(ブルームバーグ):料理ブロガーのエブ・ガルガノさんは、レシピをオンラインで公開し始めてから長い年月がたち、自身のウェブサイトのアクセス数が季節ごとにどう変化するかを把握している。米国の読者がストレスなく作れる七面鳥の調理法を検索し始める時期や、クリスマスケーキのレシピが毎年グーグル検索の上位へと上がり始めるタイミングも予測できる。
だが今年は、そうしたおなじみのパターンが崩れている。ガルガノさんが10年かけて磨き上げたレシピにユーザーを導く代わりに、グーグルは最近、ガルガノさんや他の料理家のコンテンツを断片的に組み合わせた人工知能(AI)生成の要約を差し込むようになっていると言い、その多くが基本事項からして誤っている。
例えば、ガルガノさんのクリスマスケーキのレシピをAIが組み立てたバージョンでは、6インチのケーキをセ氏160度で3-4時間も焼くよう指示されていた。
「それでは炭になってしまう」とガルガノさんは言う。一方、七面鳥のレシピへのアクセス数は前年比で早くも40%減っている。
ガルガノさんのようなレシピブロガーによれば、検索やチャットボットのAI回答、そしてAIが混ぜ合わせて作ったレシピを消費者が信頼するようになったのは、ホリデーシーズンとしては今回が初めてだという。ビジネスに悪影響があるだけでなく、AI生成の美しい写真に引き付けられた読者が化学的に成立しない、またはまずい仕上がりになるレシピに手を出してしまえば、ホリデーディナーも台無しになりかねない。
インタビューに応じた独立系フードクリエイター22人は、AI生成の「レシピの粗製乱造」が、料理情報を探すほぼあらゆる方法をゆがめ、彼らの事業を損ねる一方、消費者も時間とお金を無駄にすることになると語る。
インターネット全体で、しっかりと検証されたレシピがAI生成情報の氾濫によって埋もれているとライターらは主張する。ピンタレストのフィードは、レシピ通りに作っても到底再現できないAI生成の料理写真であふれ、グーグルのAIによる概要は、プロのサイトからクリックを奪う誤りの多い調理手順を提示する。
さらにフェイスブックでは、コンテンツファームがAIで生成された「おいしそうだが不可能な料理」の画像をフィード上位に表示させ、クリックを広告収入に変えようとしている。
明らかな誤り
こうした動きは、フードブロガーが大切にしてきたレシピの約束である「誰かが実際にその料理を作って検証した」という保証を侵食する。ガルガノさんにとって、これこそが問題の核心だ。「どれだけ賢くても、AIは実際のキッチンでレシピをテストし、その出来を確認することは絶対にできない」と、最近のインタビューで話した。
フードブログのトラフィックは、ジャンルやプラットフォーム、読者層、季節によって大きく変わる。しかし、AIが提供する情報はどこにでもある。
メキシコ料理ブログ「Muy Bueno」を15年運営するイベット・マルケスシャープナックさんは最近、19万人超のフェイスブックフォロワーに警告した。今月に入り、AIで生成したメキシコ版ちまき「タマレス」の写真を2枚投稿し、1枚には外皮を付けたままソースがかけられ、もう1枚にはタマレスが蒸し器の中で横倒しになっていた。いずれも明らかな誤りだと彼女は説明した。
外皮は食べるものではなく、ソースをかける前に外す必要がある。また、タマレスは生地が均一に調理されるよう、立てて蒸すべきだ。「こうした小さなディテールが大きな警告サインになる」と、マルケスシャープナックさんは読者に伝えた。「レシピを探すときは、実際に料理をテストする信頼できる人間の料理家が発信しているものを選んでほしい」と語る。
問題を実感したのは昨年のクリスマスだった。夫がフェイスブックに投稿されていたマラスキーノ・チェリー入りチョコチップクッキーのレシピを試したがったのだ。マルケスシャープナックさんは、写真のクッキーがあまりに完璧なピンク色だったため怪しいと思ったが、夫は「フェイスブックに載っていたから」とこれを信じた。
結果はクッキーになるはずが、溶けて個々の形を保てず、シート状になってしまい、味も甘過ぎた。「大失敗」だったと、マルケスシャープナックさんは振り返る。
一方、マルケスシャープナックさんは自身の写真が無断でフェイスブックやピンタレスト、さらにはエッツィでも使われているのを目の当たりにした。トラフィックの大半がなおグーグルから来るため、マルケスシャープナックさんは読者に対し、クリックする前にURLなどの確認、不自然に光沢のある画像への警戒を促している。
エッツィとフェイスブックの親会社メタ・プラットフォームズにコメントを求めたが、返答がなかった。ピンタレストはクリエイターのトラフィックについて多様な理由で変動し得るとし、自社の生成AIツールは人間の創造性を置き換えるものではなく、補完するためだと強調した。
一方、グーグルは資料で、「AIによる概要は料理を学ぶための有益な出発点となることも多いが、人々はオリジナルのレシピをなお読みたいと考えている。良いユーザー体験を持つ有用なサイトを見つけてもらいやすくすることに注力している」と説明した。
不安と諦め
「Clean Eating Kitchen」を運営するキャリー・フォレストさんにとって、AIの影響は壊滅的だった。トラフィックと収益の80%が2年で消失した。閲覧回数はChatGPTの登場と共に減少し始めていたが、グーグルが検索にAIモードを導入するとトラフィックが一気に減ったという。その後、約10人いたスタッフを解雇せざるを得なくなった。「私も別の仕事を探さないといけない」と漏らす。
フォレストさんにとって、今年のホリデーシーズンはここ数年で最も低調になりつつある。さらに多くのクリエイターが撤退すれば、AIが参照できるのはAI自身が生成したコンテンツだけになるのではないかと懸念している。そうなれば、「AI同士が自分に話しかけているような状態となり」、それを参考に料理を作っても仕上がりがどうなるかも分からないことになる。
数カ月に及ぶ環境変化を見守った結果、多くのブロガーは、このホリデーシーズンを不安と諦めの入り混じった気持ちで迎えている。
長年運営されている料理サイト「Pinch of Yum」の共同創設者ビヨルク・オストロムさんは、「これは私たちのようにインターネットでコンテンツを作成して生計を立てる事業者にとって、最も存在意義に関わる局面だ」と指摘。コンテンツの表示場所だけではなく、「コンテンツが作られる仕組みそのもの」にも変化の波が及んでいると述べた。
原題:AI Slop Recipes Are Taking Over the Internet — And Thanksgiving Dinner(抜粋)
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