第2次トランプ政権も2年目に入り、「景気の波以上に大統領の個人的な介入がビジネスに影響力を持つ」という新たな現実に米国の企業は直面している。クレジットカード金利の上限設定やベネズエラの石油インフラ再建への協力要請、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長に対する刑事捜査の動きなど、トランプ大統領はこれまでの常識を次々と覆している。

こうしたやり方に一部の経営者からは反発の兆しも見られる。が、トランプ氏の意向がそのまま市場を動かす力となっている今、最高経営責任者(CEO)の多くは政治的な忠誠と経営判断のはざまで、戦略的に厳しいかじ取りを迫られている。

トランプ氏の手法は「法や制度よりも自身への個人的な忠誠を求めるものだ」と、パリ政治学院の歴史家ジョナサン・レヴィ氏は語る。労働組合を重視し、大手企業のトップとは一定の距離を置いていたバイデン前政権とは一線を画すスタイルだ。

今年11月の中間選挙を前に、支持率低下やインフレなどの課題を抱えるトランプ氏は、企業活動に対する干渉を強めるばかりとみられる。では経営者は政権と共存しているように少なくとも見せながら、事業をどう導けばいいのか。多くの関係者が匿名で応じた取材を通じて見えた「トランプ時代を生き抜くCEOガイド」を五つのメソッドに分けて以下に紹介する。

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「接触ルート」を確保せよ

経営者に携帯電話の番号を教えることで有名なトランプ氏は、直接連絡が取れるまれな大統領だ。第1次政権時、アップルのティム・クックCEOを「自ら電話をかけてくる素晴らしい経営者」と評したほどだ。昨年10月には、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOら「現地に住む友人たち」からの電話を受け、サンフランシスコへの連邦軍派遣を中止したと明かしている。

ユナイテッド・エアラインズ・ホールディングスのスコット・カービーCEOは昨年9月のブルームバーグ・ニュースとのインタビューで「好き嫌いは別として、彼は門戸を開いている。問題があれば対話に応じる。同意を得られるとは限らないが、従来の政治家にはない形での対話が可能だ」と語った。

日本の経営者も例外ではない。トランプ氏は2024年12月、フロリダ州に所有する会員制高級リゾート「マールアラーゴ」でソフトバンクグループの孫正義会長兼社長と会談。孫氏はトランプ氏について「リスクをとる勝負師だ。自分も勝負に出なければならない」と強調し、トランプ氏がにやりと笑う場面もあった。

もっとも、トランプ氏へのアクセスは奔放だった第1次政権時に比べ制限されている。また、ホワイトハウスの内情を知る関係者の1人によると、トランプ氏への直通的なパイプを持たないCEOらは、会話が予期せぬ展開になるリスクを警戒し、直接接触することをためらう場合もある。

比較的リスクが低いのはワイルズ首席補佐官や、ベッセント財務長官、ラトニック商務長官ら閣僚を経由するルートだ。ただ、あらゆるCEOがベッセント氏らと直通の仲にあるわけではない。代替策として、経営陣は知名度の低い実務スタッフを通じて政策懸念を伝える動きを強めており、関係者によるとブレア次席補佐官ら側近への接触が広がっている。

ホワイトハウスのデサイ報道官は「経営者がトランプ氏に接触を図るのは、政権内にビジネスへの理解者がいると知っているからだ」と指摘。一方で「トランプ氏は経済界の声に常に耳を傾ける姿勢だが、意思決定要因は米国民の最善の利益になるかどうかの一択だ」と強調した。

水面下で機略を巡らせる

トランプ氏の意向におもねる動きは、水面下から公然のものまで多岐にわたる。関係者によると、同氏は第1次政権時ほどニューヨークの不動産・金融業界に依存せず、現在はテック企業の経営者や、資産家ピーター・ティール氏らリバタリアン(自由至上主義者)への傾斜を強めている。

トランプ氏と親交の深いエヌビディアのフアン氏は昨年12月、ポットキャストの番組で、トランプ氏を「極めて優れた聞き手で、思ったことを素直に話す人物だ」と称賛。政権の対応についても「懸念を伝えたい時など、常に門戸を開いていた」と述べた。こうした関係が実を結び、ホワイトハウスは同社の人工知能(AI)半導体「H200」の中国向け販売を容認する意向だ。

トランプ氏への「アクセス権」を有するCEOにとっては、直接的な対話が鍵となり得る。ブルームバーグ・ニュースは12月、Netflixのテッド・サランドス共同CEOが11月半ばにホワイトハウスを訪れ、トランプ氏との面会に臨んだと報じた。事情に詳しい複数の関係者によると、話し合いは1時間余りにわたり、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーの売却入札を含む幅広い話題が取り上げられたという。

また、パラマウント・スカイダンスによる対抗買収案の発表数時間前には、同社のデービッド・エリソンCEOが大統領と談笑する姿が目撃されている。

公式会談での「献上品」も効果を発揮する。半導体関税の軽減を求めるアップルのクック氏は、24金で作られた台座付きの会社ロゴ入りガラス製プレートを贈呈。11月に関税緩和を求めて大統領執務室を訪れたスイス企業の代表団は、金製のロレックス時計と刻印入りの金塊をトランプ氏に手渡した。

シンクタンク、ブリューゲルのシニアフェロー、ヤコブ・ファンク・キルケゴール氏は「トランプ氏を動かすのは個人の利益だ。中世の君主のような人物で、追従を必要としている」と指摘した。

