ロシア中央銀行の凍結資産を利用してウクライナに巨額の融資を行う欧州連合(EU)の計画を阻止しようと、米国がEU数カ国に計画への反対を働き掛けていた。事情に詳しいEU外交筋が明らかにした。

匿名を条件に語った複数の外交官によると、米政府当局者はEU加盟国に対し、この凍結資産はウクライナとロシアの和平合意確保に必要であり、戦争を長引かせるために使われるべきではないと主張したという。

EUは今週、今後2年間にウクライナが必要とする経済・軍事支援を提供するため、凍結資産を担保として900億ユーロ(約16兆2500億円)の融資を行うことを提案した。EU域内で凍結されているロシア資産は総額約2100億ユーロ相当に上り、2028年以降この資産をさらに利用する可能性がある。

米国務省報道担当室は、コメントの要請に応じなかった。

支援協議は、ウクライナにとって極めて重大な局面で行われている。ロシアに有利な和平合意に同意するよう米国から圧力を受ける一方で、ウクライナの資金は来年初めに尽きる恐れがある。トランプ政権は大半の対ウクライナ支援を打ち切り、負担は欧州に重くのしかかっている。

Photographer: Roman Pilipey/AFP/Getty Images

米国はまた、ロシアとの和平交渉を可能にする枠組みの一環としてロシアの凍結資産に注目し、この資金を米国主導の戦後復興投資に充てる可能性も示唆してきた。

関係者の一部によれば、11月に初めて浮上した米国の28項目の和平案はその後修正されたものの、ウクライナの領土の地位や同国に対する強固な安全の確約などと並び、凍結資産の扱いは依然として主要な争点の一つとなっている。

欧州で凍結されているロシア資産をどう扱うかは欧州の問題だとの立場を、欧州首脳は崩していない。

ドイツのメルツ首相は4日、「われわれが動かす資金を米国に渡す可能性は一切ない」と明言。「米政府もそのことを理解しており、これがドイツ政府の交渉方針でもある」と述べたうえで、「これは欧州全体の共通認識でもあり、意見の相違は全く存在しない。この資金はウクライナに引き渡され、その支援に役立てられなければならない」と強調した。

ドイツのメルツ首相

EUが目指す凍結資産を活用したウクライナ支援計画には、域内で反対もある。とくに、この凍結資産の多くが保管されているベルギーの反対が根強い。

メルツ氏は、EU案に対するベルギーの抵抗を打破しようと5日にブリュッセルを訪れ、フォンデアライエン欧州委員長とともに同国のデウェーフェル首相と会談する。

この訪問についてメルツ氏は4日夜にベルリンで記者団に対し、ベルギー首相の懸念を「極めて深刻に」受け止めていると述べ、5日の会談でその懸念に対応する意向を示した。

「自分デウェーフェル氏を説得したいのではない。納得してもらいたいのだ」とメルツ氏は説明。「われわれがこの道を選ぶのは、ウクライナを支援するためであり、それは恐らく、今後2-3年にわたる支援となるだろう」と語った。

ベルギーは、ロシアが将来的に凍結資産の回復を求めて法的請求を行い、それが認められた場合に、自国だけがその返済負担を背負わされる可能性があり、そのような事態に対する十分な保証をいまだ受けていないと主張。凍結資産を活用すれば、欧州および欧州企業に対するロシアの報復を招くリスクを高めるとの懸念も示している。

ベルギーは一方で、凍結資産により発生する税収で数億ユーロの歳入を得ている。ただ、同国は、この資金はウクライナへの支援に充てられていると主張している。

原題:US Urged Europeans to Oppose EU Plan for Loan to Support Ukraine(抜粋)

(第6段落以降に情報を加えます)

--取材協力:Daniel Hornak、Andrea Dudik.

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