人工知能(AI)への投資加速に向け、テクノロジー企業が数千億ドル規模の資金調達に動く中、金融機関や投資家の間では、事態悪化のリスクに備える動きが強まっている。

銀行や資産運用会社は、「ハイパースケーラー」と呼ばれる大手テクノロジー企業がデフォルト(債務不履行)に陥った場合に支払いを受けられるデリバティブ(金融派生商品)の取引を活発化させている。

信用保護の需要が高まった結果、オラクル債の信用デリバティブのコストは9月以降で2倍強に上昇した。バークレイズのクレジットストラテジスト、ジガー・パテル氏によると、オラクルに関連するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の取引額は、11月7日までの6週間で約42億ドル(約6500億円)に達した。前年同期の取引額は2億ドル弱だった。

JPモルガン・チェースの投資適格債ファイナンス部門グローバル共同責任者、ジョン・サービディア氏は「この数年低調だった単一銘柄CDSの議論に、再び顧客の関心が集まっている」と述べた。その上で「ハイパースケーラーは高格付けだが、借り入れ規模が拡大し、投資家のエクスポージャーが増えている。当然のこととして、ヘッジに関する顧客との対話が増えている」と語った。

オラクルの担当者はコメントを控えた。

今後見込まれる社債発行額に比べれば、取引規模は引き続き小さいとトレーダーは話す。ただ、ヘッジ需要の増大は、AIを通じて世界経済の再編を目指すテクノロジー企業の存在感が資本市場で高まっていることを示している。

JPモルガンのストラテジストによれば、投資適格企業による社債発行は今後数年で1兆5000億ドル前後に達する可能性がある。過去数週間ではAI関連の大型起債が相次いでおり、10月末にはメタ・プラットフォームズが300億ドルの社債を発行した。これは今年の米市場で最大の社債発行。オラクルも9月に180億ドルを調達している。

JPモルガンが先月公表したリポートによると、テクノロジー企業や公益事業、AI関連の借り手は現在、投資適格市場の最大の部分となっており、長年首位だった銀行を上回った。世界各地でデータセンター建設が進む中、今後はジャンク債(投機的格付け債)など他の主要債券市場でも、借り入れ需要が広がりそうだ。

トレーダーの話では、テクノロジー企業の単一銘柄CDSの最大の買い手の一部は、過去数カ月でこうした企業へのエクスポージャーが急増している銀行だという。

デリバティブ需要のもう一つの源泉は、株価下落に備えて比較的低コストでヘッジを目指す株式投資家だ。データ提供会社ICEデータ・サービシズによれば、オラクルが今後5年以内にデフォルトに陥るリスクに対して保険をかける場合、そのコストは14日時点で約1.03ポイント(債券元本1000万ドル当たり年間10万3000ドル前後)だった。

一方、来年末までにオラクル株が約20%下落するリスクをヘッジするプットオプションの購入コストは、14日時点で100株当たり約2196ドル、対象株のバリューの約9.9%に相当するという。

資産運用会社や融資機関が現在、エクスポージャーを減らそうとするのには理由がある。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究プロジェクトが今年発表したリポートによると、生成AIプロジェクトから投資収益を得られていない企業は全体の95%に上る。

現在の主要な借り手の一部は高いキャッシュフローを持つ企業だが、テクノロジー業界は変化が激しい。時代の流れで存在感を失う企業もある。データセンター事業の収益が現行の想定を下回れば、現在は安全と見受けられる社債でも、将来的にリスクが高まったり、最悪の場合はデフォルトに陥ったりする可能性がある。

メタ・プラットフォームズに連動するCDSは、同社の大型起債を受けて先月末に初めて活発な取引が始まった。AI向けクラウドサービスを手がけるコアウィーブに関連するデリバティブも取引が活発化している。同社の株価は10日、顧客契約の履行遅延により通期売上高見通しを下方修正したことを受けて急落した。

金融危機前の数年間、投資適格級の単一銘柄クレジット・デリバティブ市場は、現在よりも取引量が多かった。銀行の自己勘定取引担当者やヘッジファンド、銀行の融資ポートフォリオ運用者などが、リスクの調整を目的にこうした商品を積極的に利用していたためだ。

しかし、リーマン・ブラザーズの経営破綻後、単一銘柄のクレジット・デリバティブ取引は減少し、市場関係者は取引量が金融危機前の水準に戻る可能性は低いと話す。現在では、社債上場投資信託(ETF)をはじめとするヘッジ手段が増えており、債券市場自体も電子取引の普及で流動性が高まっている。

コヒーレンス・クレジット・ストラテジーズのサル・ナロ最高投資責任者(CIO)は、最近の単一銘柄CDS取引の増加は一時的な動きだとみている。同社の運用資産は7億ドル。ナロ氏は「現在のCDS市場の活況はデータセンター建設ブームによる一時的な現象だ」と述べる一方、「CDS市場に本格的な復活が見られれば、これほどうれしいことはない」と語った。

一方、銀行のトレーダーやストラテジストは、取引活動が現時点で増えていると指摘。バークレイズパテル氏の分析によれば、今月7日までの6週間で、個別企業に連動するクレジット・デリバティブ全体の取引額は約930億ドルと、前年同期比で約6%増加した。

バークレイズの米国クレジット戦略責任者、ドミニク・トゥブラン氏もインタビューで、「取引活動が活発化している」と述べ、「関心は確実に高まっている」と指摘した。

原題:AI Debt Explosion Has Traders Searching for Cover: Credit Weekly(抜粋)

--取材協力:David Marino.

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