総裁記者会見前に執筆

日本銀行は予想通り政策金利を25bp引き上げて0.75%とし、1995年以来、30年ぶりの水準とした。決定は全会一致。12月1日に植田総裁が利上げをかなり分かりやすい形で示唆したことで、既定路線になっていたため、全く意外感のない結果であった。

もっとも、声明文の論調はやや強気な印象を受けた。

米国経済や通商政策について「不確実性は引き続き残っているものの、低下している」としたほか、「来年は、今年に続き、しっかりとした賃上げが実施される可能性が高い」、「企業の積極的な賃金設定行動が途切れるリスクは低い」との記述があり、賃金を起点とするインフレメカニズムに自信が表れていた。

また「最近のデータやヒアリング情報からは、賃金と物価がともに緩やかに上昇していくメカニズムが維持される可能性が高いと考えられ、先行き、『展望レポート』の見通し期間後半には、基調的な物価上昇率が2%の『物価安定の目標』と概ね整合的な水準で推移するという、中心的な見通しが実現する確度は高まっている」との記述もあった。

実質金利に関する認識は「実質金利は大幅なマイナスが続き、緩和的な金融環境は維持される」、「現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると・・」として変化がなく、中立金利に関する言及もなかった。

ところで、日銀の利上げは本当に金融引き締め方向に働くのだろうか。

教科書や多くの経済モデルが前提とするような経済環境であれば、利上げは借入コスト(支払い金利)の増加を通じて需要を抑制し、その結果として物価上昇率は低下する。

もっとも、現在の日本では本来、資金不足主体であるはずの「企業(一般事業法人)」が貯蓄主体となっており、教科書にあるような「金利上昇→設備投資・雇用の減少」「金利上昇→業績圧迫→人件費削減」という経路は、存在していても太くはなさそうである。

大企業を中心にネットキャッシュが潤沢な企業は多い。また現在、個人消費が勢いを欠いている背景に、円安に起因する輸入物価の高止まりがある。

利上げが所期の効果を発揮し、為替が円高方向に推移し、輸入物価の水準が下がるなら、個人消費には追い風となり、GDP成長率が上向くことすら考えられる。

利上げによる景気の下押し圧力は、かつてと比べて弱くなっている可能性が高いと筆者は判断する。これまでの累積0.5%の利上げによって経済活動が下押しされたという議論は、筆者の知る限りあまりない。

※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 藤代 宏一