(ブルームバーグ):ドイツのメルツ首相率いる与党、キリスト教民主同盟・社会同盟(CDU・CSU)の内紛が深刻化し、発足から7カ月しか経っていない連立政権の崩壊につながりかねない事態に陥っている。
5日に議会で最終的な採決が行われる予定の年金法案を巡ってCDUの若手議員5人が造反する意向を表明し、メルツ氏の権威に挑戦する構えを示した。
連邦議会の定数630議席のうち、CDU・CSU、および連立パートナーの社会民主党(SPD)が占めるのは328議席で、過半数を12議席上回るに過ぎない。採決で過半数を確保できなければ、5月の首相指名選挙での混乱や7月の憲法裁判所判事の任命失敗に続き、メルツ氏にとってさらなる屈辱となる。
否決となれば、党内におけるメルツ氏の権威低下を露呈し、政府の政策遂行能力に取り返しのつかない打撃を及ぼす恐れがある。
SPDのベアベル・バース共同党首は今週、年金法案が可決されないなら、連立政権は終わるかもしれないと示唆した。そうなれば、景気低迷による不安を追い風に極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が支持を伸ばし、一部の世論調査ではAfDが支持率1位となっている中で、総選挙が行われることにもなり得る。

CDU・CSUとSPDは主要課題に対する政策姿勢がもともと大きく異なっていることも障害となり、経済成長の回復や治安・国防の強化、老朽化した道路や橋を修復するといった公約が実現可能だと有権者を納得させることもできずにいる。
政権発足以降、国防・インフラに投資する数千億ユーロ規模の特別債務ファンドなど一連の政策を実施してきたが、効果が表れるには時間がかかっている。
ドイツの代表的な株価指数であるDAXは、新政権が公約していた大型支出への期待から年初来で約20%上昇しているが、メルツ氏が実際に首相に指名された5月6日以降の上昇率は約2%にとどまっている。同国の10年債利回りは20ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)前後上昇し、それよりも期間の長い債券に至っては、財政支出の急拡大を受けて利回りの上昇幅はその倍だ。
産業界はメルツ政権初期の政策の一部に前向きな反応を示す一方、メルツ氏を含む閣僚はドイツの国際競争力を回復させるために必要なスピード感に欠けていると批判の声を上げている。
ドイツ産業連盟(BDI)のペーター・ライビンガー会長は今週、自動車や鉄鋼、化学といった製造業は年末にかけて「どん底に直面するだろう」と警告した。
ライビンガー氏は電子メールで配布した発表文で、「景気が急降下のただ中にあるにもかかわらず、政府は十分に決定的な対応を取っていない。実効性のある構造改革が1カ月遅れるごとに、雇用と繁栄がさらに失われ、政府が将来行動できる余地を大きく制限する」と訴えた。
一方、AfDは不法移民に対する国民の不安を巧みに利用。最高で支持率は27%と、CDU・CSUを2.5ポイント上回る結果を示した世論調査もある。

CDU・CSUが2日に行った党内の予備投票では、若手議員の一部は年金法案に対する反対を崩さず、議会での採決実施に大きなリスクがあることが明らかになった。ただ、野党の左派党が3日、採決での棄権を表明。賛成が反対を上回れば法案は可決するため、64議席を持つ左派党が棄権するなら可決に必要な賛成票は284となり、ハードルは大きく下がる。
それでも、反資本主義を掲げる左翼党の助けを借りた法案通過は政治的に大きな得点にはならず、メルツ氏の求心力強化にはほとんどつながらないとみられる。
原題:Merz in Danger With Business Warning Germany Is in ‘Free Fall’(抜粋)
--取材協力:Michael Nienaber、Zoe Schneeweiss、Christoph Rauwald、Ben Sills.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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