マスク氏はテスラからxAIへの出資を取締役会に提案し、可決を強く求めたが、株主投票では否決された。株主がマスク氏に同調しないというのは異例であり、この結果は注目に値する。
テスラの株主は2024年、同社を相手取り訴訟を起こしている。マスク氏がテスラのリソースをxAIに流用し、人材を引き抜き、テスラ用のエヌビディア製半導体をxAIに転用しているというのが、原告の主張だ。マスク氏がAI開発の主導権をあえてテスラの外に置き、それを交渉材料にテスラ株のさらなる付与を引き出そうとしたと批判としている。同氏は結局、企業史上最大の報酬パッケージを手に入れた。
将来的にテスラがxAIと協業するのを望む株主もいるだろう。一方、他のAI企業がより高度なロボット向けソフトを開発することはあり得る。また、反ユダヤ的な言説や未成年者の性的画像を生成したとして批判を集めているGrokに、テスラのロボットを委ねることに慎重になる株主もいるはずだ。マスク氏が描く未来像に、株主が同意しない可能性はある。
いずれにせよ、マスク氏はxAIとテスラを接近させている。実りあるパートナーシップになるかどうかは、今後の展開を見守るしかない。
原題:Tesla Ties to xAI Raise Concerns About Muskonomy: Tech In Depth(抜粋)
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