日中対立を背景とした中国人訪日客(インバウンド)の減少が続き、関西の観光業で影響が急速に広がっている。新型コロナウイルス禍前と比べ中国依存度は低下したものの、大阪府や兵庫県では依然として高く、地域経済への打撃は大きい。政治リスクの影響を受けにくい構造への転換が急務だが、国籍構成の多様化は都道府県ごとに差がつきつつある。

「知り合いの不動産や旅行関係の人たちもみんな困っている」。大阪市西成区で民泊を運営する林伝竜さんは危機感を隠さない。所有する約80部屋の民泊では、年内までに600組、1000人以上の予約がキャンセルになった。中国からの観光客は全体の約半分を占め、収益への影響は大きい。

Photographer: Buddhika Weerasinghe/Bloomberg

キャンセルの連鎖

大阪観光局が会員ホテル20社に聞き取りをした結果でも、年内予約に占めるキャンセルが50-70%に達した。世界の航空データをまとめるエアロルーツによると、12月の関西国際空港の減便数は750便と、新千歳空港(104便)や成田国際空港(109便)を大きく上回る。関西エアポートの広報担当者は、中国路線で一部減便が生じているが、数字は開示できないという。

中国の旅行専門調査会社のチャイナ・トレーディング・デスクによると、冬から春にかけての中国発大阪行きの旅客機の予約数は55-65%減少しており、最大で55%減少している日本全体の予約減よりも深刻だという。月間約8000万-1億ドル(約120億-150億円)だった大阪を訪れる中国人による高級品消費額は、ほぼ半減する見通しだ。

宿泊施設向けの予約システムを扱うtripla(トリプラ)が11月-来年2月の大阪府内のホテル予約を分析したところ、中国客の需要が前年同期に比べ3割減ったという。ただし今のところ欧米や東南アジア、北米などそのほかの地域が補っている。

スターゲイトホテル関西エアポート(大阪府泉佐野市)でも、12月の中国団体客の予約はほぼキャンセルという。コロナ禍前に比べると大幅に下がったが、中国国籍客の割合は3割程度。宿泊統括部長の小林二郎氏は春ごろに向けて、東南アジアや台湾、韓国からの顧客の呼び込み施策も検討すると述べた。

中国依存

ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)や神社仏閣、百貨店が集積する関西は、渡航先として人気を集めてきた。宿泊旅行統計調査によると、25年1-9月の外国籍宿泊者に占める中国籍の割合は大阪府内が31%、兵庫県は34%で、ともに全国平均の22%を上回る。コロナ禍前も両府県はそれぞれ39%、33%で、構成比は大きく変わっていない。

りそな総合研究所の荒木秀之主席研究員は、関西で中国人訪日客の比率が高い理由として、中国との地理的な近さと買い物や観光の利便性を挙げる。加えて、中国人が宿泊施設や飲食店などを経営するケースも多く、中国人客が訪れやすい環境が形成されてきたためだと分析する。

日本総研の高坂晶子主任研究員は、中国からの観光客は韓国、台湾、香港と比べて初回訪問者の比率が高いと指摘。成田到着後に、東京、富士山、京都、大阪を巡り、関空から離日するゴールデンルート、もしくはその逆ルートが主流を占めている可能性が高いという。

東南アジア各国の休暇時期に合わせたキャンペーンなどを例に挙げ、「観光地としては、特定のインバウンド送りだし地域に偏らないで様々な国から集客する努力が必要」と高坂氏は指摘する。観光庁はこれまでも送り出し国の多様化に取り組んできたが、自治体や観光地レベルには十分浸透していないとし、今回の事態が「観光地や市町村のスタンスが変わる一つのきっかけになるかもしれない」と話す。

多様化進む岐阜県

一方、訪日客の多様化が進む岐阜県では、19年時点での外国籍宿泊者に占める中国籍比率は4割超だったが、25年1-9月には10%弱に低下した。温泉地で有名な下呂市では、11月20日までに中国人観光客のキャンセルが計906件に上ったものの、中国人比率は全訪問者の約1.5%に過ぎず影響は限定的という。

岐阜県・観光誘客推進課の加藤英彦氏は、他の都道府県とは異なり重点国や地域を特定せず「岐阜の魅力に価値を感じてくれる人」をターゲットに誘客を進めてきたという。テーマパークなど観光施設はほとんどないが、長良川での鵜飼いをはじめとする伝統文化、美濃焼・関刃物といった工芸品、白川郷や下呂温泉など観光資源を訴求。欧米・オーストラリアや、シンガポールなどからの観光客が増えているという。

春節商戦への懸念

訪日自粛の影響は、中国からの訪日客が増える春節シーズンも続きそうだ。りそな総研の荒木主席研究員によれば、12月以降は減便が本格化し、とりわけ関空発着の中国路線が減るため、関西事業者の間では春節商戦への影響を不安視する声が強まっている。政治的リスクがあらためて意識され「中国以外の国向けのキャンペーンやセールスを強めることになるかもしれない」と指摘する。

関西国際空港

民泊施設の開発や運営を手がける民泊革命(東京・千代田)の榊原啓祐代表によると、年明けから春節時期の予約は例年11月末から12月にかけてに入り始めるが、大阪府などの一部物件では前年に比べ2割程度少ない。ホテルが稼働率確保のために料金を引き下げると、単価が低い物件の集客に影響が出る可能性があると懸念する。

日本総研の古宮大夢研究員は、日中関係がさらに悪化した場合、訪日消費額は3年で2.3兆円減少する可能性があると推計する。旧正月にかけて徐々に影響が顕在化すると指摘。尖閣諸島をめぐり対立が激化した2012年に比べて、中国景気が悪化し消費マインドは弱含んでいるため、「影響が出るのは避けられない」と話す。

日本人客に回帰も

中国からの訪日客に代わり、日本人客を取り込もうと路線回帰の動きもある。あぶらとり紙などを販売するよーじやグループ(京都市)では、観光客が多い清水寺や金閣寺エリアの店舗で、11月最終週に中国・台湾からの来店客数と売り上げが約10%減った。一方で中国人観光客の減少報道を受け、日本人の観光客が増えており、店舗全体では売り上げを維持しているという。

広報担当者によると、同社はコロナ禍以降、京都らしさを押し出した土産物商品から日常使いできるスキンケアアイテムや雑貨品を拡充するなど、観光業に依存しない経営を目指している。春節にかけて中国人観光客の売り上げ減が見込まれるが、地元客をターゲットとした商品や店舗で減少分を補うことが重要とみている。

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