ウクライナ和平案の重要項目を巡り外交当局が協議を続ける中、草案に盛り込まれていながらほとんど注目されていない論点がある。米国とロシアのビジネス発展を見込んだ優遇条項だ。

ロシアのプーチン大統領の経済特使で、政府系ファンドを率いるキリル・ドミトリエフ氏と、ウィトコフ米特使が中心になってまとめた和平案には、エネルギーやレアアース(希土類)、データセンターを含む「長期的な経済協力協定」の構想が盛り込まれている。共同プロジェクト向けの米ロ投資ファンドを設立し、「紛争再発を防ぐ強力なインセンティブ」を作るという。

だが、別の解釈もある。ともに実業家出身の特使が、トランプ米大統領を引き留める強い動機づけを目指しているというものだ。

トランプ氏が世界と関与する際、外交政策の大きな構想と商業的利益が密接に結びつくケースが多い。パレスチナ自治区ガザの停戦を仲介する前には、ガザを中東の「リビエラ」にするという構想を描いた。

ウクライナ和平案に同様の発想が見られる背景には、プーチン大統領側が、トランプの取引重視とビジネス志向をくすぐる計算があると、元米中央情報局(CIA)中央ユーラシア担当幹部のロブ・ダネンバーグ氏は指摘する。

「プーチン氏が米国との商業取引に大きな関心を持っているとは思わない。彼が関心を持つのは、交渉相手のトランプ氏がそれを重視するかという点だ」と語った。

米軍基地で開かれた共同記者会見に臨むロシアのプーチン大統領(左)とトランプ米大統領(アラスカ州アンカレッジ、8月15日)

もっとも、こうしたビジネス優遇条項を盛り込んだ初期の案がこのまま残るとは限らない。米国、ウクライナ、欧州の外交官は書き換えを巡って交渉を続けている。特に欧州側は、ロシア関連の凍結資産を米ロ投資ファンドの原資に充てる案に反発しており、その資金はウクライナに回すべきだと主張している。

ホワイトハウスのケリー報道官は、和平案に含まれるビジネス分野の項目について問われた際、ルビオ国務長官がジュネーブでウクライナ当局者と協議後、23日に記者団に語った発言を挙げた。ルビオ氏は和平案を「生きて呼吸する文書」と表現。大きな進展があったと述べたものの詳細には触れなかった。

米ロ側ではさまざまな構想が浮上している。ドミトリエフ氏は、イーロン・マスク氏にベーリング海峡の海底に両国を結ぶトンネルを建設してもらうという、実現性の極めて低い案まで示した。

どんな妥協案であれ、仮にプーチン氏がそれを受け入れて戦争が終結したとしても、ビジネス分野で協力する新たな時代に立ちはだかる障害は多い。

米ロの商業的な結びつきは長い間、限定的だった。ブルームバーグが集計したデータによれば、両国間の物品貿易額は昨年44億ドル(約6900億円)にとどまった。2022年のウクライナ侵攻、14年の一方的なクリミア併合以前も、ロシアは米国の主要貿易相手国15カ国に入らなかった。

 

10年以上にわたる厳しい制裁を経て、米企業はロシア市場で相当なリスクに直面する。トランプ氏が制裁緩和を約束することもできない。エリザベス・ウォーレン上院議員が24日に指摘したように、制裁緩和には議会の精査が必要だ。和平合意が成立したとしても、再び関係が悪化する可能性もある。

西側諸国の多くの企業は、戦争が終結してもロシア市場への復帰に慎重姿勢を崩さないとみられる。ロシア政府も多くの企業が戻ることに前向きではなさそうだ。

原題:In Trump-Putin Peace Gambit, Both Sides Bet on Business Lure (1)(抜粋)

--取材協力:Patrick Donahue、Adrienne Tong.

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