海外ヘッジファンドによる日本での採用競争が激化している。中でも注目されるのは、社内で人材スカウトを専門職とする担当者を雇い、東京に配置する動きだ。

米プロバスケットボールNBAのレブロン・ジェームズやメジャーリーグでの大谷翔平といったスター選手を見つけ出すスカウトのように、ヘッジファンドでは「ビジネス・デベロップメント」と呼ばれる専門家が優秀なポートフォリオマネジャーなどの発掘に当たっている。

シンガポールを拠点とするダイモン・アジア・キャピタルや香港のポリマー・キャピタル・マネジメント、米ライトハウス・パートナーズなどのヘッジファンドは、すでに日本でビジネス・デベロップメントを採用した。海外の主要拠点で導入してきた人材獲得の手法を日本に持ち込んだもので、優秀な人材の発掘を目的としている。

こうした動きの背景には、長年低迷していた日本市場が再び活気を取り戻す中で、ポートフォリオマネジャー、アナリスト、トレーダーへの需要が急増していることがある。ヘッジファンド各社は株式やマクロ、クオンツ(定量分析)戦略を中心に、日本での人材獲得を専任業務として本格化させている。

ダイモンのロゴ

65億ドル(約1兆円)を運用するダイモンのジェイ・ルオ社長は「現地でネットワークを築くには、現地の担当者が不可欠だ。われわれにとっては当然の選択だった」と語る。同社は昨年、ビジネス・デベロップメントとして原島健二氏を迎えた。「アジア全体で見ても、優秀な人材を見つけるのは常に難しい」という。

複数の運用担当者がそれぞれ個別の投資チームで運用する「マルチストラテジー」戦略を採用するヘッジファンドが急成長している。米ゴールドマン・サックス・グループが昨年10月に公表したリポートによれば、こうしたファンドは「ポッドショップ」とも呼ばれ、2017年から25年にかけ運用資産を3倍超に拡大させ、従業員数を年率換算で21%増やした。

安定したリターンを生み出すには、さまざまな戦略で運用する投資専門職を継続的に補強・拡充する必要があり、こうした人材スカウト体制が不可欠となっている。

日本で採用されたビジネス・デベロップメントの多くは投資銀行出身者だ。原島氏はバンク・オブ・アメリカでプライムブローカレッジ業務に携わっていた経験を持つ。ポリマーはUBSグループからKondo Masakatsu氏を、ライトハウスはモルガン・スタンレー出身のMurakami Yusuke氏をそれぞれ採用した。

ポリマーとライトハウスの広報担当者は、それぞれコメントを控えるとしている。

日本市場は現在、インフレや金利上昇による債券取引の活発化、コーポレートガバナンス(企業統治)改革の進展などを背景に株価や企業の合併・買収(M&A)件数が過去最高となるなど、かつてない活況を呈している。こうした状況がヘッジファンドからの関心を一層集めている。

規模拡大の壁

東京の金融人材紹介会社ディバイン・ソリューションズ・ジャパンのアリステア・ラムズボトム・シニアマネジャーは「多くのファンドが規模を拡大したいと考えているが、適切な人材が見つからないのが現状だ」と指摘する。

同氏はヘッジファンド各社のビジネス・デベロップメントと連携し、候補者探しを支援している。「その人物がファンドにもたらす価値、過去の実績、運用スタイルへの適応力、そして安定性などが問われている」と話す。

理想的なポートフォリオマネジャーやチームメンバーを見つけ出す作業は、大学バスケットボール選手の中から将来のNBAスターを発掘するようなもので、過去の成果が必ずしも将来の成功を保証しない難しさがある。

大リーグでデータを駆使して他球団の目に留まらなかった才能ある選手の発掘を題材にした映画「マネーボール」のように、ビジネス・デベロップメントはスキルや実績に関するデータを精査し、それぞれのチームに最適な人材を見極めている。

このような担当者を日本に常駐させることで、ヘッジファンド各社は最適の人材を確保できる可能性を最大限に高めている。市場を理解し、リスクを管理でき、強い個性を持つ集団にも適応できる資質を持つ人材を選び出すには、情報収集力や交渉力、膨大な情報の中から本質を見抜く能力が求められる。実際に転職を決断させる説得力も欠かせない。

マルチストラテジー型ヘッジファンドは、株式ロング・ショート、イベントドリブン、マクロ、クレジット、クオンツ取引などさまざまな投資手法や資産に資金を分散し、相場変動を乗り越えつつ、高いリターンを目指す戦略を採っている。

ダイモンのルオ社長は、アジアにおけるマルチストラテジー戦略を展開する上で、日本市場への注力がますます重要になっていると説明する。同社の東京オフィスには現在20人が在籍しており、そのうち約3分の2が投資の専門家だという。今後さらに増員する方針だ。

東京の人材紹介会社シャハニ・アソシエイツの創業者ヴィクラム・シャハニ氏は「日本語を話せるポートフォリオマネジャーが、企業の最高財務責任者や投資家向け広報担当者、最高経営責任者に直接質問できるのは非常に大きな強みだ」と指摘している。

--取材協力:David Ramli.

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