不満を封じ、「実利」を説け

トランプ氏との交渉の席に着くのは第一歩にすぎない。肝要なのはその後の対応だ。米コンサルティング会社ペンタ・グループのシニアパートナー、ケビン・マッデン氏は、トランプ氏が重視するのは実体経済との結び付きを証明できる企業だと指摘する。雇用創出や米国への投資を強調することが不可欠だ。

最善のアプローチは、特定の問題に対するトランプ氏の意向を把握し、自社がいかに貢献できるかを説くことだ。詳細な説明資料を読まないことで知られるトランプ氏だが、ビジネスの嗅覚に強い自信を持つ。そのため経営陣には複雑な懸案を簡潔に説明する能力が求められる。関係者によれば、視覚的な資料を用いた説明が奏功する場合が多い一方、不満や反論は成果に結び付きにくいという。

関税を巡る応酬は、こうした機微を浮き彫りにする。米ディスカウントストア大手ターゲットのブライアン・コーネルCEOは、包括的な関税が米国の消費者に与える影響について、ワイルズ氏やベッセント氏らと協議を重ねてきた。関係者は、コーネル氏が対決姿勢を避け、一貫してデータに基づく説明を重視したと明かしている。

沈黙も有力な選択肢だ。米ウォルマートのダグ・マクミロンCEOは輸入コスト上昇で値上げを迫られる可能性で、トランプ氏からSNSで「関税を飲み込む」べきだと糾弾されたが、公の反応を控えた。その後、トランプ氏が同社を再び標的にすることはなかった。

対決姿勢を強める経営者は、トランプ氏の怒りを買うリスクを負う。法律事務所マッカーター・アンド・イングリッシュの政府契約・国際貿易部門共同責任者、フランクリン・ターナー氏は「現政権が従来の慣例に縛られないとの実感が広がっている。その姿勢には特有の硬直性があり、正当性があったとしても、一度目を付けられれば、徹底的に追及されるとの感覚がある」と述べた。

「発信の場」が意味を決める

トランプ氏は第2次政権において、自身のメッセージを増幅させる保守系インフルエンサーやメディア、ポッドキャストなど強固な情報基盤を備えた。5月にはホワイトハウスが保守系サイト「ドラッジ・リポート」に似たリンク集約型サイト「WHWire」を開設。ソーシャルメディア戦略の中核にはイーロン・マスク氏のX(旧ツイッター)がある。

こうした新たな環境において好例となったのは、ここ1年間のコカ・コーラの対応だ。トランプ氏は7月、同社が米国内で「本物のケーンシュガー(サトウキビ由来の砂糖)」の使用に「同意した」とSNSに投稿した。同社のほか、主力製品のコーラに使用されていた異性化糖(高フルクトース・コーンシロップ)の供給業者にとって唐突な表明だったはずだ。

これに対し、コカ・コーラは発表資料で、自社ブランドに対する「トランプ大統領の熱意」に謝意を表明。結果的にジェームズ・クインシーCEOはトランプ氏の投稿をマーケティングの好機に変えた。ケーンシュガー使用の商品を投入する際、クインシー氏は政権に近いFOXビジネスの番組に出演し、戦略転換をアピールした。

同様に、米製薬大手イーライリリーのデーブ・リックスCEOも新たな減量薬の国内生産計画を発表する場として、FOXビジネスの番組を選んだ。リックス氏は「米国を再び健康にすることを目指す政権などと協力し、より多くの患者に薬を届けたい」と述べた。

全ては「取引」だ

「トランプ自伝(原題:)」の著者であるトランプ氏は、あらゆるやり取りを「取引」と捉える。トランプ政権において、企業の命運は政権の不興を買わぬよう何を差し出せるかに左右される。

この力学が如実に表れたのがインテルだ。トランプ氏は8月、同社のリップブー・タンCEOに対し、中国との関係を理由に辞任を要求。ただタン氏との会談を経て翻意し、政府がインテルに89億ドルを出資して普通株を取得し、大株主になることで合意した。

この「取引」は、投資家や政策当局が不可侵と見なしてきた自由市場資本主義の原則に逆行する。それでもホワイトハウスはこれを通常の商取引と位置づけ、他社との交渉におけるひな型に据える構えだ。

多くの企業は寄付や米国投資の公約を通じ、政権への忠誠を示そうと腐心する。ホワイトハウス敷地内に新たに建設するボールルーム(舞踏会棟)の費用負担もトランプ氏の支持を得る手段となる。

一方、こうした流れに逆らうのがJPモルガン・チェースだ。ジェイミー・ダイモンCEOは「便宜を図っているようにみられる」リスクを「十分認識している」と語る。ダイモン氏はトランプ氏に関して自由に発言できるまれな存在だが、米企業の大半のCEOにそのような余地はない。

ただ、政権との関係を緻密に管理し続けてきた企業経営陣にとっても、今後1年間は最も困難なかじ取りを迫られるかもしれない。米民主党のシューマー上院院内総務やヒラリー・クリントン元国務長官などの顧問を務めたフィル・シンガー氏は、トランプ氏の政治的基盤がかつてないほど脅かされており「前例のない局面に入ろうとしている」と警告する。

戦略が機能するのは明確なルールがある場合のみだが、トランプ氏はいつでも盤面を変え得る。CEOは自らの戦略をペンではなく鉛筆で描き、常に消しゴムを携えておくべきだろう。

原題:The CEO Guide to Navigating Trump’s Turbulent Second Term(抜粋)

--取材協力:Kristina Peterson、Mary Schlangenstein、Dylan Griffiths、Emily Flitter、Bastian Benrath-Wright、Ian King、Mark Gurman.

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