韓国では、過熱する住宅市場からの撤退を背景に、株式への資金流入が過去最高のペースで進んでいる。住宅価格を抑制し、価格高騰に対する国民の不満緩和に腐心する政策当局の苦慮を浮き彫りにしている。

韓国金融投資協会によると、韓国株の信用買い残は11月20日時点で26兆8000億ウォン(約2兆8200億円)と過去最高を更新した。韓国銀行(中央銀行)のデータでも、同国における第3四半期末の対外証券投資残高は過去最高の1兆2100億ドル(約187兆6200億円)へと増加した。

韓国政府は特に若年層に対し、過熱した不動産から株式への資金シフトを促している。首都ソウルの住宅コストはニューヨークや東京といった活況な市場をも上回る伸びを示し、購入余力は一段と低下している。ソウルの勤労者所得に対する住宅価格の比率は過去10年でほぼ倍化した。

政策の一部は奏功しているようだ。個人投資家の新規資金流入を受け、主要株価指数である韓国総合株価指数(KOSPI)の年初来上昇率は68%に達し、世界の主要市場でトップとなった。ただし、ソウルで住宅価格の過熱が和らいだ兆しは乏しい。こうした状況を背景に韓国中銀は金融安定リスクに警鐘を鳴らし、米国の関税引き上げが輸出主導型経済に逆風となる中でも、金融政策を据え置く判断につながっている。

ナティクシスのシニアエコノミスト、トリン・グエン氏は「価格があまりに急速に上昇し、手の届きにくさが問題になっている」とし、これにより若年層の住宅取得や家族形成が難しくなっていると指摘。「韓国中銀は現在、不均衡が拡大する中で成長促進政策よりも金融安定を優先している。この不均衡に対する不満と不安がある」と述べた。

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韓国株式市場への過去最高の資金流入は、同国の資産形成における劇的な構造変化を示すものだ。同時に政策当局への警告でもある。政府がソウルの住宅価格高騰を抑え込もうとする中で、若年層は「持ち家の夢」を諦め、代わりに株式市場に資金を投じている。韓国では長年、住宅購入が人生の大きな節目とされてきたが、その前提が揺らぎ始めている。

一方でこの変化は格差拡大も鮮明にした。不動産は依然として手の届かない存在である一方、家計のリスク選好を進め、住宅購入の断念が投資行動のシフトを後押ししている。

韓国の李在明大統領は6月の就任以降、投資家寄りの政策を打ち出すと確約しており、KOSPIを5000まで押し上げることを目指すと公言した。同時に、韓国政府はソウルの住宅市場での投機的行動を抑制するため、一連の対策を公表した。それでもソウルのマンション価格は44週連続で上昇しており、政策当局者の間で懸念する声が強まっている。

 

韓国中銀の李昌鏞総裁はブルームバーグテレビジョンのインタビューで、最近のソウルの住宅価格上昇は「中銀の想定をはるかに上回っている」と指摘。政府の市場沈静策の効果を見極めながら、金融安定に重点を置いた政策運営を行う必要があると述べた。また、若年層による積極的な外国株投資への懸念も示している。

李大統領も不動産市場がバブルの崩壊寸前にあると警告。大統領就任以降、複数の投機抑制策を打ち出してきたが、その効果はこれまでのところ限定的となっている。

原題:Young Koreans Dump Homeowner Dreams to Pile into Soaring Stocks(抜粋)

--取材協力:Susie Kang、Garfield Reynolds、Heesu Lee.

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