利上げ後の今後の見通しが焦点に

このため植田総裁は、「利上げしたとしてもまだ緩和的だ」と強調すると共に、「中立金利までの距離については、利上げの際に示したい」と発言し、日銀として中立金利の推計を改めて精査したいという考えを示しています。

そもそも中立金利は、現在の水準を具体的に特定することは難しいとされています。概念的には、物価上昇率に潜在成長率を加えたものですが、足もとの物価上昇率をどうとらえるのか、さらには潜在成長率をどう推計するのか、変数が多いからです。

これまで植田総裁が語ってきた1.0~2.5%という数字は、物価上昇率を目標の2%で仮置きした上で、日本の潜在成長率を、よく言われているように、マイナス1.0%からプラス0.5%の間とみて、ざっくり足し合わせた数字だと、理解することができます。

仮に新たな試算で、日本の中立金利がより高くなれば、それだけ利上げの余地ができるわけです。その意味で、次の利上げを決定した際に、植田総裁が、その先の見通しをどう説明するのかに、早くも市場の関心は集まっているのです。

インフレ時代に見合った金融政策を

しかし、こうした論理の立て方では、早晩、利上げ余地はなくなってしまいます。今の議論は、基調的な物価の上昇は未だ2%に達していないので、それまで緩和環境を続ける、従って、金利はその範囲内での調整、という論理構成になっているからです。

消費者物価上昇率が3年以上にわたって2%を超え、足もとで3%にまで高騰しているのに、未だにデフレ対応型の政策運営を続けていることへの矛盾が、過度な円安を招いていることを理解すべきです。それが、市場が見ている『本気度』というものでしょう。

日本を代表する経済学者である植田総裁には、中立金利の範囲の修正と言ったテクニカルな話ではなく、デフレ時代に決められた政策決定フレームからの局面転換を語ってほしい、そう思うのは、私だけでしょうか。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)