中堅国(ミドルパワー)は今、どう動くべきなのか。トランプ米大統領は軍事作戦を断行しベネズエラのマドゥロ大統領を拘束、イランに対する軍事攻撃の可能性も示唆した。

中国は、南シナ海でのフィリピン船舶への嫌がらせや台湾への軍事的威圧を強めている。世界1、2位の経済大国がいずれもルールに基づく国際秩序の限界を試している。

アジア太平洋地域は長年、「経済成長は中国、安全保障は米国」という単純な構図に支えられてきた。これが1世代にわたる安定と繁栄の土台となり、グローバル化の波に乗って各国の所得と生活水準は向上した。

しかし、経済力も軍事力も大国に及ばない中堅国にとって、その前提が揺らぎ始めている。

トランプ氏は隣国カナダとの貿易合意についても懐疑的な姿勢を示しており、そうした中で、カナダのカーニー首相は北京で習近平国家主席と16日に会談した。

数年前にカナダの元外交官ら2人が中国本土で拘束され、両国関係は冷え込んでいた。しかし、今回の首脳会談では輸入障壁の緩和で合意。カナダが課す中国製電気自動車(EV)への関税も大幅に引き下げられる予定だ。

カナダの首相による訪中は8年ぶりで、カーニー氏は「新しい世界秩序」に言及し、トランプ政権が国際的な規範を根底から覆していると示唆した。

アジアでは、シンガポールの前首相でもあるリー・シェンロン(李顕竜)上級相が米国の一方的な行動に対し、小国にとって大きな問題だとの警鐘を鳴らした。

シンクタンクが8日主催したイベントで、ベネズエラが深刻な国内問題を抱えていることは認めつつも、それが米国の行動を正当化するものではないと主張。「小国の立場からすれば、もしそれが世界の動き方だというなら、われわれは問題を抱えることになる」と語った。

中国との同質性

米移民・関税執行局(ICE)の捜査官が自動車を運転していたレネ・ニコール・グッドさんを7日に射殺した事件は、中国が自国民に対して行使する強権や国際水域での船舶への嫌がらせなど、米国が長年非難してきた行動と似ていると指摘する声もある。

中国とアジア太平洋・アフリカ・中南米・中東・中央アジアの関係を分析するシンクタンク「チャイナ・グローバル・サウス・プロジェクト」の共同創設者エリック・オランダー氏は、長らく米国の安定性を前提としてきた小国や中堅国にとって、こうした強硬姿勢は戦略的なジレンマをもたらしていると言う。

オランダー氏は「トランプ氏が全てをひっくり返し、この地域の政府に衝撃を与えた」と語る一方で、「それでも各国は現実的だ。米中を二者択一とは見ておらず、中国を同盟国とも脅威とも捉えず、経済的な機会と見なしている」と説明した。

 

こうした認識は、シドニーに拠点を置くローウィー研究所の「アジア・パワー・インデックス2025」にも反映されている。これは、軍事・経済・外交・文化の各分野にわたる国家の影響力を測定する年次指数だ。昨年も米国をアジアで最も影響力のある国と評価したが、2位の中国との差は2020年以来最も小さくなった。

主な要因は、おおむね米国の要求に従ってきたアジア各国に対するトランプ氏の政策と関税措置を巡る不確かなスタンスにある。中国は軍事力の拡大を続け、米国の経済的圧力にも自信を持って対応。対抗関税や輸出規制で応じている。

ただし、アジア各国の中国に対する疑念も根強い。係争海域での外国船への衝突や放水、政治的意向に従わない国への経済報復といった強圧的な行動は、国際規範を軽視する姿勢として懸念を強めている。台湾周辺での威圧的行動や急速な軍拡、広範に及ぶ海洋権益の主張も相まって、多くの国々は中国への過度な依存を避けようとしている。

新たな世界で生き残るには、多角的な対応が不可欠だ。中堅国は地域フォーラムや共同声明だけでなく、海洋安全保障や貿易といった実務レベルでも相互協力を深める必要がある。

すでにそうした行動は始まっている。中国に急接近したカナダの姿勢は利己的に映るかもしれないが、カーニー氏はその後、カタールやスイスも訪問し、貿易の分散化を図った。

歴史問題で対立が続いてきた日本と韓国も、中国への不安や米国への不信を共有する中で関係を深めている。オーストラリアとフィリピンも軍事面での連携を強化しており、今年の豪国防支出にはフィリピン国内5カ所の基地でのインフラ整備が含まれる見通しだ。

一方、ローウィー研究所のインデックスで米中に次ぐ第3の影響力を持つとされたインドは、今年4度目のBRICS(主要新興国)議長国を務めている。グローバルサウス(新興・途上国)の橋渡し役としての立場を生かし、貿易統合を一層進める可能性がある。

かつてのルールに基づく国際秩序は、急速に色あせつつある。だが、中堅国に手だてがないわけではない。今こそ主体的に行動しなければ、頼みとする規範が修復不能なまでに崩れかねない。

(カリシュマ・ヴァスワニ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、中国を中心にアジア政治を担当しています。以前は英BBC放送のアジア担当リードプレゼンテーターを務め、BBCで20年ほどアジアを取材していました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Asia Is Stuck Between Two Unrestrained Empires: Karishma Vaswani(抜粋)

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