中国商務部は1月6日、同日付で輸出管理法をはじめとする諸関連規定に基づき、日本に対する軍民両用品(デュアルユース)に対する輸出管理を強化することを明らかにした。
公表文においては、すべての軍民両用品について、日本の軍需向けのみならず、軍事力の向上に資するすべての用途を目的とした輸出を禁止するとしたうえで、禁止措置に違反した国や地域の組織、個人に対して法的措置を講じるとしている。
なお、具体的な軍民両用品に関する言及はなく、どのような財が管理強化の対象となるかは明らかにされていない。ただし、中国政府系メディアの発信によれば、レアアース(希土類)の輸出管理を強化する方針が示されている。
そのため、幅広いハイテク製品の生産に不可欠なレアアースが輸出管理の強化対象となれば、日本国内における生産活動に悪影響が出ることは避けられない。
これは、レアアースそのものは全世界的に採掘が可能である一方、中国国内では内モンゴル自治区などで高品位な鉱石が豊富にあるうえ、精錬・加工に際しての環境規制などのハードルが低いこともあり、世界生産量の7割を中国が占めていることが影響している。
なかでもレアアース磁石は幅広いハイテク製品の生産に用いられるうえ、世界生産量の8割超を中国が占めており、中国の影響力が極めて高い。
レアアース磁石を巡っては、トランプ米政権による相互関税の賦課や中国向け半導体の輸出規制を強化する方針を発表したことを受け、昨年4月に中国政府は対抗措置として審査の厳格化を通じて事実上輸出規制を強化した。
その後、米国国内では自動車など幅広い分野で工場が操業停止に追い込まれるなど深刻な悪影響が顕在化し、米国は半導体の対中輸出規制の緩和に追い込まれた経緯がある。
さらに、その後も米国が貿易制限リストに中国企業を追加したほか、中国船舶に対する入港手数料を上乗せする方針を示したことを受け、昨年10月に中国政府はレアアースに対する輸出管理を強化する方針を示した。
直後に米国は中国への対抗措置を強化する方針を示したものの、最終的に昨年10月末に開催された米中首脳会談を経て、米中は一連の措置を1年間延期するとともに、米国は中国に対する合成麻薬フェンタニルを巡る問題を理由に賦課した追加関税を引き下げた。
このように、中国にとってレアアースは米国からの譲歩を引き出す『材料』となってきた経緯がある。
今回の決定について、商務部の報道官は「日本の指導者は最近、台湾に関する誤った発言を公然と行い、台湾海峡問題に武力介入する可能性を示唆し、中国の内政に乱暴に干渉し、『一つの中国』原則に著しく背いた」としたうえで、「その性質と影響は極めて悪質である」としている。
この発言をみれば、今回の動きは、高市首相による台湾有事を巡る国会答弁をきっかけに中国政府が経済的威圧を強める流れの一環と捉えることができる。
そして、前述のようにレアアースに対する輸出規制が米国からの譲歩を引き出した成功体験を日本にも援用することを目指していると考えられる。
折しも韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領が中国に訪問しており、日中関係が悪化するなかで、中国は韓国との関係深化を通じて自らの立場の正当化を図りたいとの思惑が透けてみえる。
李氏は中立的な立場をみせているが、日中関係悪化の背後で中国は意図的に韓国への接近を試みており、短期的な経済的利益に傾く可能性はゼロではない。
一方、年明け直後に行われた米国によるベネズエラへの軍事介入を巡っては、直前に公表された国家安全保障戦略(NSS)が重点地域として西半球を挙げるなど、政権が『モンロー主義』を志向する流れの一環とされる。
現時点でトランプ流モンロー主義(ドンロー主義)の解釈は定まらないが、仮に東アジアが相互不干渉の対象となれば、高市首相の国会答弁の前提である台湾海峡問題における米国の介入に不透明感が生じる可能性がある。こうした事情は事態を難しくさせると懸念される。
日本としては、中国による経済的威圧に毅然とした対応を取るとともに、こうした中国リスクの低減を図る観点から、多元的なレアアースの確保に向けた取り組みをこれまで以上に強化することが避けられない。
そのうえで、国際社会に対して日本の立場を適切に広報することを図るなど、中国によるプロパガンダにも対抗措置を講じることも望まれる。
そして、トランプ米政権が主導するドンロー主義における東アジアの位置づけをあらためて定義づけするための取り組みも欠かすことはできない。
トランプ氏は昨年10月の米中首脳会談の直後、今年4月にも中国を訪問する意向を明らかにしており、こうした事情を勘案すれば、中国との関係悪化に繋がる事態は避けたいのが実情と思われる。
とはいえ、日本にとって地域情勢の安定は何物にも代えがたいことであることは間違いなく、そのための外交努力をこれまで以上に積極化することが求められる。
※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹
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