一時的な歩み寄りで緊張緩和も、根本課題は山積

米中関係を巡っては、中国政府が突如先月9日にレアアースの輸出管理強化策を発表し、直後にトランプ米大統領が中国に対する追加関税を100%に大幅に引き上げる方針を示すなど、関係悪化への懸念が急速に高まった。

しかし、トランプ氏の言動は、過去にもTALO(暴言)とTACO(尻込み)が繰り返され、最終的には収束してきた経緯がある。その後も米中両国は実務者レベルでの協議を継続するなど意思疎通を継続してきた。

そして、先月末の韓国でのAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議のタイミングに合わせて開催される米中首脳会談に向けて、その直前にはクアラルンプールで閣僚級協議が行われるなど『地ならし』も行われた。

クアラルンプール協議では、中国によるレアアースの輸出管理強化策の1年延期と米国による追加関税の撤回、中国による大豆など米国産農産品の輸入拡大、米国が問題視する合成麻薬フェンタニル対策への中国の協力といったテーマが事前に協議された。

その結果、米中首脳会談では、クアラルンプール協議の合意内容に沿って中国によるレアアースの輸出管理強化策を1年延期し、それに伴い米国は100%の追加関税を撤廃することで合意した。

さらに、中国はフェンタニルの違法取引の取り締まり強化で合意し、これに呼応して米国はこの問題を理由に課してきた追加関税(20%)を10%に引き下げることで合意。

加えて、米国は輸出管理措置(貿易制限リストへの中国企業の追加と中国船に対する入港手数料の徴収)を1年間停止させ、中国も米国関連船舶への特別港湾料の徴収を停止する。

また、本日(11月10日)に迫った関税の上乗せ分についても、米中ともに1年間延長することで合意し、緊迫感が強まった米中関係は一旦落ち着きを取り戻している。

世界経済のさらなる分断を招きかねない米中摩擦の緩和は、世界経済の下押し懸念の後退に繋がることが期待される。

その一方、一連の会談では両国の懸案事項であるAI(人工知能)向け半導体、サイバーセキュリティ、人権問題、台湾問題などは協議されず、今回の合意で米中間の懸案事項がすべてクリアになった訳ではない。

よって、先行きも米中関係を巡る懸念が再燃する可能性に注意が必要である。