(ブルームバーグ):ソーシャルメディアのアルゴリズムは、私自身よりも私のことをよく知っている。
元恋人から贈られたエルメスの超高級バッグ「バーキン」を売り払おうとする悲嘆に暮れた女性たちを特集するYouTube番組「Love Luxury」を視聴するのがこんなに楽しいとは思いもしなかった。
ここでは「持ち続けるのはつら過ぎる」と語る女性が、「ああ、シールもまだ貼ったまま。5万ドル(約780万円)で売れるかしら」とつぶやく。
思いがけずファンになったこの番組には、私が見たい全てが詰まっている。美しく、手の届かないファッションやロマンチックなドラマ、そして希少性がいかにして価値を生むかを学ばせてくれる経済のレッスンが定期的に更新される。嫌いになる理由があるだろうか。
しかも今では、私自身も参加できる。資産運用会社Luxusは、エルメスのバーキンや「ケリーバッグ」を二次(流通)市場で購入し、転売するヘッジファンドを運用している。最初の資金調達ラウンドでは100万ドルを集め、36個のバッグを購入・販売し、40.6%のリターンを上げたと主張している。規模を拡大する計画もある。
このリターンは、もし一次(発行)市場(この場合はエルメスのブティックだ)で購入できていれば、さらに高かったはずだ。だが、その方法でバッグを手に入れるのはほぼ不可能だ。
これは私自身の経験からも分かる。バッグが入荷した際に自分を優先してくれる販売員との関係を築く必要がある。もしその後すぐに転売すれば、信頼関係を失い、一次市場から永久に締め出される恐れがある。
そのため、このファンドは二次市場で売買する。二次市場では誰でもバッグを購入できるが、価格には大きな上乗せがある。一次市場での希少性こそが、二次市場での価格を押し上げている。
だからといって、バッグ転売で稼ぐのが簡単というわけではない。理由の一つは、トレンドを先読みする必要があることだ。エルメスの小売価格は素材やバッグのサイズに基づいている。
一方、二次市場では特定の色やサイズがより大きなプレミアムを伴い、その傾向は年ごとに変わる。2025年は大きいバッグや一部の色は人気がなかった。次の年はどうなるか分からない。小さめのケリーバッグの流行はすでにピークを過ぎたのかもしれない。
強気相場が支え
流行に敏感な女性たちは、高価なハンドバッグへの支出を、浪費ではなく投資戦略として正当化できると考えている可能性がある。二次市場で価格が上昇しているのを目の当たりにしているためだ。
高級品の二次市場はここ10年で急拡大し、年10%超と一次市場を上回る成長を記録。その規模はすでに2000億ドルを超えている。
時計やスニーカー、美術品など、収集品の二次市場は以前から存在していた。高級品をディーラーに売ることはできたが、価格の透明性は低く、市場規模も小さかった。
リセールがオンライン化され、高級品の二次流通業者が真贋を確認できるようになると、価格の透明性が高まり、市場の流動性も増す規模にまで拡大した。
今や中古高級品市場は、あらゆるものの金融化という大きな流れの一部になっている。高級ハンドバッグの二次市場で利益を狙うファンドの登場は、自然な流れと言える。
それは、幾つかの点で、オプション市場を想起させる。株式オプションを観測し、価格を付けられるようになったことが、現代のデリバティブ(金融派生商品)市場を生み、金融全体を変革した。
理論上は、大規模な二次市場が小売品にも同じ状況をもたらし得るが、その公算は小さい。消費財は株式ではない。恣意(しい)的な理由で流行遅れになり、使用されるたびに価値が低下し、一般的にはそれが価格下落を招く。
今のバーキン熱を支えているのは強気相場だ。株式相場が値上がりし、人々の含み資産が膨らみ、リスクに前向きになっている。バーキンがポートフォリオ分散の良い手段だという意見がある一方で、高級品市場は景気循環に沿って動く傾向が強い。
リセッション(景気後退)になれば、3万ドルの中古ハンドバッグへの需要は恐らく落ち込む。二次市場の多くの買い手は値引きを求めるが、バッグを資産と見なす売り手のオーナーはプレミアムを期待するだろう。
それにしても、YouTube動画を見るのはやめられない。
(アリソン・シュレーガー氏は、ブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。経済を担当し、マンハッタン研究所のシニアフェローも務めています。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:The Birkin Hedge Fund Is a Sign of the Times: Allison Schrager(抜粋)
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