米メディア大手ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)を巡るNetflixとパラマウント・スカイダンスの買収合戦は、双方がトランプ米大統領の支持獲得を競う一方で、投資家は皮肉な事実を考慮せざるを得ない状況に置かれている。

買収の本命ではない業績不振のCNNやTNT、ディスカバリーといったケーブルテレビ(TV)事業の資産評価が、パラマウントの敵対的買収提案とネットフリックスの友好的提案を隔てる重要な要因となっているためだ。

パラマウントは8日、WBDに対して1株当たり現金30ドルの買収案を新たに提示したと公表。負債を含め、WBDの企業価値を1084億ドル(約16兆9600億円)と評価した。これに対し、Netflixの買収案は、WBDの映画・TVスタジオ、ストリーミング、HBO事業を現金と株式で1株当たり27.75ドルで取得する内容だ。

両提案の2.25ドルの差は、WBDが6月にスピンオフ(分離・独立)を予定する不振のケーブルTV事業にある。Netflixの提示額にはケーブル事業が含まれない一方、パラマウント案には含まれる。パラマウントはケーブル資産の価値を1株当たり1ドルと示唆しているが、アナリストは4ドルに近いとの見方を示す。アナリスト評価を基準にすれば、Netflixの提案の方が高いことになる。

ただ、買収合戦はさらに過熱する可能性がある。規制当局への提出資料に含まれたテキストメッセージによると、パラマウント側の銀行関係者はWBDに対し、同社の30ドルの買収提案について「これが最終かつ最良の提案ではない」と伝えている。

さらに規制当局への提出書類によれば、WBDがパラマウント案を優位と判断した場合、Netflixには同等の条件を提示する権利がある。Netflixのテッド・サランドス、グレッグ・ピーターズ共同最高経営責任者(CEO)は8日、ニューヨークで開かれたUBSの会議で、WBDとの合意が承認される見込みについて「非常に自信がある」と投資家に述べた。

WBDは、パラマウントの敵対的提案に対して10営業日以内に回答するとしている。

どれほど不振なのか

映画・TV業界で唯一成長しているストリーミング市場において、豊富な映画・番組の作品群が競争力の源泉となっており、今回のWBD争奪戦はその重要性を改めて浮き彫りにする。「ゲーム・オブ・スローンズ」「バットマン」「ロード・オブ・ザ・リング」などの作品やHBO Maxは、約8000万人の加入者を抱えるパラマウントのストリーミング事業の拡大に寄与するだろう。

Netflixにとっても、WBDの作品群を入手できれば、世界で3億世帯を超える加入者に対する既存サービスをさらに強化し、ウォルト・ディズニーやアマゾン・ドット・コムなど競合勢に対するリードを一段と固めるとみられている。

ケーブルTV事業はどれほど厳しい状況なのか。現状は米メディア大手2社が急速に距離を置くほど悪化している。WBDは2026年7-9月期(第3四半期)までに、自社の有料TVネットワークをスピンオフし、ディスカバリー・グローバルと呼ばれる新会社に集約する予定。USAやSyFy、CNBCなどを傘下に持つコムキャストも同様に、新会社バーサント・メディア・グループを設立する。

モーニングスター・リサーチのアナリスト、マシュー・ドルジン氏らによると、スピンオフ予定のWBDのケーブル資産価値は、パラマウントとNetflixの提示額の差を埋めるかもしれない。ケーブル資産は「2-4ドルの範囲がほぼ確実」と同氏は評価している。

ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のアナリスト、ギーサ・ランガナサン氏は、1株当たり推定4ドルと分析しており、Netflixの買収案の方が高いとみている。

だが、放送局・ケーブルTVからオンライン視聴への移行が進む中、WBDのケーブル事業は急速に縮小している。同社のケーブル視聴者数は第3四半期に26%減少。アマゾンに米プロバスケットボールNBAの放映権を奪われた影響もあり、減少は続く見通しだ。昨年の同社ネットワーク部門収入は5%減の202億ドルだった。

CNNとCBSの元幹部でハング・メディアのCEOであるジョン・クライン氏は、パラマウントの対抗案は、同社の「主要な関心」がNetflixと同じく「映画・TVの知的財産(IP)とHBO Max」にあることを示していると話す。

パラマウントのアンドリュー・ゴードン最高執行責任者(COO)氏は8日のアナリスト向け電話会議で、WBDとNetflixのいずれもスピンオフされるケーブル事業の価値について何の示唆も与えていない点が「われわれにとって興味深かった」と述べた。ゴードン氏はウォール街の試算を引用し、スピンオフされるWBDのケーブル事業価値を1株当たり1ドルとした。

モーニングスターのドルジン氏は、パラマウント側に有利に作用する要因として、トランプ大統領が7日、Netflixの買収案に対して反トラスト法(独占禁止法)上の懸念を示した点を挙げた。さらにパラマウント側にトランプ氏の娘婿ジャレッド・クシュナー氏が関与していることも、パラマウント陣営に追い風とみている。

「自分がWBDの株主なら、どちらの提案が有利かを考慮する上で、追加の25セントや75セントが最も重要だとは思わない」とドルジン氏。「最も重要な決め手は規制当局の承認が得られるかどうかだ」と述べた。

原題:Warner Bros. Rival Bids Put Spotlight on Flagging Cable Networks(抜粋)

もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp

©2025 Bloomberg L.P.