(ブルームバーグ):中国共産党の習近平総書記(国家主席)にとって、困難な1年として始まった2025年が、勝利の色合いを帯びて終わろうとしている。
中国はトランプ米大統領が再び仕掛けた貿易戦争への対応で他国の追随を許さず、レアアース(希土類)セクターでの支配力を武器に、関税や輸出規制を巡る譲歩を引き出した。中国の輸出は米国以外に新たな行き先を見いだし、貿易黒字は25年に初めて年1兆ドル(約156兆円)を超えた。
中国政府による国内テクノロジー企業締め付けにもかかわらず、人工知能(AI)企業は前進を続け、AI半導体を製造する中国勢が相次ぎ新規株式公開(IPO)に踏み切った。テクノロジー自立を求める習氏の呼びかけが背景だ。

外交の舞台でも、習氏は強さを示した。9月には20人を超える外国首脳に囲まれ、北京で盛大な軍事パレードを行った。天安門の楼閣には習氏と共にロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が姿を見せ、新たな世界秩序構築という習氏の構想実現を裏付けるハードパワーを中国が備えていると誇示した。
習氏は10月末には韓国でトランプ氏と会談。これについて、トランプ氏は「G2ミーティング」だと言及。世界最強の超大国、米国から対等な存在として扱われたい中国が長年抱いていた願いを受け入れるかのような異例の言い回しだった。
トランプ政権の対中強硬派も厳しい発言を控えるようになった。中国から制裁を受けたこともあるルビオ米国務長官は12月、「成熟」した米中関係管理が必要との考えを示した。
米中央情報局(CIA)で中国を分析していた経歴を持つブルッキングズ研究所のジョナサン・チン研究員は、「習氏にとって、望んでいた以上にうまくいった1年となった。どこから見ても、習氏は1年前より有利な立場にある」と指摘した。
米国が自ら重要鉱物産業を構築するまで、トランプ氏は中国に対してこれ以上の関税や半導体規制を発動できない。そうした状況下で、習氏がこの優位性をどう活用するかが焦点となる。
すでに、中国政府は台湾などの問題で圧力を強めており、台湾有事を巡る高市早苗首相の国会答弁にも反発。日本に対し経済的な圧迫も加えている。
また、製造業主導の成長モデルを転換させようとする動きがほとんど見られない中国について、フランスのマクロン大統領は最近、欧州連合(EU)にとって「生死」に関わる問題だと述べた。

ドイツと英国、アイルランドの首脳は26年早々、相次いで北京を訪れる見通しだ。4月に予定されるトランプ氏の訪中を前に、習氏が有利な立ち位置をどこまで生かせるかが試される。
中国外務省に以前助言していた復旦大学の呉心伯教授によれば、中国側の要求には、台湾に関し米国が数十年にわたり用いてきた表現の変更が含まれるという。
国内に課題
もっとも、外交面での勝利の陰で、習氏は国内に多くの懸念を抱えている。構造的な経済の脆弱(ぜいじゃく)性や軍や党のエリート層に及ぶ人事粛正など課題が山積している。
オルブライト・ストーンブリッジ・グループ(ワシントン)のパートナーで、在中国EU商工会議所を率いていたヨルグ・ワトケ氏は、「習氏にとっての頭痛の種が外交でないことは確かだ。トランプ氏でもない。主に中国の自国経済だ」と話した。
一見すると、25年の中国経済は堅調だった。輸出の急拡大が成長を下支えし、「バズーカ」型の大規模な景気刺激策を打たずとも、成長率はおおむね5%目標の達成軌道を維持した。中国の製造業は付加価値の高い分野へと移行を進めた。
だが、その勢いは鈍りつつある。年間投資が1998年以来の減少に転じる見通しで、11月の小売売上高は新型コロナ期を除き最悪の伸びに落ち込み、新築住宅価格は11月にさらに下落した。終わりの見えない不動産危機が重しとなっている。

政治面での不安も高まっている。習氏は2025年、過去最多の高級官僚を汚職で調査対象とした。多数の人民解放軍関係者を粛清した後の動きだ。
5年に1度の中国共産党大会は、次の開催が27年になるとみられる。その1年前の26年10月ごろから、開催準備が活発化する見通しで、習氏が総書記4期目を目指す可能性が高い中で、主要ポストを巡る駆け引きが一段と激しくなる。
習体制に挑むような兆しはないものの、人民解放軍を狙い撃ちした粛正は、軍の体制や実戦能力に疑問を投げかけている。特に、米国側が習氏が27年までに台湾侵攻が可能な能力を人民解放軍に持たせるよう指示したと主張していることを踏まえると、その懸念は強い。
シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院の呉木鑾(アルフレッド・ウー)准教授によると、「中国にとって国内の方がはるかに不安定さが大きい」という。
大国政治の地殻変動
中国が国際舞台で新たな自信を示しているのは、トランプ氏が一因だ。同氏のホワイトハウスへの返り咲きは、中国では自国に追い風になるとして多くの人に歓迎された。
「米国第一」を掲げるトランプ政権の下で、米国が国際機関や対外援助から後退したことは、中国が影響力を拡大する余地を生んだ。
さらに、製造業に不可欠な鉱物の供給が不足すると、トランプ氏が関税戦争の手綱を最終的に緩めたことで、妥協ではなく強硬姿勢こそが米国の圧力に対する最も効果的な対応だという習氏の確信が深まった。
習氏が25年に目にしたのは、中国が長年不満を募らせてきた米国の政策をトランプ氏が次々と巻き戻したことだ。

トランプ政権は中国の軍事力を抑制するための輸出規制を緩和し、外遊を計画していた台湾の頼清徳総統にニューヨーク立ち寄りを認めず、さらに中国への戦略的な対抗軸として米国がパートナーシップを長年育んできたインドとの関係を悪化させた。
米国の中国ウオッチャー内では、米欧が中国から何を学べるのかという問いまで出始めている。
ポッドキャスト「Sinica」を立ち上げたカイザー・クオ氏は中国について、国家主導でインフラ投資を重視する体制が、政治の自律性を犠牲にすることなくグローバル市場と統合できることをグローバルサウス(新興・途上国)に示したと最近の論説で分析した。
米国による自省の波も広がった。政治学者のラッシュ・ドーシ氏は11月、米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)に「中国が米国と対等であることを証明した瞬間」を分析する論考を発表。トランプ、習両氏の首脳会談を大国政治における地殻変動と位置付けた。
グーグル会長をかつて務めたエリック・シュミット氏もほぼ同じ時期に「中国が未来を構築している」と題する記事を共同執筆し、「米国はその技術的成功から学ぶことができる」と論じた。
トランプ氏の貿易戦争で、ライバルよりも戦略的で先見性があると印象付けた習氏が、路線を変更する動機はほとんどない。
ハーバード大学ケネディ行政大学院のラナ・ミッター教授による見立ては、「26年に向けて、習氏は台湾やテクノロジーの政策を巡り米国に方針変更を迫ることができると期待しながら臨む公算が大きい」というものだ。

原題:Xi’s Triumphant Year Staring Down Trump Belies Troubles in China(抜粋)
--取材協力:Jing Li、Fran Wang、Lucille Liu.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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