(ブルームバーグ):米メリーランド州在住の料理ブログの編集ディレクター、ベッツィ・ゴールドスタインさんは、53歳で経験した離婚手続きで、税務書類、退職年金口座、住宅の権利書といった複雑な金融手続きを前に立ち尽くす経験をした。20年以上の結婚生活の中で、そうした作業にほとんど関わってこなかったからだ。しかも、新型コロナウイルス禍が深刻化していた2020年で、状況は深刻さを増していた。
「本当に手取り足取りの支援が必要だった」と当時を振り返るゴールドスタインさん。調停人の勧めで、単なる金融アドバイザーではなく、離婚に特化した専門家に依頼することになった。こうして出会ったのが認定離婚金融アナリスト(CDFA)のジェフリー・バローズ氏だ。ズームを通じて、支出見通しを検証し、離婚後の予算設計を作り上げた。
まずはバローズ氏から「現在の支出と今後予想される支出をすべて書き出してみて」との宿題が出たという。ゴールドスタインさんは5年後の今も同氏の顧客だ。
米国ではバローズ氏のように、人生後半で離婚を経験する人々を顧客とする金融アドバイザーが急速に増えており、米国の資産管理の在り方を変える新たな潮流となっている。
離婚金融アナリスト協会(IDFA)によると、米国では現在約3500人の認定離婚金融アナリストが登録しており、ここ10年で40%増えている。その多くは「離婚経済圏」で中心的存在となりつつある高齢層を相手に、資産管理、退職計画、家族法が絡み合う領域で助言を提供している。

米国では若年層の離婚率が低下する一方、50歳以上の「熟年離婚」の増加が顕著となっている。65歳以上の層では1990年代以降、離婚率が上昇傾向にある。平均寿命の伸び、子供が巣立った後の空虚感、離婚に対する社会的偏見の減少に加え、再婚の場合は初婚よりも離婚率が高いことが背景にある。
「人生後半での離婚は非常に多い」と語るのは、高齢者向け非営利団体AARPの雑誌で個人金融担当の編集者ジョージ・マネス氏だ。「子どもが大学進学で家を出ている、あるは大学を卒業している場合もあるだろう。世間体を気にして結婚生活を続ける社会的圧力は以前ほど強くない。過去の世代に比べ、離婚に対する恥の意識も減っている」という。
IDFAによると、米国の離婚者の約40%は50歳以上だ。この年代はすでに所得稼得の時期の大半または全てを終えており、ここで下す金銭判断の影響は極めて大きい。離婚中または離婚後の誤った判断は深刻な打撃となりかねない。
「その価値は十分あった」
成人期に資産を着実に築いてきた人にとっては、考慮すべき項目がさらに増える。米国の離婚経験者の正確な資産規模を把握するのは難しいが、調査会社セルリ・アソシエイツによると、ベビーブーマーとそれより上の世代から2048年までに合計約100兆ドル(約1京5500兆円)が相続人に移管される見通しだ。
IDFAのキャロル・リー・ロバーツ会長は「退職を控える、あるいは退職中の人々は、十分な退職資産があるかどうかという問題に直面しながら、(離婚で)人生最大級の金融取引を進めなければならない」と指摘。その上で「離婚に伴う税制や資金計画に精通したアドバイザーを持つことは非常に重要だ」と強調する。
認定離婚金融アナリストは、離婚の金融面に関する事項を徹底的に扱う。離婚後の予算設計、税負担の試算、退職口座の分割分析、住居コストの予測などが含まれる。住宅を誰が保持するか、年金をどう分割するか、扶養費が発生するかなど、膨大な選択肢に絡む長期的な影響を可視化することが目標だ。
認定離婚金融アナリストになるには関連業界で少なくとも3年の実務経験が必要で、その後講座を受けて試験に合格する必要がある。IDFAによると、1時間当たりの料金は通常200~400ドル。
ブライアン・キャニングさんは10年以上、金融アドバイザーとして、人生の大きな節目における金銭問題の解決を顧客に提供してきた。5年前に自身も離婚に直面したキャニングさんは、手続きを円滑化するため中立的な第三者として認定離婚金融アナリストを雇った。
「感情的なプロセスを公平性を基にした数値ベースのプロセスに変換できた」とアドバイザーを評価する。雇った専門家は1時間約300ドルの報酬を請求したが、キャニングさんは「その価値は十分あった」と話す。実際、離婚をより円満に進めたことで弁護士費用の過剰支出を回避できたと感じている。
「数字に関する話し合いを進める上で、公平な立場の人がいることは大きな助けになった」と話した。
原題:Older Americans Divorcing in Droves Fuels Wealth Advice Bonanza(抜粋)
--取材協力:Mark Glassman.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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