(ブルームバーグ) :日本で台湾に一番近い沖縄県・与那国島。晴れた日には約110キロメートル先の島影を見ることができる。高市早苗首相の台湾有事を巡る発言で日中関係が険悪化する中、国境の島では自衛隊部隊の増強が着々と進んでいる。
「この島が標的になるのであれば、自衛隊があろうがなかろうが標的なんです」。与那国町議会議員の与那原繁さん(63)は「自衛隊とか何もなかったら、相手国が来てそのまま制圧されてしまうだけなので、やはり守りは必要だ」と話す。
人口約1700人の同島を訪れるには東京から飛行機で約3時間かけて那覇に移動後、プロペラ機に乗り換えてさらに約1時間半かかる。
2022年には当時のペロシ米下院議長が台湾を訪問した際、中国は台湾周辺で大規模な軍事演習を実施。弾道ミサイルが与那国島の近海に落下し、同島が南西防衛の最前線に位置していることを印象付けた。
日中対立が激化する中、高市首相に発言の撤回を求める中国は圧力を強めている。防衛省によると、沖縄本島南東の公海の上空で中国軍の戦闘機が6日午後、航空自衛隊の戦闘機に対し、2度にわたってレーダーを照射。高市首相は「冷静かつ毅然(きぜん)と対応する」としているが、日中の緊張はさらに高まっている。
与那国では町議会が08年に自衛隊誘致要請を決議。政府は16年に陸上自衛隊の駐屯地を開設した。現在230人の自衛隊員が沿岸監視や電波収集を行っているが、来年度には敵の航空部隊のレーダーを妨害する対空電子戦装置などを導入し、隊員はさらに30人ほど増える予定だ。
将来的には地上から敵の戦闘機や巡航ミサイルなどを迎撃する中距離地対空誘導弾(ミサイル)の配備も計画されている。
4日午後6時半、与那国の集会施設で開かれた自衛隊の配備計画の住民説明会には約80人が集まった。約30分ほど防衛省が説明を行った後、約1時間半超にわたって質疑応答が行われた。
自衛隊が軍備を拡大すればするほど私たちは緊張にさらされるとし、いつまでこの島に住めるのかと不安をあらわにする意見も出た。沖縄防衛局の下幸蔵企画部長は住民に対して「守るための装備だ」と強調した。
駐屯地外での訓練や米軍との共同訓練は控えてほしいという要望も出て、下氏が住民生活に大きな影響が出ない形で訓練を行いたいと理解を求める場面もあった。
説明会は上地常夫町長の要請で行われたが、自衛隊の増強そのものに反対する住民は少数派だ。上地氏は8月の選挙で防衛力強化に積極的だった糸数健一前町長に対し、情報開示を訴えた。結果は557票を獲得した上地氏が506票の糸数氏を破り、当選した。自衛隊の増強に反対姿勢の田里千代基氏は136票と支持は広がらなかった。
16年の駐屯地開設で、1489人まで減少していた人口が1686人に増加。地域住民との交流も進み、毎年夏に行われる島の地区対抗運動会では自衛隊員が引っ張りだこになるという。
上地町長は先月23日に与那国島の陸上自衛隊の駐屯地を視察した小泉進次郎防衛相に対しても、駐屯する自衛隊員が家族で移住するよう要請。ブルームバーグとのインタビューで上地町長は、抑止力の重要性も強調し「やっぱり与那国島に自衛隊がいることは大切だ」と話す。
ただ、町民に「精神的な負担」があるため、宮古島や石垣島に配備された地対艦ミサイルなどの装備を「増やすのはあまりよくないと思う」と大幅な増強には慎重姿勢も示す。「計画があるとすれば、情報は全部オープンにしたい」との考えも示した。
一方、与那国への自衛隊誘致活動にも携わった糸数前町長は「拠点はできた」が、「これで十分ではない」と話す。安全保障環境の緊迫度合いによって「強化すべきものは強化すべきだ」として、地対艦ミサイルを与那国島にも配備すべきだと訴えた。さらに、米軍と自衛隊の共同訓練に台湾軍も参加すれば「完璧な抑止力になる」と話した。日本政府は安全保障環境の変化に対応するため自衛隊装備の「南西シフト」を進めてきた。10年に閣議決定した「中期防衛力整備計画」には南西地域の島しょ部に陸上自衛隊の沿岸監視部隊を配備する方針を明記。与那国島、石垣島、宮古島など先島諸島に自衛隊駐屯地を開設した。
新潟県立大学の畠山京子教授(国際関係)は、南西諸島での自衛隊配置は、地域紛争が発生した際に「日米が協力する可能性や、台湾を支援する可能性があるという中国へのシグナルだ」と指摘する。「もし日本が米国の要請を断れば、同盟は終わりになる」とし、紛争が起きれば日本は米国を支援せざるを得ないとの見方を示した。
有事の際、与那国の電子戦部隊は台湾包囲や太平洋への進出を試みる中国軍のセンサーを無力化し、精密な標的情報を日米のミサイル部隊に提供する役割を果たすことができると、新アメリカ安全保障センターでシニアフェロー(非常勤)を務めるフランツステファン・ガディ氏は指摘する。
ただ、その位置の固定性と台湾への近さから、与那国の電子戦部隊は敵にとって「早期に無力化すべき重要標的となりやすい」とも述べた。
中国当局者の中からは、与那国島や琉球諸島の他の島々に対する日本の主権に疑問を投げ掛ける動きもある。中国外務省の林剣報道官は先月、1945年のポツダム宣言の一節をX(旧ツイッター)に投稿。同宣言は日本の主権は日本の主要4島と、連合国が「決定する諸小島」に限定されるべきだとしていた。
与那国島を含む沖縄県は第2次大戦後、米国の統治下に置かれたが、72年に日本へ返還されている。
政府は沖縄本島でも自衛隊の配備を積極的に進めている。2024年3月にはうるま市にある陸上自衛隊の勝連分屯地に沖縄本島で初めて地上から海上の艦艇を迎え撃つ地対艦ミサイル部隊が配備された。太平洋戦争末期に米軍との激しい地上戦が行われた本島では防衛力増強に複雑な思いを持つ人も少なくない。
うるま市で基地の近くに住む照屋寛之さん(73)は新聞で計画を知り、「もう1回沖縄を戦場にするのか」と怒りを感じたと語る。米軍統治下に生まれ、本土との経済格差を肌で感じて育った。
照屋さんの伯父3人と祖父の弟も戦争でなくなり、遺骨も戻らなかった。「戦争が終わって、こうやってここまで立ち上がってきたのに、また戦争のときは真っ先に沖縄が犠牲になる」と話した。
「ミサイル配備から命を守るうるま市民の会」共同代表として抗議活動を行ってきた照屋さんは、避難計画で利用が想定されている空港や港湾は、有事の際に攻撃対象になる可能性もあるとして「戦争になったら逃げ場がない」と強調した。
日中平和友好条約を締結し、多くの姉妹都市を持つ中国に対してミサイルを向けることはおかしいと述べ、外交で関係を構築するしかないと述べた。
一方、自民党の新垣亜矢子・豊見城市議は、抑止力強化について沖縄県民は「当然だと思っていると思う」と語る。防衛関連費を増やすべきではないと主張する人は「話し合い、対話だ」と言うが、中国が話を「聞いてくれる国なのかというと、そうじゃない」と述べた。
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